アンの愛情の言葉 第55回

「畑を貸しに出すまでは、私もよく種イモ切りをしました」アンはほほえんだ。

「私なんか、今でもしているわ」ダイアナが笑った。「先週は三日も」それから茶目っ気たっぷりにつけ加えた。「もちろんそのあとは、毎晩、両手にレモンジュースをぬって、子ヤギ革(ルビ/キッド)の手袋をはめるのよ」

"I used to cut potato sets before we rented the farm," smiled Anne.

"I do it yet," laughed Diana. "I cut sets three days last week. Of course," she added teasingly, "I did my hands up in lemon juice and kid gloves every night after it."

『アンの愛情』(モンゴメリ作、松本侑子訳)
集英社文庫 第11章「人生の移り変わり」 122ページより

今日の言葉は、アンとダイアナの農作業です。
アンは、プリンスエドワード島のグリーン・ゲイブルズ農場、
ダイアナは、果樹園坂(オーチャード・スロープ)農場に暮らしています。
二人の娘は、農作業をよく手伝います。
大学生アンは、マシューが亡くなるまでは、畑を手伝って、種イモ切りをしていました。(マシューの死後は、畑をダイアナの実家バリー家に貸しています)
島にいるダイアナは、今も、種イモ切りを、週に三日もしています。

「種イモ」とは、島名産のジャガイモの植えつけに使う、切ったイモです。
芽のあるところを中心になるようにして、大きなイモをいくつかに切り分けるのです。
アンとダイアナは、それぞれの納屋で、エプロンをかけ、あるいは軍手もはめて、泥のついたジャガイモを、一つ一つ、ナイフで切ったことでしょう。
広い畑に植えるのですから、百も、二百も、根気よく、地道に……。
そのジャガイモを売って、農場の暮らしは、なり立っているからです。
『赤毛のアン』というと、
ケーキを焼いて、ドレスを着て、お茶会をして、手芸をするイメージがあります。
でも、農場の娘のアンとダイアナは、生計を支える農業労働も、きちんとしています。

私たちの家事や仕事も、種イモ切りのように地味なことが多いのですが、
それぞれ一つ一つが、大切なことです。
どうせしなければならないのなら、いやいやするのではなく、
前むきに取り組みたいと思います。
そして終わったあとは、あなたもダタアナのように、お肌のお手入れでもして
楽しい夜をすごしましょう!
(十九世紀のダイアナは、レモン果汁で、手の美白をしていますね)
『赤毛のアン』シリーズの魅力は、私たちの暮らしの喜びとは、
毎日の地味な家事や仕事の上にこそ、ゆたかに花開くこと、
むしろ、そうした必要な手間を楽しむ心のなかに、幸福があることを、
美しく、ユーモラスな文章で、伝えてくれるところにあると思います。
今日も、あなたの家事、仕事、勉強を、楽しみつつ、よく働いて、
どうぞよい一日をおすごしくださいますように!
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お知らせを4つです。
1)講演@東京 『赤毛のアンに隠された……』9月5日(土)
2)講演@静岡 『太宰治……、最後の恋』10月31日(土)
3)連載『恋の蛍 山崎富栄と太宰治』 最終回「恋の蛍」
4)7月のサイン本プレゼント『赤毛のアン』 20名様に!(次へ)
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