「かわせみ」も明治編が始まり早1年。今ではすっかり東京の「かわせみ」にも馴染み、キッズ達の活躍を喜びつつ、新しいお話を楽しみにしています。
でもやっぱり江戸の「かわせみ」は格別なもの。春霞さんが当HP開設10周年の記念にお送り下さったのは、この作品です!

春霞さん制作秘話

web開設10周年おめでとうございます。
またもや大っぴらに飾れぬものを作りました。女の情念の凄さを垣い間みるようなお話「白萩屋敷の月」をお届けします。
いつものことながら情念系は難しいです。憂いを帯びたような表情がなかなか出来ませんでした。この辺で力尽きました。ケロイドはとても描けませんでした。やけどの跡があるつもりでご覧いただけたらと思います。湯文字をチラリとさせたのは画面に色味がないのと東吾さんを煽る意味で...(“小細工はせんでもよろし”と天の声が聞こえた)
それにしても東吾さんは罪つくり、情にほだされて「えーい、どうともなれ!」って事に及ぶ、こういう男を恋人や亭主に持つと女はたまりませんね。つねるくらいじゃ引き合わないわ、(憤慨しなくてもこれはお話よぉ)うちの亭主は源さんみたいに堅物だったけど面白みには欠けたかなぁ(“贅沢言ってはならぬ”と又々天から声あり)

時々送って下さる情念系、春霞さんは難しいとおっしゃいますが、いえいえどうしてかなり色っぽいです!湯文字ちらりもドキッです(笑)(管理人)


香月さん
 
香月さん
女主人は奥のほうの部屋で、花をいけていた。縁側に斜めにむいた格好で、そっちから案内された東吾には、女主人の左の横顔がみえる。
誰だろう、と、最初、東吾は思った。
藤色の単衣に透ける紗の白っぽい被布を着ている。まるで、萩の花の精がそこにすわっているような、清楚であでやかな印象であった。決して若くはないが、匂うような美貌は年齢を感じさせない。




兄のお使い
「今夜、其方が行ってくれぬか」
なにか見舞に、といいかけて通之進は手文庫から一冊の本を出した。
「伊勢の御、といわれた歌人の歌集だ。先だって、手に入れたのだが、お気晴らしにと持って行ってくれ」


「伊勢集」読みましたが結構濃いです。兄上も香月さんの気持ちを知らぬとはいへ罪なことを・・・(春霞さん)

乱れる
夜気の中に花の香がかすかに漂って来て、東吾は陶然となった。白い花が闇の中にぼうっと浮び上っているのは、神秘的であった。
衣ずれの音がして、女主人が入って来た。白縮緬に墨絵で萩の花群が描かれている。帯はなく、鴇色のしごきを前に結んだだけであった。
「やっぱり、来て下さいましたのね。花の盛りに……」

今宵一夜の想い出を・・・
「一度でいい、一度でいい、と、それだけを思いつめて……でも、こんな醜い顔になってしまって……私が通之進様に抱かれたのは、夢の中だけでございます」
「そのことを、兄にいわれたのですか」
涙が更にぼろぼろとこぼれた。
「口に出すくらいなら、死にます」
香月の体が異様なほど熱くなっていた。抑えても抑えきれないものが、女の体を蛇のようにくねらせて、両手で東吾にすがりついてくる。
生涯、命と思って抱きしめて来た恋歌を火中にしてしまった代りに、煩悩に火がついたようである。
「一度だけ、あなた……」

引用はすべて「白萩屋敷の月」より

                                     

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