1. 経済成長の処方箋 は 貧困を克服できたか? 世界が経済協力援助に本格的に取り組むのは1960年代以降 GNPの成長を目標とする 「近代化論」 経済協力援助は貧困撲滅に成功したとは言えない 事例 : 「国連開発の十年」(第1〜4次) 第1次 (1960年代) 経済成長率目標5%はほとんどの国が達成 急激な人口増加、一人当たり国民所得の格差拡大 第2次 (1970年代) 経済成長率目標6%はほぼ達成 石油危機による世界不況や南南問題の顕在化 第3次 (1980年代) 経済成長率3%に落ち込む 「失われた十年」 経済のパフォーマンス落ち込み、債務危機 第4次 (1990年代) 貧困・飢餓の残存 人口問題、環境問題などの顕在化 経済協力援助への反省 途上国自身の自助努力の要請や途上国内部の合理化(構造調整)推進 90年代以降は 「開発のあり方」自体が問われている 結果として、経済発展はあるが、逆に格差拡大 今なお、1日1ドル以下で生活する人びとが世界に13億人 (5人に1人) 1日2ドル以下とすると、およそ30億人 (世界人口の半数近い) 2. 経済成長優先から総合的な処方箋へ 経済成長優先主義は、「市場自由化」と「輸出志向」を不可欠な要素として発展 1980年代後半には、アジアNIESを例外として、大半の諸国の経済は悪化 次の観点からの見直しが必要 a) 「市場の自由化」 には政治的・制度的前提が必要である b) 市場メカニズムだけでは、貧困、環境、人権等の諸問題を解決できない アジアNIESとその他の国々を分けたものは何だったか? そもそも、市場を補完する制度・組織が必要なのではないか? これらに配慮する開発のあり方とは? ↓ 内発的発展の志向、「開発」の意味そのものの問い直し 3. アマルティア・センと人間開発 セン Amartya Sen は、アジア人初のノーベル経済学受賞者でインドの開発経済学者 基本概念は 「潜在能力(capability)」 すなわち、個々人に与えられた選択能力 これまでの開発経済学が経済成長の観点からのみ開発を考えてきたことを批判 ↓ 貧困とは、所得だけでが物差しでなく、人間としての諸行動が実現できない状態 開発とは、そうした剥奪(deprivation)を克服すること、すなわち、自由の拡大 政治的権利・経済的便宜・社会的機会・情報透明性・救済保護の保障を重視 不可欠なのは、人びとが社会の主体となり、参加型民主主義を実現すること センの考え方は、国連開発計画(UNDP)の『人間開発報告』(1990-)に採用 人間開発指数(HDI)で開発を計測する 「人間開発アプローチ」 変数は、1人当たりGDPに加えて、平均寿命と教育達成度 1997年版からは、世界の貧困に対して 「人間貧困指数(HPI)」 を提案 40歳までの寿命確率、識字率、水源利用および低体重の子どもの割合 1998年版からは、北の国々の 「人間貧困指数(HPI-2)」 を提案 60歳の寿命確率、識字率、可処分所得が中央値の50%未満の割合、長期失業者率 ↓ HDI および HPI 上位国(2005) HDI : @ノルウェー Aアイスランド Bオーストラリア HPI-2 : @スウェーデン Aノルウェー Bオランダ ちなみに、数年前までベスト10に入っていた日本は、最近は下落・・・ 4. 「貧困」とは? 「開発」とは? そもそも 「開発 Development 」 の原義は、 ” De+Envelop ” で 「封じ込められた状態からの解放」 ↓ 「貧困」は、ここでは 「封じ込められた状態」 貧困を 「経済的欠乏」 だけで捉えることはできない ↓ 封じ込められる関係性とはいかなるものか? 関係性の改善はいかにして可能か? <文献紹介> ・ 『自由と経済開発』(アマルティア・セン、日本経済新聞社) ・ 『貧困の克服』(アマルティア・セン、集英社新書) ・ 『貧困と開発』(小貫 他、開発教育協会) [ 戻 る ] |