紀尾井シンフォニエッタ東京 第63回定期演奏会
2008年3月15日(土) 14:00開演 紀尾井ホール



楽しみにしていた先月のライプツィヒ・ゲヴァントハウスの公演が中止になってしまったので、今年初めてのコンサートとなる。今年も、結果的に紀尾井シンフォニエッタ東京のコンサートから1年がスタートすることになった。

今回は、コリヤ・ブラッハーによる弾き振りということで、前回とうってかわって、紀尾井らしい実に緊張感あふれる良い演奏会だった。協奏曲以外はブラッハーがコンマスの席に座るのだが、(そう思って聞くからかも知れないが、)そうするとベルリン・フィルも斯くやという雰囲気が全体に漲る。2ndヴァイオリンのトップに豊島さんが座るのだから、実に豪華な感じとなる。

フィガロもいいし、ブラームスも申し分ないのだが、なんといっても白眉はショスタコーヴィチだろう。前にも書いたように、この作曲家には何となくなじめないものを感じていたが、この室内交響曲を聴いて、考えをあらためた。
弦楽のアンサンブルでは日本でも有数(と私は思っているが)のオケが高い緊張感を持って演奏するのだから、悪かろうはずもない。名曲名演奏というありきたりの言葉が、ぴったり当てはまるコンサートだった。実質的に指揮者なしの時の紀尾井はいつも素晴らしい。中途半端な指揮者を迎えるくらいなら、こういう演奏会の方がいいと思うのは私だけか。

ウィーン・フィルハーモニー”アンサンブル・イレブン”演奏会
2008年3月22日(土) 18:00開演 ミューザ川崎シンフォニーホール



何とも楽しいメンバーとプログラムなので、特別にコメントすることはないのだが、やはり、管楽器は大切だとあらためて思う。

日本のオーケストラの管楽器がもう少しそれらしくなればといつも感じるのだが、こういうコンサートを聴くとなおさらそう思う。世界中の一流オーケストラで、弦のセクションに日本人がいないところは滅多にないと思うが、逆に日本人の管楽器奏者が入っているオーケストラはほとんど思い浮かばない。(マーラーチェンバーオーケストラのオーボエの女性くらいだ。彼女は、ルツェルンでも2番オーボエを吹いていると思う。)

日本の弦楽器の教育システムがすぐれているということと、管楽器にはそれがないということなのだろうか。伝統といっても、日本の西洋音楽の歴史はたかだか100年のなのだから、管と弦でそれほど伝統に差ができるとも思えない。中高生「ブラスバンド」クラブのようなものがたくさんあるのがかえっていけないという気もしないでもないが・・・。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(La Folle Journee au Japon)
「熱狂の日」音楽祭2008 〜シューベルトとウィーン〜
2008年5月6日(火) 東京国際フォーラム



ゴールデンウィーク恒例のLFJに今年も行く。
去年は、3公演でやや少ないと思ったので、今年は5公演にしたら少しきつい。なかなか難しい。

コルボ、ローザンヌは毎年聴いているが、今年もとても良い。シューベルトがこういうきちんとした形のミサ曲をどういう理由で書いたのか承知していないが、生で聞くと、素晴らしい曲だとあらためて感じる。
「ます」は、可もなし、不可もなしというところか。かみさんは、「全く印象に残らず」と評価きついが、こういう難しい編成の曲を臨時のアンサンブルでやればこんなところかと思う。
「アルペジョーネ」他の演奏は、とても良かった。オケ伴のアルペジョーネは初めてだが、特に、堤剛さんのチェロは、熱演の極み。多彩な音色、この曲にふさわしい纏綿たる情緒。かつて、すり切れるほど聞いたロストロポーヴィチの演奏を彷彿とさせる。さすがに熱演のあまり弾ききれないようなところもあったが、細かいキズを補って余りある名演だった。私が大学へ入った年の創立記念日(6月)に、記念行事の一環として堤剛のチェロ(バッハ無伴奏全曲)を聞いて以来実に40年ぶり近いが、堤さんの全く衰えることのない情熱に感激。(どうして、あの年、学園紛争さなかの殺伐とした中に来演したのか、今となってはよく分からない・・・。)あのときも、今日と同じようにほとんど最前列で聞いた。
次の、「八重奏曲」は問題外。会場の音響が良くないと思われる上に、席も悪かったのかもしれないが、それにしても、こういうのはアンサンブルとは言わないのでは。フランスの弦と日本の管の組み合わせは(明らかに逆の方がいいと思うのだが)完全に水と油。さらに、ホルンは、アマチュア以下。難しい楽器だとは思うが、少し音程の高いソロは、ことごとく引っかかっていた。岸上穣という人は、目下売り出し中の若い奏者のようだが、人前で吹くのは少し早いのではないのかとさえ思った。(去年もLFJに出演して好評だったらしいのだが?)一方、ファゴット(河村幹子)はとても見所のある人のような気がした。「演奏者未定」の状態でチケットを売り出しているのだが、やはり、こういうのは困る。きちんと演奏者を決めてから売り出して欲しい。
最後は、天羽さんのソプラノ。既に定評のある人だけに、実に安定していて良かった。ギターが伴奏につくという少し変わったアンサンブルも大変良かった。とは言っても、当時から、こういうかたちは普通に行われていたに違いない。定員100人、会場は、相田みつお美術館というスタイルも、サロン風で、雰囲気があって良かった。

色々と書いたが、1000円とか1500円で聞ける音楽会であることを考えれば、文句を言ったらバチが当たるとも思う。
この催しは、普段余り聞く機会の無い曲を聴くのには、絶好のチャンスだ。今年は、(企画のもくろみ通り)シューベルトのすばらしさにちょっと感激した。私にとっては、大好きな作品がとても多い作曲家なのだが、ともすれば、何となく、バッハやモーツァルトの後ろに置いてしまうところもある。(そういう人が多いのでは。)それは間違いだとあらためて感じた。
また、さわやかな季節の都心を散策するのにも、とても良い機会だと思う。こういう催しが、年々盛んになっていくのは、心強い限りだ。

サイトウ・キネン・フェスティバル松本 オーケストラコンサート
2008年9月9日(火) 19:00開演 松本文化会館



念願のサイトウ・キネン・フェスティバル松本を初めて聴く。最終日のオーケストラコンサートだったが、この雰囲気は、ちょっと言葉では言い表せない。

もちろん、素晴らしい演奏なのだが、演奏の善し悪しというような次元を超えた圧倒的な何かがある。特に最後のマーラーは、おそらくこういう演奏を聴くことは二度とないのではないかと思えた。100人をはるかに越える編成で、例えば、バイオリンがたった1丁の演奏のように聞こえるところがあるとか、まるで、100人で室内楽をやっているように聞こえるとか、クライマックスで、あんなに大きな音は聞いたことがないような気がするとか(最後のところでホルンセクションが全員立ち上がった!)、部分的には色々な説明の仕方はあると思うが、全体として、どう説明していいのかは、聞いた人しか分からないのではないだろうか。

あえて言うのであれば、それは、例えば「Unity」とか「絆」とか、そう言葉が表しているものに近い。音楽にとって、そういうものが、常にプラスに働くかどうかは難しいかもしれないが、この組み合わせに限っていえば、それなくして成り立たないそういうものだと思える。

さらに、特筆すべきは、松本の町全体のサポート。町のどこを訪ねても、本当に心から迎えられているような素晴らしい「ホスピタリティ」。どうして松本でやるのだろうかと思っていたが、一度行けば、松本以外では考えられないというのがよく分かる。そういう意味でも、素晴らしいコンサートだと思う。

紀尾井シンフォニエッタ東京第66回定期演奏会
2008年9月27日(土) 14:00開演 紀尾井ホール



KST08−09シーズンの最初のコンサート。KSTを聞き始めてもう何年になるが、シーズン皮切りのコンサートとしては、印象に残るものだった。
今シーズンからメンバーもかなり代わったようで、豊嶋さんや原田さんの名前がメンバーリストからなくなっている。今回のコンマスは、ミュンヘン室内オーケストラのコンマスを務めている人らしい(彼の名前もWeb上のメンバーリストには載っていない)。そう思って聴くからか、今までと少し雰囲気が違う。良いとか悪いとかは、まだとても言えないが、今までに比べて、室内オーケストラ風の精緻な感じになっているような気がする。自由闊達というよりは、精密・繊細という感じだ。特に第一ヴァイオリンなど、とてもきれいに聞こえる。元々、実力者の集まりだから、結構変幻自在なのかも知れない。
2回ほどこのコンサートをさぼってしまったが、こういう風にコアのメンバーが代わるのであれば、前回のの「指揮者なしコンサート」を聴いておくべきだった。少し残念。

今回は、えらくオーソドックスなプログラムで、まるで名曲コンサートのよう。
若い北欧の指揮者と円熟のドイツのピアニストというちょっと異色の組み合わせは、うまくいっているようで、「皇帝」は、実に正統的で端正な演奏だった。
残りの2曲は、冒頭も書いたように、流麗な中にも精緻さがあり、聴いていて気持ちのよい演奏だったように思う。ト短調シンフォニーは、もう何回聴いたか分からないが、それらに比しても決して引けをとらないと思う。女性演奏家に弱い小生としては、N響の池田さんのコール・アングレも心に残った。(生を聴いてあらためて気付いたが、「トゥオネラの白鳥」という曲は、まるで、コール・アングレの協奏曲みたいだ。)

今シーズンのKSTを聴くのが少し楽しみになった。

NHK音楽祭2008(サンクト・ペテルブルクフィルハーモニー交響楽団)
2008年11月7日(金) 19:00開演 NHKホール



今まで、色々なオーケストラを聴いたが、なぜか、ロシア(旧ソ連も含む)の一流オケをきちんと聞いたことがなかったが、ついに、かの「レニングラード・フィル」を聴くことになった。指揮者も名前も変わって、それ以後の評判を余りよく知らなかったのだが(余り高評価ばかりでもないらしい)、さすが、歴史と伝統においてヨーロッパ一流を思わせる素晴らしいコンサートだったと思う。

NHKホールは、なんといっても席次第という要素が大きく、今回は最前列(といってもB席なのだが)なので、特に強い印象を受けたと思う。両翼配置で右側に配置された弦の内声セクションとその奥の金管セクションが目の前という実に不思議な席だったが、金管セクションの実力をを目の当たりに聴いた感じがする。そういう位置だから、全体のバランスは完全には分からないのだが、「現代的」と「ロシア的」がほどよくマッチした美しい音色だったと思う。(何と言ってもオールチャイコフスキープログラムだから・・・。)完璧なアンサンブルというわけではないのだが、それでも、とても揃って聞こえるのも、ちょっと不思議な感じがした。

庄司さんのヴァイオリンは、特に前半はミスタッチもあり、何となく線が細い気がして心配したのだが、第一楽章のカデンツァが終わるあたりからだんだん乗ってきたように思う。そのあとは、メリハリのあるテンポの演奏に乗って、一気に最後までという感じだった。

圧巻は、5番のシンフォニー。この曲は、個人的には、名曲なのだか、それほどでもないのかよく分からないといつも思うのだが、今回は間違いなく名曲名演奏だった。聞き終えて、こういう曲だったんだとあらためて感激した。聞いているポジションのせいもあって、大型のステレオ右スピーカーの至近距離で聴いている感じなのだが、管のすばらしさは言うに及ばず、遠い左側の第一ヴァイオリンから右側に波打つように受け渡される旋律の美しさは、血の為せる技という感じがした。色々な意味で、ロシアの好調ぶりを感じたように思う。(珍しく、東洋人の演奏家は一人もいない。調べたわけではないが、ほとんどがロシア人なのではないだろうか。)

ムラヴィンスキーの棒で一度聴いてみたかったと思うが、その実力のほどは、この演奏で十分堪能できたと思う。(あの素晴らしいホルンは、ムラヴィンスキー時代から吹いている人らしい。)

NHK音楽祭2008(フィルハーモニア管弦楽団)
2008年12月8日(月) 19:00開演 NHKホール



いつも書くが、NHK音楽祭は、当たりはずれが多い。席による影響(ホールの音響がクラシック音楽向きではない)が大きいことが、その最大の理由だと思う。(これも、いつも書くが、でも、やはり安いのは有り難い。)

このコンサートは、そういう意味では「大ハズレ」と感じた。一つは、席の影響(3階席の前から3列目だから、普通のホールならそう悪い席でもないのだが)。一つは、オーケストラの実力。もう一つは、指揮者の独りよがりぶり。

ホールのせいで、弱奏がとにかく聞こえにくいのだが(その割に周囲の雑音は良く聞こえる)、それにしてもバランスが悪かった。金管が鳴ると、弦は全くと言っていいほど聞こえない。(弦の総奏部分でも。)席のせいか、ホールのせいか何とも言えないこともあるが、やはり、弦の力不足だと思う。金管の奏者が、「ボリューム」が壊れているのではと思うくらい、大きな音で吹くのでよけいだ。また、音の質も悪い。(弦も、金管も。とにかく音が濁るのは、音程が悪いのと、ビブラートが揃わないのと両方だろう。)木管は、辛うじて水準だと思うが、あとはいかがなものか。これは実力か、指揮者のせいか。(ロンドンのオーケストラ過剰は東京並みと聞くが、そのせいか・・。しかし、カラヤン、クレンペラーを始めとする大指揮者との数々の名演を考えれば、そんなはずはないのだが。)
だから、最大の問題点は指揮者だろう。全体に妙に人工的で、特にテンポが恣意的(遅い側に)。加えて、メロディーラインも、自分勝手流で、「たゆたう」などという生やさしい感じではなく、ほとんど止まっているのではと思うところがいくつもあった。オーケストラを、指先一つでどうにでもなるピアノと勘違いしているのではないだろうか。だから、オーケストラも全く共感していないように思えた。あれだけ妙に押さえられたら、やる気をなくすだろう。信頼関係が全く感じられない演奏は、ソリストとの間にも感じられた。名曲のはずのシベリウスが、あんなにつまらない曲になってしまうのか。(諏訪内さんのヴァイオリンの音は相変わらず妖艶と言ってもいいくらいなのに。)また、細かい割に、精密でもないアンサンブルは、一体どういうつもりか。何であんな指揮者を連れてくるのだろう。(ピアニストとしては、まあ好きだったのに。)

アンコールが、早く終われと思ったコンサートは、久しぶりだ。(サンクト・ベテルブルクとえらい違いだ。)「ブラボー」のかけ声は、ちゃんと聴いて出して欲しい。(さすがに少なかったが。)

後日衛星放送でこのコンサートを再度聴いてみた。上記したほどバランスなどは悪くないようなので、やっぱり席の影響が大きいのだろうか。(アシュケナージさん申し訳ありません。)
NHKさん、ホールの音響を何とかして欲しいとあらためて思いました。

「夜会VOL.15〜夜物語〜元祖・今晩屋」
2008年12月10日(水) 20:00開演 赤坂ACTシアター



2年振り、2回目の「夜会」。

この「夜会」というのは、初めて聞く歌でどこまで物語が伝わるかという実験という意味合いがあるそうだが、今回は、まさに、その実験台という感じだった。

結論から言うと、前半は、やはりよく分からなかったという感じが残るか・・・。(風邪気味で体調が悪かったことはあるにせよ、席は、前から12列目とまずまず良かったのだし、ちょっと残念。)後半とて、完全に理解できたというにはほど遠いが、なじみのある曲が増えて、また、見せ場で盛り上がる曲も増えて、気持ちが乗りやすかった。

鴎外の「山椒大夫」が下敷きになっているとのことだが、山椒大夫に関しては、ほとんど知らなかったこともあり、いくら初めてでも分かるかという実験をはいえ、もう少し下調べをしていくべきだった。きっと、もう1回聞くと、随分感じが違うのだろう。

もちろん言うまでもなく、中島みゆきの歌は素晴らしい。ほぼ同年代(確か同学年)の我々にとっては、頑張る人のシンボルみたいなものだ。

きっと、DVDになったものを聞くと色々と分かるのだろうと思うと、少し心残りである。次はいつになるのか、分からないが、今度は、もう少しきちんと準備して聞こうと思う。

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