「かわせみ」には実に多くの花が登場します。
いろいろな四季の花々が美しく咲いて人々の心の向きを変えることも。
「かわせみ」の庭のたくさんの花や木も旅人の心を癒しています。


かわせみの庭には白梅・紅梅、玄関脇にはが一本、中庭には藤棚がありいい香りを漂わせる。
裏には桐の木。居間の外には百日紅、秋には嘉助が丹精した菊が咲き、楓と柿が彩りを添える。
居間と女中部屋の間の小庭には山茶花が咲いている。

小野寺昭さんのHPから始まった素敵な素敵な出会い。
プロのイラストレーターであるキクコさんが「かわせみの花々」を描いて下さいました。
お忙しい中、素敵なイラストをお送り頂いて本当にありがとうございます。


原寸イラストはこちらでご覧下さい!

  水郷から来た女
見事な藤であった。薄紫の大きな花房がいくつも垂れて、あるかなしかの風にかすかに揺れている。
藤の花から東吾はるいを連想していた。
  桐の花散る
大川端の宿、「かわせみ」の庭には桐の木があった。
るいが「かわせみ」を始める前からあったもので、薄紫の花が咲くその一本を伐ってしまうのが惜しくて、建増しをする時も、わざわざ避けてくれるよう大工に註文をつけたのだが、日当りのいい場所にあるせいか、毎年、桐にしては早く花が咲く。
なんにしても、この花が咲くと、「かわせみ」ではぼつぼつ夏の仕度が始まるのであった。
卯の花  卯の花匂う
「おい、この花だよ」
気がついて、東吾はるいを垣根の外へ連れ出した。
「卯の花ですよ、これは……」
「こいつが咲いて、匂ったんだ……」
神社の石段の下に一群れ咲いていた野の花が、人の心のむきを変えた。
牡丹  牡丹屋敷の人々
薄桃色の大輪の花が咲いている。
そのむこうには、もっと紅い牡丹が、更にその先の畑には、まだ蕾の牡丹が何十株も植えてある。
「これは、もう少々、遅くに咲きますの。白い牡丹で、兄が私の名をとって、小雪とつけました」
成程、牡丹畑には各々の名を書いた木札が立てられていた。
薄桃色のは「貴妃」、濃い紅色のは「紅艶」、そして、「小雪」。
朝顔 卯の花匂う他
出窓に、るいが丹精したらしい朝顔がかなり伸びている。

日本の夏と言えば「朝顔」を思い浮かべますが、「かわせみ」の庭にもるいさんや嘉助さんが丹精した朝顔が、紅や紫の大輪の花を咲かせています。
朝顔が登場するお話はこちらです。

桔梗  虫の音
海からの風は、もう秋で、東吾はなんとなく、大川端の「かわせみ」の庭に咲いている桔梗を思った。
方月館の稽古はあと五日、それが終らねば大川端へは戻れない。
撫子  八朔の雪
るいは白地に秋草を染めた着物に亀甲の地紋の帯を締めていて、今日は髪結いが来たらしく、結い立ての髪に浅黄の手柄がよく映えている。
吉原へなんぞ行きたくもない、というのがその時の東吾の心境だが、今更、男の約束を反古には出来ない。
  白萩屋敷の月
根岸へ着いたのは日が暮れて間もなくで、思わず息を呑んだのは、白萩屋敷の萩が満開だった故である。
垣の内は、どこも白い花が重たげに枝を埋め、花の下には花が散りこぼれていた。


こでまりさんの「はいくりんぐ」9月のお話は「白萩屋敷の月」。そこで当HPでも「かわせみ」に登場する「萩」を探してみました。こちらからどうぞ。
山茶花  山茶花は見た
そして、ぼつぼつ、初霜をみる朝、るいの居間と女中部屋との間にある小庭に山茶花が咲く。
「おい、今年はちっとばかり早いんじゃないか」
「かわせみ」へ泊った翌朝に、珍しく早起きして木剣の素振りをしていた東吾が、居間で茶の仕度をしている、るいに呼びかけた。
山茶花のことだと、るいもすぐに気がついて縁側へ出る。
  梅一輪
源三郎が懐から小さな枝を取り出した。梅が一輪、咲いている。
「おまさが東吾さんに渡してくれといいましてね。明神様の境内に咲いていたそうです」
「馬鹿、そんなもの、『かわせみ』へ持ってくる奴があるか」
るいの足音が廊下を戻って来た。
たった一輪なのに、部屋には花の香が甘くただよっている。
  黄菊白菊
庭へ廻ってみると、松浦方斎は善助や正吉と菊の鉢を眺めている。それは、見事な大輪の黄菊、白菊で、平素は殺風景な方月館の庭が見違えるほど華やかであった。
「これは良いところへ参った。これほどの菊は江戸でも少かろうが……」
方斎の菊自慢に、東吾は苦笑した。
菜の花  菜の花月夜
川のむこうは、まっ黄色の花で埋まっていた。どこまでも、菜の花だけが長く広く続いている。
「きれいだろう」
息を呑んでみつめているるいに、東吾がいささか得意そうにいった。
「昨日、長助と、この先を通ったんだ。あんまり見事なんで、るいに見せてやりたくなったのさ」
   


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