中島みゆきコンサートツアー2010
2011年1月12日(水) 18:30開演 東京国際フォーラム ホールA



去年の「夜会」をさぼったので、ほぼ2年ぶりに中島みゆきさんを聴く。
今回は休憩を挟んで、3時間近い長丁場だったが、あっという間に終わってしまった。もっとずっと聴いていたいという感じが残る、(いつも通りの)素晴らしいコンサートだった。

新しいアルバムの曲がいくつか入るのは当然だが、それ以外は、どちらかといえば70年代の懐かしい曲が中心だったように思う。
どの曲も素晴らしかったが、中でもまず、「夜曲」が聴けたこと。この曲は、中島みゆきの(というより世の中の全ての)ラブソングの中で最高のものの一つだと思うが、これを一度生で聴くという念願が叶った。アルバム「臨月」のアレンジとは少し違っていたし、多分、完全なフルコーラスではなかったと思うが、それでも、素晴らしかった。この曲は、歌詞に若い頃の中島みゆきの「本心」読み込まれているような気がしてならないが、もしそうだとしたら、こんな曲を贈られた男はどう思ったのだろうか。
「二雙の舟」の完全版を聴けたのもすごかった。今回、アルバムのVocalオリジナルメンバーが揃ったということらしいが、夜会ではなく、コンサートでこの曲を聴くのも、やはり素晴らしい。
アルバム「寒水魚」から歌われた2曲も良かった。「時刻表」など、生で聴く機会があるとは思わなかったが、当時聴いていたときよりずっと良い曲だと感じた。世代的に特にそう感じるのかも知れないが、70年代の中島みゆきのすばらしさをあらためて認識した。(もちろんそれ以降も素晴らしいが、その頃の曲は、「若さ」が武器になっていることがよく分かる。)
そして圧巻は「時代」。無伴奏で切々と歌い出されたが、40年を経てなおあれだけ人の心を打つ曲は、本当に素晴らしい。聴きながら涙を流している人がたくさんいた。自分の歌で、たくさんの人を涙ぐませるのは、歌い手にとって本望だろう。

正月明け最初のコンサートということもあって、休養十分のみゆきさんの声の調子は良く、ときには語るように、ときに叫ぶように、そして、ときに情感豊かに使い分けられる声も全く衰えるところがないと感じた。我々と同じ「あら還」世代とはとても思えない。修練の賜なのだろうが、私も負けてはいられないとも思った。
今回はステージ向かって右側、前から数列目という恵まれた席で、それも良かった。ただ、雑ぱくな音響装置を通して聴く大音量は、もう少し何とかならないのだろうかと、それだけは少し残念だ。

チョン・ミョンフン指揮ソウル・フィルハーモニー管弦楽団演奏会
2011年5月10日(火) 19:00開演 サントリーホール



2月の紀尾井の定期をさぼったので、これが今年初めてのクラシックのコンサートとなる。
この間、東日本大震災が起こり(被災者の方々には、心よりお見舞い申し上げます)、予定されていたたくさんのコンサートがキャンセルになった、私も楽しみにしていた、ピリス・プロジェクトがキャンセルになり、少しがっかりしていたところに、急遽庄司紗矢香が加わってこのコンサートがチャリティとして開催されることを知り、チケットを購入した。
このところ個性的な演奏を続けている庄司紗矢香のチャイコンをはじめ、日本のオケ以外では初めてのアジアのオケとなるソウルフィルに加えて、かのチョン・ミョンフンを聴くのも初めてで、大変楽しみに聴きにいった。

庄司さんは、期待通りとても気持ちのこもった情感あふれるチャイコフスキーだった。もっと激しくという向きもあるだろうが、ベートーベンの「スプリングソナタ」をあのように演奏する今の彼女なら、こういう演奏が似合うのだろう。オケと息があっていたかどうかはちょっと微妙かもしれないが心に残る演奏だった。
聴衆には、オケと指揮者の祖国の人たちがとてもたくさんいて、熱気にあふれていたが、音楽の聴き手としては初心者も混じっていたようで、チャイコンでも第1楽章で拍手が入り、「悲愴」は恐れていたとおり第3楽章で熱烈な拍手が入ってしまった。(さらに「ブラボー」の声まで飛んだのには、さすがに驚いた。)演奏としても、指揮者の大きな構えをオケがフォローしきれないという感じのところもあり、「一流」というにはまだ少し距離があるように見受けられたが、国を挙げての応援ぶりと、若い楽員の熱気を見ていると、すぐに日本のオケなど追い越してしまいそうな気迫が感じられた。

何かにつけて昔日の勢いを失いつつある日本であるが、この分野も、もっと頑張らなければいけないなと思わせられるコンサートだった。

紀尾井シンフォニエッタ東京第79回定期演奏会
2011年5月14日(土) 14:00開演 紀尾井ホール



このところ、KSTの定期が他の用事と重なることが多くて、1回おきになり、折角のベートーベンツィクルスもまだ2回目なのだが、全部聴いておくべきだったと少し後悔した。

リープライヒという指揮者は初めてだが、いかにもドイツの中堅らしく、伝統と新しい流れのバランスがとれたオーソドックスな演奏だった。自身指揮するのは初めてと言う8番はちょっとぎこちない感じもあったが、テンポ良い7番は楽員たちの熱演に支えられて素晴らしく気持ちの良いものだった。第4楽章のテンポは、今まで聞いた数々の演奏の中でも早いほうから何番目という感じだったが、一糸乱れずフォローしたオケはさすがだった。
ヴィヴラートをほとんどかけない最近の演奏スタイルにもすっかり慣れて、むしろベートーベンの交響曲はこういうすっきりしたものだと感じるのが当たり前になってしまった。(終わった後の懇親会で、フルトヴェングラーの時代が遠くなったとどなたかが仰っていたが、まさにその通りだと思う。私は、カラヤンやトスカニーニに源流を持つと思われるこちらのスタイルの方が好きだ。)
次の第九で最終回になるが、これは是非聴きに行かなければならない。

終演後恒例の紀尾井シンフォニエッタのメンバーとの懇親会に参加した。一昨年に次いで2回目となるが、楽しい会だった。それぞれ日本を代表するオーケストラの楽員だと思うが、皆とてもきちんとした人たちで、気持ちが良い。当たり前のことなのかもしれないが、オケのメンバーは、人間的にも立派でないといけないのだろうなと強く感じた。サイトウキネンのメンバーもたくさんおられたので、この夏の様子を聴いてみたのだが、小澤さんは多分もう大丈夫とのお話しもあり少し安心した。二人混じっていた21歳の現役の芸大生(ホルンとヴァイオリン)のメンバーのフレッシュさも印象に残った。

紀尾井には頑張ってもらいたいと思うし、そのために私たちも応援していかなければいけないと、あらためて感じた。

紀尾井シンフォニエッタ東京第80回定期演奏会
2011年7月16日(土) 14:00開演 紀尾井ホール



今回は、2010-2011シーズンを通じたベートーベン・ツィクルスの最終回で、盛夏の第九となった。

オケの編成は、弦が8,8,6,4,2。あとは楽譜通りの2管(ホルン4管)編成だが、紀尾井には珍しいトロンボーンとトライアングルなどの打楽器群に声楽、合唱も入ってステージはほぼ一杯。これほど混み合う紀尾井のステージは、初めて見たような気がする。(メンデルスゾーンのエリアのときもこれほど混み合ってはいなかった。)それでも、第九の編成として最小編成。初演のときの編成はもっとずっと大きかったらしいから、ベートーベンが交響曲の歴史を根本的に変えたことが編成の規模を見ても感じられる。

演奏は、例によってとてもオーソドックス。例えば、3楽章のアンサンブルの美しさなど紀尾井ならではだと思う。東京オペラシンガーズの実力もあるのだろうが、紀尾井ホールは人の声との相性もとても良いと思った。こんなに声を張っていいのかなとも思うほどの合唱だったが、それもあって大変盛り上がる演奏だった。やはり第九は特別な曲だとあらためて思った。
前半の合唱幻想曲は、初めて生を聞いたが、そのあとに第九を聞いてみると、ベートーベンがこういう交響曲を作りたいとずっと前から思っていたんだなと分かったような気もした。

9月からは次のシーズンが始まる。定期メンバーになると、ほとんど映画を見ぬ行くくらいの値段でこの演奏会が聞けるのは素晴らしい。バックアップしている新日鐵は立派だと思う。

PMFチャリティコンサート
2011年8月4日(木) 19:00開演 東京オペラシティ コンサートホール



一度札幌で聞きたいと思っていたのだが、先に東京で聞くことになってしまった。今年前半、ほとんどの外国の演奏家のコンサートがキャンセルになる中、わざわざ東京に来てくれる心意気だけでもうれしい。

若いオーケストラだから、完璧なアンサンブルというわけにはいかないものの、若さあふれる演奏は気持ちのiいいものだった。特に最後のブラームスは、曲の雰囲気によく合った明るいはつらつとした演奏で、2番ならこれでいいと思った。モーツァルト最晩年特有のあの透明な明るさ(哀しみ)にあふれる曲調も、十分表現できていたと思う。
さすがに、ワグナーは少し荷が重いかなと感じたが、加えて、指揮者が棒をおろさないうちに拍手が入り随分雰囲気が壊れてしまった。拍手のタイミングというのは、聴衆側にとって一番注意すべきことだと思うのだが、どうも、最近いかがなものかと思うケースによく遭遇する。たまたまなのか、聴衆のレベルが下がっているのかはよく分からない。

いずれにしても、次回は札幌で聴いてみたい。

サイトウ・キネン・フェスティバル松本2011
バルトーク: バレエ「中国の不思議な役人」/オペラ「青ひげ公の城」
ストラヴィンスキー:「兵士の物語」
2011年8月23日(火)
2011年8月24日(水)
19:00開演
14:00開演
まつもと市民芸術館・主ホール
まつもと市民芸術館・実験劇場



バレエ、オペラ、そして、音楽劇と実に贅沢な二日間だった。
小澤征爾のドクターストップは残念至極だったが、リハも二日前の指揮も小澤さんがやったものだし、オケも緊張感にあふれ、また、代役のピエール・ヴァレーもとてもうまかったので、小澤さんの指揮と遜色ないできばえだったと感じている。(とにかく今となっては、日本のいや世界の宝のような人だから、まずは、体調を整えることを優先していただきたいと思うばかりである。)ということで、会場に入る直前に小澤の休演を知らされたのだが、皆がっかりはしたと思うが、文句を言っている人は一人もいなかった。

生のオケがついたバレエを見るのは初めてだったので、聴くことと見ることのバランスがうまくとれずにちょっと苦労したが、音楽については、繊細で精妙、サイトウキネンの面目躍如の素晴らしいものだったと思う。バレエの方は、コメントを述べる力は全くないが、もう少し、自然にやってもいいのではという気がした。(ちょっと観念的という感じ。)
「青ひげ」は素晴らしかった。上記の事情で、聴き手も少し緊張したが、(当然ながら)一度も乱れるようなこともなく、バレエのときよりもさらにさらに美しく、精妙で、ちょっとこの世のものとは思えない感じがした。(演目や部隊の作りのせいもあると思うが。)バルトークというのは素晴らしい作曲家なのだという当たり前のことを、あらためて感じさせられた。歌い手も素晴らしかった。演出も美しかったと思うが、バレエと同様、妙に説明的だったり(それが観念的な印象を与える)するのはどうかと少しだけ感じた。

「兵士の物語」を生で聴くのは初めて、演劇付き音楽というのも初めてだったが、ちょっと感動した。
決して易しい曲ではないと思うのだが、まだ17歳という郷古さんのヴァイオリンを始め、若いプレイヤーが指揮者なして暗譜で、ときには演技まで交えながら、一糸乱れず、かつ音楽的にもほぼ完璧に演奏したことにまず驚いた。加えて、演劇陣の真剣な演技も加わり、息を呑むような時間を過ごした。特に、主ホールの客席に突き抜けるラストシーンは、見事だったと思う。(このホールでしかきっとできない。)
また、(この回だけについていた)アフタートークの串田さん以下の出演者全員(役者も演奏家も)やりとりも素晴らしかった。この演目を、たった数回で終わらせてしまうのは実にもったいないと思った。

毎年サイトウ・キネンを見ているが、今年は、明らかに「音楽と舞台の融合」を目指していたと思う。(今まででもそうだったとは思うが、ここまで明確な意図はなかったと思う。)また、松本は、「楽都」の性格に加えて、素晴らしいホールや歌舞伎公演といった「劇都」の特長も強く、それに、これ以上ふさわしい街はないと思う。文化が街に根付いて、そして育っていくという、最近の日本ではもう忘れられつつあることを是非この松本で実現して欲しいと願うばかりである。

例によって、松本の皆さんは親切で、食べ物も美味しく、そして、いつも行くバーでは「兵士の物語」の演奏メンバー(もちろん郷古さんはいなかったが)と一緒になるという、この街ならではの機会にも恵まれ、今年も充実した三日間を過ごすことができた。

ローマ・サンタ・チェチーリア管弦楽団演奏会
2011年10月5日(水) 19:00開演 東京オペラシティ コンサートホール



震災以来、久しぶりにヨーロッパのオケを聴く。

3階席、オケに向かって右の真横という普通に考えれば余り 良い席ではなかったのだが(何せエコノミー券なので)、これが、 なかなか良かった。オペラシティーコンサートホールはどこで聞いてもそこそこ大丈夫。やはり、良いホールなのだと思う。
直接音が中心で、しかもほとんど真上から見下ろす感じなので、なんだかスコアの中に首を突っ込んで音楽を聴いているみたいだったが、それがとても面白かった。

演奏は、とても良かったと思う。はじめは、音が直接聞こえる感じなので ちょっと当惑したが、よく聴いてみると、管楽器のソロはみんな ものすごくうまいし、結構個性的な出で立ちの人が多い見た目の印象とは違って、例えば弦のユニゾンもアンサンブルもとてもきれい。それになんといっても良く歌う。また、全員がとても楽しそうに 演奏しているのが良い。「楽しくなければ音楽でない」というのは 間違いではないと思う。
ラフマニノフの2番のP協とシェエラザードという「名曲」プログラムを嫌みでもなく、外連でもなく、惰性でも、なくきちんと美しく演奏 しきったのには大変感心した。

イタリアのシンフォニーオーケストラを聴くのは多分初めてだと思うのだが、さすが音楽の国の首都を代表するオケだけあると 思う。
ベレゾフスキーも、前回聴いたラフォルジュルネのバッハでは、酷評してしまったが、今回は、実に良かった。ちょっと、荒っぽいという感じは残るが、オケとの相性も、曲との相性も良いらしく、実に気持ちの良い演奏だった。今までやや敬遠していたが、正直、ちょっと、ラフマニノフの2番を見直した。

NHK音楽祭2011 NHK交響楽団
2011年10月6日(木) 19:00開演 NHKホール



二日連続となったが、二日目のプログラムはモーツァルトと ブラームス。会場がNHKホール、オケはN響とある意味前日とはとにかく対照的。まじめで清潔な演奏。これはこれで嫌いではないが、どちらが 魅力的かと聞かれれば間違いなく前日のローマサンタチェチリア。

「曲が立派なのですから、きちんとその通りやれば当然立派な音楽になります。」何となくそういわれているような感じがするし、それはそれでその通りかもしれないが・・・。
たとえば、せっかくカツァリスが、軽妙に、ときにアドリブを交えて演奏 しているのに、それにもう少し応えられないものか。
去年のNHK音楽祭に続いてN響のブラームスの交響曲は4曲中3曲を 聴いたことになるが、何となく印象が薄い。プレヴィンにせよ、マリナーにせよN響はどうしてこう功成り名を遂げた(きつくいえば全盛期を過ぎた)人が好きなのか。
87歳というマリナーは驚くほど若々しいが、でも、ロックが踊れた というあのASMFの「四季」の演奏を聴いて少し驚いた時代からはやはり遠く隔たっていると感じた。(ASMFとマリナーの組み合わせは、私のもっとも好きな演奏家 の一つだったのだが・・・。)
もちろん、こういうことは、「贅沢」を言っているというのは良く承知 しているが、日本を代表するオケにはもう少し頑張って欲しい。

今回の席はやや左よりとはいえ前から10番目で、あの NHKホールとしては良い席だった。 (だから、これらの感想は席のせいではないと思う。)

NHK音楽祭2011 ベルリン放送交響楽団
2011年10月12日(水) 19:00開演 NHKホール



秋の音楽シーズンで、1週間で3回目のコンサート。毎年のことながら、このシーズンは忙しい。

NHK音楽祭というのは、そのシーズンに来日するオケをほぼ網羅して、しかも、比較的良心的な価格で聴ける大変有り難い催し物。いつも、ホールの悪口をいって申し訳ないと思うが、今年は2公演とも割によい席でよかった。

指揮者のヤノフスキさんが、「ベルリンのオケとして如何に存在価値をはっきりさせていくかが大切だ」と仰ったとのことだが、たしかに、その通りだと思う。今回のプログラムは、「魔弾の射手序曲」、「皇帝」、「英雄」という大変なプログラム。ラフマニノフの2番とシェエラザードのときも大変だなと思ったが、それを上回る名曲プログラムである。聴く方に異存はないが、もう一ひねりあった方がと思わなくもない。

弦楽器の編成は、オーソドックスなものだったが、配置は、向かって右の外側がチェロという昔懐かしい配置。管は倍管編成だった。
演奏は、いかにもドイツのオケらしい、きちんとした、一点一画をゆるがせにしない演奏。
河村さんは初めて聴いたが、皇帝のような曲の個性が大変強いものより、もう少しピアニストの個性が良く出るような曲を聴いてみたいような気がした。
最後の「エロイカ」は、とても良かったと思う。私にとっては、学生時代に最初にはまった曲の一つなので、何回聴いたか分からない曲だが、それでも、ここはこういう風になっているのかと思うところが何カ所もあった。どの声部もきちんと聞こえる、明晰で、しかし暖かい、なかなか味わいのある演奏だったと思う。ちょっと地味かなとも感じるのは、贅沢なのかもしれない。

月末に、佐渡裕のベルリンドイツ交響楽団を聴く予定だが、こちらはどんなオケだろうか。ちょっと楽しみである。そう思うと、11月のベルリンフィルのチケットを取り損なったのは返す返す残念だ。

第1回チェンバロ・フェスティバル in 東京
2011年10月22日(土) 13:00開演 石橋メモリアルホール



「第1回チェンバロ・フェスティバル in 東京」の第一日を通しで聴く。

今まで、通奏低音やオペラの伴奏などで聴いたり、せいぜいが、ブランデンブルク協奏曲の第5番あたりで聴くことはあっても、ソロで聴く機会の無かったチェンバロをゆっくり聴いてみたいと思って買ったチケットだ。余り音量の大きい楽器でないので、その点をちょっと心配していたのだが、(ステージに席が近いということもあったが、)何より、新しい石橋メモリアルホールの響きが素晴らしく、その点は全く杞憂だった。また、たくさんのチェンバロを聴いたが、これほど個体差がある楽器と知って驚いた。

まず、よかった方。曽根麻矢子さんの演奏は素晴らしかった。チェンバロは、普通に弾く限りは、音量の変化をつけにくい(つけられない)という大きなハンディキャップを負った楽器だと思うのだが、にもかかわらず、これだけ歌わせたり、弾ませたり、悲しませたりすることができるということに驚いた。「技術」なのだろうが、それが、全て音楽に乗り移っているところが素晴らしい。
もう一つは、村治さんとのデュエット。同じ撥弦楽器であるチェンバロとギター。その共通点と違いが鮮やかに際だっていた。人の指で奏でられるギターの音のニュアンスの何と細やかなことか。それに寄り添って響くチェンバロの弦の透明感。ため息が出るほど美しい演奏だと思った。(もちろんお二方の容姿が、その印象を強めているとは思うのだが。)

次は、どうかなと思った点。
有田夫妻のアンサンブル。チェンバロの方は、主に伴奏だから仕方ないのかもしれないが、曽根さんの弾いたのと同じ楽器とは思えないくらい華がない。バロックフルートの方は、ホールに良く響いてきれいな音だったが、いくら自分の指で押さえるしかないといっても、あれほど、ぎこちない感じがするものか。(指が音楽に追いついていない。)息も少し苦しそうだった。
中野さんは、曽根さんに負けず劣らずの高名な演奏家だと思うが、地味だった。良く言えば、とてもきちんとした演奏ということではあるが。
最後のゴールドベルクは、「何とか弾いてみました」という感じ。手厳しいようだが、お金を取って聴いていただく演奏かどうか。

個人的な感想とはいえ、上記の通り、結構ムラがあったように思う。「チェンバロ業界」を挙げてのイベントだと思うが、成功といえるかどうかはやや微妙と思った。(来年は多分行かない。)

もう一つ。ソロの演奏家は、暗譜で弾いて欲しいと思うのだが(ソロを暗譜で弾いていたのは曽根さんだけだった)如何でしょうか。

佐渡裕指揮 ベルリン・ドイツ交響楽団 日本ツアー2011
2011年10月31日(月) 19:00開演 サントリーホール



今を時めく佐渡裕さんのいわば凱旋公演。ホールも、そういう熱気に包まれていた。確かに熱演だったと思うし、なかなか「カッコイイ」と思ったが、ちょっと「?」という感じも残った。

モーツァルトのピアノコンチェルトのソロを務めたボジャノフなるピアニストをよく知らないが、第1楽章出だしからずっと音を出しっぱなしというのはいかがなものだろうか。このころの協奏曲だから、もちろんソリストの裁量は大きかったとは思う。しかし、古典形式の協奏曲である。やはり、最初の主題提示はオケがやるのが形ではないのか。それをあえて損なう理由は何なのか?オケとともに鳴っていたピアノの音が第一主題の魅力を高めたとはとても思えないのだが・・・。第3楽章の装飾やオケとのやりとりなど結構決まっていただけに、ちょっと残念。好き嫌いは分かれるだろうが、私はこういう思い上がった演奏を好きではない。

チャイコフスキーの5番のシンフォニーは、元々、今何処にいるのかがわかりにくい曲だと思うのだが(構造がよく分からんという感じ)、いつも力一杯の佐渡さんの演奏は、それに拍車をかけたいう印象。それが、曲のせいか、演奏のせいかは定かではないので、もう一度別の曲での指揮振りを聴いてみたいところはである。
とにかく、最後はブラスセクションが疲れてしまって、フィナーレは息切れしていたのではと思った。(さすがにアンコールは、弦楽だけだった。)

このベルリン・ドイツ交響楽団は、先般聞いたベルリン放送交響楽団といわば兄弟のオケだが、力は、あちらの方がちょっと上かもという感じもした。

チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団演奏会
2011年11月15日(火) 19:00開演 サントリーホール



期待通り、ヨーヨー・マの演奏は素晴らしかった。曲目も、ドボルザークのチェロコンチェルトだから、極み付き中の極み付き。文句のあろうはずもない。それにしても、どうしてあんなに、心のこもった演奏ができるのだろうか。チェロが息をしているようだった。
チューリッヒ・トーンハレも名門らしい整った演奏だったと思う。ブラームスの2番も実に中庸を得た気持ちの良い演奏だった。何と、チェロのパートでヨーヨー・マが弾いているのには驚いた(カミさんが気付いた)。オケの中で実に楽しそうに弾いていた。本当に演奏するのが好きなのだと思う。
サントリーホール久々のP席だったが、(チェロのソロが遠くて残念だったが)音には、特に問題はないと思った。

パリ管弦楽団演奏会
2011年11月26日(土) 18:00開演 サントリーホール



梶本の「ワールド・オーケストラ・シリーズ」のエコノミー・チケット通し券だったので、座席指定のために結構並んだ。その甲斐あって、RD席の一番前(RC席のすぐ後ろ)という、割によい席で聴くことができたことも幸いだったが、とにかく素晴らしいコンサートだった。

諏訪内さんのメンコンを聴くのも、もう何回目かだが、聴く度に凄みが増していくように思える。立ち姿や容姿はもちろん、演奏も、実に整っていて美しい。何より、あの音の嫋々たる艶めかしさは、ちょっと他ではなかなか聴けないように思う。(曲のせいもあるが。)
しかしなんといっても、「幻想」はすごかった。3楽章最初と最後のイングリッシュホルンとオーボエ(こちらは最初だけだが)の掛け合いをステージのサイドとステージの袖でやったり、5楽章の鐘がやはりステージの袖で鳴ったり、打楽器の奏者がめまぐるしく入れ替わったり、小粋な演出が全く嫌みでないのはパリ管ならでは。演奏も、所々にちょっと耳を引く(?)ような演出が入り、それだけでも新鮮で面白かったが、そういう細かいところは関係なく、演奏そのものが、実に素晴らしかった。これからも、何回かこの曲を聴くだろうが、これ以上の演奏はもう聴けないかもしれないと思った。言わずもがなのパリ管の「管」のすばらしさが、その大きな原動力であったことは確かだが、ヤルヴィの手腕によるところも大きいと思う。ヤルヴィの演奏は、ドイツカンマーフィル、シンシナティについで3回目だと思うが、いずれも素晴らしい演奏だった。
アンコールが3曲に及んだが、3曲目は出口のアンコール・ボードに曲名が記載されていなかった。ということは、本当におまけだったのかもしれない。(普通「悲しきワルツ」(アンコール2曲目)をやれば、それでおしまいだと思うが、そのあとに3曲目が演奏された。)指揮者も、オケも随分乗っていた証しだろう。

これで、今シーズンの演奏会も大半が終了。前半は、震災の影響で次々と演奏会がキャンセルになったが、後半は実に色々なオケを聴いた。(ベルリン・フィルの切符を取り損ねたのは残念だったが。)こうやって、次々と色々な国のオケを聴いていると、何となくお国柄が分かるような気がしてきた。そういう意味で、今日のパリ管は、いわば「エスプリ」の極致だった。
最後に、サントリーホールは、色々な意味で良いホールだ。何処で聴いてもいい音がすることに加えて、客層も総じて水準が高い。曲が終わったあとも安心していられる(変なタイミングで拍手や声がかからない)のは、ここが一番だと思う。演奏のレベルと、拍手の大きさの相関関係もここが一番はっきりしている。今日の、熱烈な拍手は、それだけの演奏だったということだと思う。

夜会VOL.17 2/2
2011年12月6日(火) 20:00開演 赤坂ACTシアター



2年ぶりの夜会。

彼女のコンサートにしても、夜会にしても行く度に彼女の「声の力」に圧倒される。そして、「声の力」を信じて全身全霊で歌う彼女の「思い」に圧倒される。

「2/2」を見るのは、初めてだが、彼女にとっては再々演、かつ、夜会シリーズの代表作の一つということで、中身については「すごい」、「素晴らしい」ということのほかは何も言うことはない。
三回目の演目であるにもかかわらず、かなりの歌は最近のアルバムから取られている。そして、最初からそのために作られたようにその場にぴたりと納まる。その創作の過程を全く知らないが、すごいなと思う。彼女にとって、歌を作るというのは、どういうことなのだろう。

我々とほとんど同世代の彼女の衰えぬ創作力と熱意に完璧に脱帽。同世代人の一人として、それがいつまでも変わらないことを切に願う。

紀尾井シンフォニエッタ東京第82回定期演奏会
2011年12月10日(土) 14:00開演 紀尾井ホール



今年最後のコンサートは、例によって紀尾井シンフォニエッタ。

今回は、オールフレンチのプログラム。KSTのレパートリーは広いと思うが、オールフレンチは珍しいのでは・・・。(2011-12のシーズンは、「XX特集」というプログラムで、今回はフランス音楽特集ということらしい。)
KSTは、管楽器より弦楽器のほうが魅力的とずっと思っていたが、こうやってフランスものを聴いてみると、管のパートも素晴らしい。ラベルもフォーレもビゼーもとてもさまになっていた。特に、ラベルのコンチェルトでのコールアングレが素晴らしかったので(でも、ピアノの陰で演奏者はよく見えなかったので)、プログラムを確認してみたら、新たに、池田昭子さんがオーボエパートに加わったとのこと。素晴らしいわけである。ビゼーのオーボエ(こちらは第一奏者の蠣崎さん)も素晴らしかった。オーケストラも生き物だから、こうやってどんどん成長していくのはとても良いことだと思う。
そして、ピアノのエリック・ル・サージュも素晴らしかった。実に優雅の極みという感じだった。
アンコールはジムノペティのオーケストラ版(ドビュッシー編)。初めて生で聴いた「クープランの墓」も含めて、フランス音楽を堪能した一日だった。

一年色々な音楽を聴いてきたが、今年一番感じたのは、「音楽のお国柄」。聞き慣れている独襖系ではなく、イタリアやフランスのスタイリッシュで明るくて洒脱な音楽の良さをあらためて感じた。そういう意味で、いかにも今年の締めくくりにふさわしいコンサートだった。

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