アラン・ギルバート指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
2014年2月13日(木) 19:00開演 サントリーホール



NYフィルを聴くのは6年以上ぶり。(前回はマゼールだったと思う。)随分印象が変わったような気がする。前回のときは、さすが世界一の街のオーケストラ、洗練されているけど、ちょっと気障かななどと思いながら聴いていたが、今回は、全くそういう印象は浮かばなかった。指揮者の違いなのか、時間の変化なのかは分からないが、5年以上も経てば、オケも随分変わるのだとは思う。
その変化の印象は、必ずしも肯定的なものではない。特に、2曲聴いたベートーベンの違和感がどこから来るのか分からないが、「本当にこの曲ベートーベン?」という感じすら残った。
ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲は、初めて聴いたが、ショスタコ苦手の私としてもいい曲だと思う。この曲については、オケも、良かったと思うが、なんと言ってもバティアシュヴィリのヴァイオリンが良かった。端正な立ち姿通りの演奏は、とにかく気持ちよい。また、グァルネリの音色もその演奏スタイルにぴったりだった。特に、理性と熱情のバランスのとり方がとにかくいいと思った。(ぐっと理性に寄っているのだが。)
最後のガーシュウインは、さすがに良かった。そう思って聴くからということもあるのかも知れないが、これだけの演奏ができるのに、あのベートーベンは一体何だったろうと思ったくらいだ。
アンコールの最後に演奏された「ローザムンデ」の弦楽器の豊かな情感を聴くと、やはり指揮者の影響が大きいのかなと思ってしまう。

紀尾井シンフォニエッタ東京第93回定期演奏会
2014年2月22日(土) 14:00開演 紀尾井ホール



例によって紀尾井のオケは、水準が高い。そして、今日のプログラムは、ハイドン、モーツァルト中心で、まさにKSTの為にあるようなものだ。だから、なんの文句もないはずなのだが、何となく物足りない。オーソドックスなのか、平凡なのか、どうもよく分からないという感じなのだと思う。チェロのソロについても、同じような感想が残る。何となく指揮者のせいのような気がするのだが、如何なものだろうか。

シュニトケの曲は、ステージが完全に暗転して始まる。それ以外にも色々な趣向があって、面白いといえば面白い。しかし、「でもそれで?」という気がする。「新鮮な」というより「奇をてらった」といった方が正しいのではないかと、ちょっと意地悪な感想が浮かんだ。

この値段で、この水準の演奏を聴かせて頂けるなら、勿論何の不満もない。しかし、ついついこういうコメントが出てくるのは、我々の性みたいなものだから仕方ないと思う。

小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXII
2014年3月16日(日) 15:00開演 よこすか芸術劇場



「よこすか芸術劇場」に来るのは初めて。まさに今日の演目と演出(室内オペラ風)にぴったりのこぢんまりしたきれいな劇場。横須賀にあるということで、なんだか異国情緒まで漂って、ちょっと観光気分。

何と最前列。オケピットはなく、ほぼ客席と同じ高さでオケが演奏するので、小澤さんが目の前。何度も小澤さんの指揮を見たが、こんなに間近で見るのは初めて。チェンバロを弾くテイラーさんとの振り分けだったが、指揮者でこんなに変わるのかとちょっと気の毒なくらい。小澤さんのフィガロは、ずっと以前にウィーン国立歌劇場の日本公演で見たことがあるが、あれから、随分精密になったという気がする。若いオケのメンバーも一糸乱れぬ見事な演奏だったと思う。

フィガロは、今まで舞台をはじめとして映像、音だけも含めて何回聴いたか分からないくらいだが、今回初めて、筋書きの全部が分かったような気がした。(いつも、どこかなぜそうなるのか分からない場所があったりするのだが。)目の前ということが大きいと思うが、演出が、奇をてらうことなく、原作に忠実なのが大きいと思う。

私には、歌い手さんの技量を評価する力は無いので、良かったと思うとだけ書くが、混成チームということもあり、スタイルがややバラバラという感じは残った。でも、それも、この「アンサンブルオペラ」の傑作を損なうほどではなかったと思う。

リッカルド・シャイー指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
2014年3月21日(金) 18:00開演 サントリーホール



大変な人気コンサートで、チケットが早くから完売になっていたが、私は、二つの苦手なものの組み合わせでちょっと心配しながら聴きにいった。

一つは、シャイーの指揮で、前回NYフィルを聴いたときに余りしっくりこなかったり、「けが」ということだったと思うが、二回ほどドタキャンになったりしたことがあって、いささか苦手としている。また、ショスタコの「革命」は(以前にも書いたと思うが)、この曲の胡散臭さから苦手としている。
それなら聴かなければいいのにということだろうが、KAJIMOTOのシーズンチケットに含まれているので、聴かない訳にはいかないし、ライプチヒのオケを聴くのは多分とても久しぶりで、それも楽しみということで、期待と不安半々で聴いたコンサート。

結論から言えば、やはりシャイーはそれほど好きではない(指揮振りがちょっとわざとらしく、音楽も何となく人工的に聞こえるので)。「革命」も、やはり好きにはなれない。でも、だんだんこの曲の胡散臭さをそのまま演奏する形になってきて(それが作曲者本人の願いだろう)、少し聴きやすくなったと思う。
ライプチヒのオケは、昔「いぶし銀」といわれた面影はほとんど無く、極めて性能の良い素晴らしく近代的なオケになっていた。(東ドイツと統一ドイツの差も大きいのだろう。)

あと、五嶋みどりさんのメンコンも楽しみにしていったのだが、期待通り、いかにもこれは彼女のメンコンだと思った。この曲は、いくらでも嫋々と演奏しようと思えばできるだろうが、そういうある種のセンチメンタリズムとは一線を画した、気持ちよいくらい「清潔感」の漂う演奏だった。それはそれでありだろうと思う。

ということで、やはり、全体に「半々」という感じが残るコンサートだった。

紀尾井シンフォニエッタ東京第94回定期演奏会
2014年4月12日(土) 14:00開演 紀尾井ホール



紀尾井らしい素晴らしいコンサートだった。

バイオリニストらしくものすごくきちんとした(細かい)指揮振りのチャバさんに、最初は少し緊張しながら聴いていたのだが、紀尾井の高い演奏能力と集中力が相俟って、まさに室内オーケストラの見本のようなコンサートになった。

聞き慣れたラヴェルの音楽は勿論、初めて聴いたコダーイの曲やR.シュトラウスの曲も本当に心にしみいるようないい演奏だったと思う。特に「町人貴族組曲」には、ちょっと感動した。これを、この洗練されたスタイルと精密なアンサンブルで演奏できるオケはそう無いのではないかと思う。昔は弱点のように思えた管楽器のメンバーもすっかり落ち着き、大型の室内楽のようなこの曲を寸分の狂いもなく弾き果せたのは見事だった。

終演後、例によってメンバーとの交歓会があったのだが、いつにもまして楽しそうにしている楽員さん達を見るにつけ、演奏者側もこの演奏には納得しているのだろうと思った。

水戸室内管弦楽団川崎公演 指揮:小澤征爾
2014年5月27日(火) 19:00開演 ミューザ川崎シンフォニーホール



MCOを聴くのはこれで2回目。(吉田秀和さんのお別れの会での献奏を入れれば3回目。)3回とも小澤さんが指揮したのだが、これまでの2回はいずれも小澤さんの体調が完全でなかった時期なので、きちんと小澤征爾指揮のMCOを聴くのは初めて。

メンバーの方も、同じ思いがあるだろうし、あえて言えば、あと何回小澤さんの指揮の下でベートーベンが演奏できるだろうかという思いもあるだろう。その思いが乗り移ったような演奏だった。ベト7は、もともと終盤に行くほど盛り上がる曲だし、演奏家も巻き込んで「熱狂」状態になりやすい曲だとは思うが、それにしても、あんなに一生懸命演奏する人たちを見たことがない。息も絶えよとばかりの演奏は鬼気迫るものがあった(しかもみんな超一流の演奏家達だ)。当然、終わった後の聴衆の熱狂も凄まじく、ほぼ総立ちのスタンディングオベーションだった。
とはいっても、今まで聞いたベト7で、これがベストだったかといえば、ちょっと違うとは思う。特にホルンの細かいミスは耳についたし、もっと美しく演奏する方法はいくらでもあったと思う。しかし、生で音楽を聴く醍醐味という点では、なかなかこれ以上のものは無いと思う。
勿論、その前の2曲(指揮者無し)もよかった。特に、若きオーボエ奏者の奏でる官能的とも言える響きは美しかった。今回もほぼ最前列だったので、木管奏者の「肺活量」の凄さを目の当たりにして驚いたりもした。

しかし、結局、圧倒的なベト7が全てだったように感じてしまう演奏会だった。小澤さんが振る演奏会は、しばらくこういう状態が続くのだろうなと思う。

フィラデルフィア管弦楽団
2014年6月3日(火) 19:00開演 サントリーホール



初めてフィラデルフィア管の音を聴いた。なるほど素晴らしいと思った。残念ながら、全盛期オーマンディの指揮ではなかったが、それでも、そのすばらしさは充分によく分かった。
そして、フィラデルフィア管がやるとモーツァルトはこうなるんだ、マーラーはこうなるんだと感心しながら聞いていた。モーツァルトは私には違和感があるが、マーラーはよかったと思う。

それにしても、コンサートでマーラーの交響曲がよくかかる。この記録に残るだけで8回。内、1番は3回目となる。ベートーベンを別格とすれば、次に多いのはマーラーではないかさえと思う。(私は、それほどマーラーが好きではないので、選んでいるわけではない。むしろその逆で、この状態。)
特に、この1番は、「時間の無駄」的な思いがどうしても拭えない。(言いすぎかも知れないが、無駄に長いことは確かだ。)この絢爛たる響きでマーラーを聴くと、かえってその思いが強くなるのは、ある意味皮肉だ。

アンコールは、この楽団の看板曲バッハの「小フーガ」ストコフスキー版だった。思い込みや決めつけはよくないが、私は、このオケならこういう曲が聴きたかった。このオケに相応しい曲は、他にたくさんあっただろうに、オケの音が素晴らしかっただけに、余計にその思いが残るのだが…

紀尾井シンフォニエッタ東京第95回定期演奏会
2014年6月7日(土) 14:00開演 紀尾井ホール



かのホーネッカー指揮による、弦楽曲中心の演奏会。すなわち、実質的には「紀尾井弦楽アンサンブル」の演奏会。ある意味これは極めつけといえる。

そして、この数日前に聴いたフィラデルフィアと対極にあるといってもいいコンサートだった、しかし、どちらが心に残るのだろうか。選曲のセンスも圧倒的にこちらが上。それで、1/10の値段で聴けるのだから、全く申し分ない。

この演奏会を聴く人は、ほとんどがレジデントメンバー(定期メンバー)で占められているという。それも宜なるかなと思う。

2014サイトウ・キネン・フェスティバル松本 ヴェルディ:オペラ「ファルスタッフ」
2014年8月26日(火) 19:00開演 まつもと市民芸術館 主ホール



早また1年が経過して、この季節になった。今年は日程の関係もあって小澤征爾指揮のコンサートではなく、このオペラがメインとなったのだが、とても良かったと思う。

声は勿論、オケの細部に至るまでこんなにも精妙なアンサンブルが仕込まれているのを聴いて、Verdiに対して抱いていた今までイメージのようなものが、全く間違っていたと思った。(生でVerdiのオペラ全曲を聴くのは初めてなので、全く偉そうなことは言えないのだが…)
勿論、オケの力はすごく大きいと思うし、それをまとめた指揮者の力も、歌い手の力もあってこそのだとは思うが、それにしても、素晴らしく精密な音楽だった。いつも、表面上の「華やかさ」のようなものばかりが目立っているのだが、なかなかどうして、すごい腕の持ち主なのだと(当たり前のことなのだが)今さらながら気付いた次第。

サイトウキネンのオペラ系の演目には、色々な意見(もっとポピュラーなものをやったらどうかなど)があると聞いているが、私は、これまで通り、なかなかきけない演目を取り上げて欲しいと思う。「利口な女狐」も、「青髭公」も、「ジャンヌダルク」も、「ウォーレク」も、「子供と魔法」や「スペインの時」もこの機会が無ければ聴かなかっただろうし、そうでなければ、随分損をしていたとも思う。来年からこの音楽祭の名前が変わるが、私としては、是非この路線で続けて頂きたいと思う。

フィラデルフィ2014サイトウ・キネン・フェスティバル松本 ストラヴィンスキー:「兵士の物語」
2014年8月27日(水) 14:00開演 まつもと市民芸術館 実験劇場



この出し物を見る(聴く)のは、2年連続で3回目になると思う。

音楽や演じ手のレベルが高いので、何回聴いても飽きないし、毎年少しずつ演出が変わり、それを比べるのもとても楽しい。とても贅沢な楽しみ方だと思うが、たまにはこういうのもあってもいいと思う。

今年は、ヴァイオリンに郷古廉が復帰して、鋭い演奏を聴かせてくれた。初めて聴いたときの「幼さ」のようなものはすっかり影を潜めて、大人の風格さえ漂っていた。とは言え、こういうすぐれた演奏家が、まっすぐ伸び続けることの難しさのようなものも少し感じた。是非、幅を広げて、いつか日本を代表する演奏家になってもらえればと思う。

ミュンヘン・バッハ管弦楽団 J.S.バッハ「ブランデンブルク協奏曲」全曲演奏会
2014年10月4日(土) 13:00開演 東京オペラシティ コンサートホール



ミュンヘン・バッハ管弦楽団を初めて聴く。このオケといえば、カール・リヒター。我々の世代は、リヒター、ミュンヘンバッハをアルヒーフやグラモフォンのレコードで聴き、バッハとはこういうものなのだと感じた世代だ。その後バッハの演奏は多様化し、リヒター以外のやり方も随分あるのだ、いや、むしろ、ピリオド楽器とピリオド奏法で演じるバッハこそが正当なのだとそういう時代になっても、私にとっては、バッハはこのオケが演じていたものだという思いがどこかにあると思う。

その後、余りこのオケの名前を聞かなくなり、久しぶりに日本公演のニュースとともにこのオケの名前を聞いたときはちょっと驚いた。同時に、あの頃のイメージが裏切られるのではないかと、聴くまではちょっと心配だったが、これは全くの杞憂だった。あの頃聴いたとおりの音楽を、レコードではなく、生で聴くことができてうれしくもあり、驚きもした。といっても、時代遅れという感じは全くなく、原則モダン楽器とモダン奏法のバッハのすばらしさをあらためて感じることができた。

時代が変われば、楽器も演奏法も変わる。(進化すると言えるかどうか…。)その中で、できるだけ作曲当時に近い楽器や演奏法を使うべきというある意味当然の主張が何処まで重んじられるべきなのか、なかなか難しい問題だと思う。言えるのは、楽器や奏法にかかわらず、きちんと美しく奏でられる音楽の方がそうでない音楽よりずっといいということだと思う。

このミュンヘン・バッハ管弦楽団の演奏は、美しく、精密で誠実。バッハの良さを再現して全く過不足のない素晴らしい演奏だったと思う。
(演奏会後、軽く食事をしていたら、ピッコロトランペットを演奏していたプレイヤーと隣り合わせになった。とても良かったと言ったら、大変喜んでもらえた。)

ワレリー・ゲルギエフ指揮 TDK オーケストラコンサート2014
2014年10月15日(水) 19:00開演 サントリーホール



今もっとも強力なコンビの一つであるゲルギエフ、マリインスキーを聴く。しかも、ストラビンスキーの三大バレー一挙演奏というプログラムである。悪かろうはずがない。

座席は前から4列目、ほぼコンサートマスターの真ん前ということもあり、まるで、オケピットの中に入って聴いているようだった。大げさに言えば、まるでテニスの試合のように、音のする方に顔を向けながら聴くというすごい臨場感だった。
30年近いコンビのこの組み合わせは、盤石の信頼感で結ばれ、ゲルギエフの所作と思いがそのまま音となって顕れるというそんな感じだ。特にオケの方は、真剣で、ほとんど「必死」といってもいいくらいのものがよく伝わってきた。キーロフ劇場付属のオケから、今や世界を代表するオケの一つに育てあげられたゲルギエフへの信頼感は並々ならぬものがあるのだろう。

演奏については、本場のオケが本物の音楽をやるとこうなるのだという典型のような演奏だった。せっかくこの組み合わせなのだから、ストラビンスキー(やロシアもの)を聴きたいという思いと、いや、ブラームスなど聴いてみたいという思いがあるが、これを聴いてしまえば、これしかないかとも思う。
(海外のオケの来日公演時のプログラムはなかなか難しいと思う。以前パリ管の副コンサートマスター(日本人の方)が、日本ではやりたいものができないとぼやいておられたが…。)

あえて言えば、やはりバレー音楽、バレーとともに聴きたいと思うのは贅沢か。

モントリオール交響楽団
2014年10月16日(木) 19:00開演 サントリーホール



何と二日連続のサントリーホール。しかも、今日はフランスよりもフランスらしいといわれたモントリオール響でラヴェル中心のプログラム。まるで、仏露対決に立ち会う感じとなった。曲目も「バルバリズム」と「エスプリ」の極み対決という感じで、とても貴重な体験となった。

とはいえ、前夜の演奏会とはかなり趣が違い、こちらは非常に落ち着いた(もっといえば少し地味な)演奏だった。座席の違い(こちらは、エコノミーのシーズンチケットで開演前に座席指定を受けるのだが、かみさんの希望(五島龍を近くで見たい)もあって、RA席の一番前(ステージの真横)だった)もあるので一概には言えないのだが、デュトワのCDで聞き慣れたこのオケの演奏のイメージとはちょっと違っていた。これで悪いということは全くないのだが、それでも、全盛期の音とは少し違うのだろうなと感じた。

私は、ハルサイよりはダフニスの方が好きなのだが、こうやって生で連続で聴いてみると、如何にハルサイの衝撃が大きかったかよく分かった。(それでも、やはり、音楽としてはダフニスとクロエの方がいいと思ったのも確かだ。)

それにしても、20世紀前半に相次いで登場した名曲中の名曲をそれぞれ極めつけのようなオケで聴くことができて、本当によかった。

ローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団
2014年11月11日(火) 19:00開演 サントリーホール



この組み合わせは、3年ぶり二度目。前回も「楽しくなければ音楽でない」という印象をこの記録に書き付けているが、今回も全く同じ印象。イタリアのオケだからという先入観はあるのかも知れないが、音楽はとても上質な娯楽だという当たり前のことを教えてくれるような気がする。

音は美しい。旋律はよく歌う。これで何処がいけないのかと確かに思う。特にアルプス交響曲は、ぴったりの選曲だ。さらに、極めつけは、アンコールのウィリアムテル序曲、観客も大喜びしていたように、とても良いコンサートだったと思う。日本にも、こういうスタイルのオケやコンサートがもっと増えればいいのにと思う。
諏訪内さんは、相変わらずお姿も音色も美しい。「艶めかしい」に近いかも知れない。ブルッフにぴったりと言えなくもないが、バイオリニストとしてこれからどういう表現を選ぶのか、難しい局面になっているような気もする。(だから、音楽祭を主宰したりしているのだろうけれど。)

今回は、ちょっとしたアクシデントでカミさんが急遽欠席し、一人で2枚のチケットという贅沢。しかもエコノミーチケットで座席は当日選択ということもあり、1階の最後部中央(雨宿り)と、2階RDの前列という2席を前半と後半で聴き分けてみる。(どちらも割にお安い席だ。)サントリーホールなので、どちらかがダメということは全くないが、それでも、視覚的にも聴覚的にも見通しのよいRD席の方がずっといいと思った。安い席ならRD(何となくLDよりこちらが好きだ)に限るのでは…。

ドレスデン国立歌劇場室内管弦楽団&森麻季 クリスマスコンサート
2014年12月3日(水) 19:00開演 東京オペラシティ コンサートホール



今回もカミさん欠席で、お仕事先の会社のお嬢さんを誘って聴く。

プログラムを見ているとお手軽な名曲コンサート風なのだが、なかなかどうしてきちんとした演奏会。さすがにドレスデンの名を冠するだけのことはある。オケも素晴らしい実力を手抜きせずに発揮。気持ちの良いコンサートだった。
室内オケを聴くチャンスは(紀尾井を除いて)それほど無いが、今まで聞いた中でも一二を争うか。バランスの取れた安心して聴ける演奏だった。特に、最後のモーツァルトのハ長調のシンフォニーは良かったと思う。森麻季さんも、彼女らしい澄んだ声で、心にきちんと届く歌だった。(お誘いしたお嬢さんにも満足して頂いたのでは。)

最後にクリスマスコンサートということで会場の人たちとともに「ふるさと」を合唱。こういうときには、この歌は、本当にいい歌だと思う。

JVC第26回東京公演 『メサイア』
2014年12月6日(土) 15:00開演 昭和女子大学人見記念講堂



昨年に続いてカミさんが所属する合唱団も参加してのメサイア。

合唱は、(ひいき目もあるかも知れないが)ソプラノはまずまずとして、アルトや男性陣の不揃いさは目立ったように思うが、オケと指揮者の頑張りもあり、コンサートとしてはまずまずだったと思う。

お叱り覚悟でいえば、私はこういう形でのボランティアには少しなじめないところがあって、そのせいか余り会場の雰囲気も好きにはならない。(演奏の前の演説もあまりにありきたりで心を打たないし…。)
これだけ世界が様々な問題を抱える中、この演奏会で何にどう役に立とうとしているのか、さっぱり分からない。それをはっきりさせる必要があるとは必ずしも思わないが、であれば、演奏会も妙な演説や催し無しで、もっと普通にやればいいのにと思う。

辛島美登里 Christmas Symphonic Concert 冬の絵本2014〜ほんとうの恋〜
2014年12月7日(日) 17:00開演 すみだトリフォニーホール



辛島美登里さんの声を一度聴いてみたいと思っていた。(特に毎年開催される千住さん指揮の生のオケの演奏会を聴いてみたかった。)

マイクの声と生のオケの相性は思っていた以上に良くなかったが、それでも、一応納得できる水準にはあったと思う。(もう一度聴きたいかといわれればいささか微妙だが。)
とはいえ、共演の男性歌手は酷いと思った。(熱唱の意味をはき違えているのか。日本のミュージカルの水準は、こんなものなのだろう…。)たまたま周りのお客様も、ちょっと首をかしげる感じ(この男性歌手の熱狂的なファン達なのだろうか?)で、興がそがれた。

でも、瑠璃色の地球やサイレントイブは彼女が歌えば様になると思う。これを聴いたからよしとしよう。

中島みゆき 夜会VOL.18 橋の下のアルカディア
2014年12月10日(水) 20:00開演 赤坂ACTシアター



やっぱり夜会はすごい。

初演の時は、何かとこなれていなくてよく分からない感じのときも多いのだが、今回は割にシンプルなテーマと筋立てでもあり、違和感なく聴くことができた。共演の二人の歌手の水準もとても高かった。特に中村中さんには感心した。中島みゆきと差しでの歌が多いので大変だと思うが、全く対等に歌えていたと思う。ほぼ最前列で、目の前が中島みゆきだったのも印象に残った。

いつもながら、終わりに近づくに従って盛り上がる中島みゆきさんの歌はすごい。最後の方は、まさに鬼気迫る熱唱だった。還暦を超えてなおこれだけのエネルギーには、ただただ感服する。ほぼ同い年の我々も頑張らねば…

パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)/ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団
2014年12月14日(日) 15:00開演 東京オペラシティ コンサートホール



今年最後のコンサートは、ヤルヴィ、ドイツカンマーフィルでオールブラームス。

多忙なヤルヴィのことなので、色々な組み合わせを毎年のように聴いているが、この組み合わせで聞くのが一番いいのかも知れない。前回のシューマンチクルスのときも感心したが、今回のブラームスもとても良かった。残念ながら、一回だけしか聴けなかったが、チクルスものは、通して聴くのが正しい聴き方なのだろう。

お互い気心の知れた仲、テンポやフレージングが細やかで、説得力を感じる。ソロのニュアンスも特別なことはしていないが、それでも、きちんとした主張が感じられる。

いよいよ来年からヤルヴィがN響を振る。今からとても楽しみだ。

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