春霞さんからとってもとっても素敵なゲストキャラが届きました♪
たった一度だけの登場でしたが、いつまでも心に残る、そんな素晴らしいゲストの登場です!「かわせみ」のみんなの心にも決して忘れることの出来ない素敵な思い出を残していったことでしょう。
今回も表情、お着物をしっかり見て頂きたくて、全てクリックして頂くとかなり大きな(笑)画像がご覧になれますので、ぜひじっくり拝見してください♪

春霞さん制作秘話

全篇を通して登場するキャラクターは焦点をどこに絞ればいいのか掴みにくかったのですが、ゲストキャラは1話に凝縮されているためイメージ作りも容易です。

「岸和田の姫」は花姫に接する人たちの優しい気持ちが伝わってくる大好きなお話です。これは作ってみたいと前々から思っていました。お姫さまですから、あまり安っぽくしたくなかったのでお着物、髪飾り、はこせこなどちょっとした散財をしました。
今回なくてはならぬ小道具の鳩笛は紙粘土で目はビーズをはめこみ羽などは顔彩で色付けしています。
お忍び姿は大店のお嬢さんというようにしてみたのですがいかがでしょうか。
制作中はすっかりお話の世界に入り込んでいて、花姫さまのお声が聞こえてくるようでしたし、鳩笛を持たせた時には思わずうるうるしてしまいました。幸せな気分でできた作品です。


その日、江戸の桜は満開であった。
花姫を乗せた駕籠は早朝に渋谷の下屋敷を出た。目立たぬよう、ごく普通の乗り物である。
赤坂見附まで東吾が出迎えて、そこから、まっすぐ大川端の「かわせみ」に入る。
「かわせみ」の客間で、待っていた髪結いが、花姫の髪を町方の娘のように結い直し、るいが用意した友禅の町方の娘の着物に着替える。
「東吾を呼んで下さい。東吾にみてもらいます」
支度が出来ると、花姫は嬉々として、東吾を呼び、その前で両手を広げてみせた。
「これで、町方の娘にみえますか」

                                                     「岸和田の姫」

「かわせみ」では、板前が腕をふるった夜の膳が花姫を歓待した。
「東吾も宗太郎先生もお相伴して下さい」
気持のよいほどの食欲で膳の上のものを食べ、花姫はるいに案内されて別室へ行った。
再び、出て来た時は、岡部家の姫君に戻っている。
「花のために、いろいろと苦労をかけました。心からお礼を申します」
これを、と髪に挿したばかりの珊瑚のかんざしを抜いた。るいへさし出す。
「東吾の妻になる人なのですね、幸せを、泉州より祈り上げます」




駕籠が上り、行列が動き出した。
神林通之進の一行は赤坂見附まで、東吾は単身、行列について渋谷の岡部家下屋敷まで行った。
「姫、東吾殿がお別れを……」
乗り物に用人が近づいて声をかけると、戸のむこうから、小さく叫んだ。
「開けないで……」
明らかに泣き声であった。
八丁堀から渋谷まで、駕籠の中の花姫は泣き通していたのだろうか。
東吾は土に膝を突いた。
「これにてお別れ申します。末永く、お幸せに……」
用人や乳母が、東吾に頭を下げ、行列は吸い込まれるように、下屋敷へ入った。
見送っている東吾の耳に、やがて聞こえて来たのは鳩笛の音であった。
途切れ途切れに、しかし、懸命に花姫は鳩笛を吹いている。
春の夜の中に、東吾はいつまでも鳩笛を聞いていた。


花姫

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