1.ニコンF2とは?
「F2」は、日本のカメラ史上、今なお燦然と輝ける栄光の「F」を引き継ぐべく第2番目の「F」として昭和46年9月に誕生したカメラである。その「F」があまりにも完成度が高いために開発には苦労の連続であったと聞き及ぶ。
「F2」は、「F」の改良版と見なされがちであるが、レンジファインダーカメラSPを基本骨格に持つ「F」とは成り立ちが異なり、内部のメカニズムはまったくの別設計で、より完璧な一眼レフシステムを構築するための設計が随所になされており、純機械式シャッター搭載のシステム一眼カメラとしては今なお最高のカメラと云えるであろう。
2.チタンボディとは?
ニコンのチタン(※1)ボディは、植村直己(※2)氏を欠かさずには語れない。彼が世界で初めて北極点単独旅行をなし得た際に携行したカメラのボディとレンズが、かの地の極端な温度差と強烈な振動に負けて分解してしまった教訓から、彼は壊れない頑丈なカメラの製作を日本光学工業(当時)に依頼したことからはじまる。
日本光学工業では極寒の地と過酷な振動に耐えうるカメラの研究を行い、外装にチタンを採用した初めてのカメラ「F2チタン/ウエムラスペシャル」(※3)が誕生するのである。このカメラは彼が昭和53年に行った2回目の北極点単独旅行に携行され、彼ともども無事生還し、数々の素晴らしい写真を記録したのである。
その後、消耗が激しい報道関係者の要望により「F2チタンボディ」及び「F2高速モータードライブカメラ」が昭和53年頃に登場し、一般市場に2000台限定で昭和54年6月に販売された。ボディの特徴から報道向けがノーネーム、一般向けがネームと称されている。

左がノーネーム、右がネーム
その後チタンボディは、昭和57年の南極点単独旅行の記録用として「F3チタン/ウエムラスペシャル」が誕生し、F3hpの外装のみをチタン仕様にした一般向の「F3/T」が販売された。
また、プロ用のF3Pとその市販用のF3Limitedのファインダー部、さらにプロ用のF3H、現行ボディではF5のファインダー部、機械式シャッター搭載のFM2/Tはボディ軍艦部と下側にチタンが採用されている。外装のチタン化はニコンが先鞭をきったのであるが、その後各メーカーもチタンボディを採用している。
※1
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チタン
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原子番号:
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22
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記号:
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Ti(Titanium)
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特徴:
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空気中で極めて安定し、軽くて強く、しかも耐食性に優れている。無毒で金属アレルギーを起こさない金属である。
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※2
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植村直己
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世界を代表する冒険家。日本人として初めてエベレストに登り、世界で初めて五大陸最高峰を極める。昭和16年兵庫県生まれ、昭和59年2月13日マッキンリーにて消息を絶つ。
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※3
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「F2チタン/ウエムラスペシャル」の改造点
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- 本体はニコンF2アイレベルファインダー
- チタン外装化(黒縮緬塗装仕上)
- フィルムの順巻化(通常の巻き上げとは逆にしている)
- 巻き戻しクランクを赤色に着色化
- フィルムカウンターの31以降を赤色に着色化
- ボディーの隙間をシーリング化
- シャッター等のチャージバネの強化
- 極低温時におけるシャッターの安定作動のための調整
- 内部のオイル類を耐寒仕様化
- ストラップの金具を外し、糸で縫製
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「F2チタン」とスタンダード「F2」との違いはあまり多くなく、外装カバー上下、ペンタプリズムカバーがチタン製であるが、巻き上げレバー、巻き戻しクランク、セルフタイマーレバー、シャッタースピードリング、シャッターおよびシャッターリング等はスタンダード「F2」と同じ物を使用している。
塗装はニコン独特の黒色縮緬仕上げとしており、いかにもスペシャルといった風情なのだが、本来の目的は極寒の地で金属ボディが皮膚等に張り付きにくくするためではないかと考えられる。
ボディのシリアルナンバーも「F2チタン」特有のものとなっており、報道向け「F2 92*****」と番号が7桁であるのに対し、一般向けは「F2T 79****」と6桁になっている。スタンダード「F2」は「F2 71*****」と7桁である。

チタン独特の縮緬塗装がわかっていただけると思う。
3.ニコンF2チタン性能仕様(使用説明書のとおり)
型式 |
35mm一眼レフレックスカメラ |
画面サイズ |
24mm×36mm |
使用フィルム |
パトローネ入り35mmフィルム各種 専用マガジン使用可能 |
レンズマウント |
ニコンFマウント |
シャッター |
チタン幕メタルフォーカルプレーンシャッター |
シャッタースピード |
T.B.1〜1/2000および2秒〜10秒の超スローシャッター可能
1/80(X接点)〜1/2000秒は目盛の中間スピード使用可能 |
セルフタイマー |
作動秒時可変式 |
ファインダー |
アイレベルファインダー、視野率ほぼ100%、レディライト付き |
ファインダースクリーン |
プリットマイクロ式(K型)、他の型のものと交換可能ス |
ミラー |
クィックリターン式、ミラーアップ可能 |
絞り込み |
絞り込みボタンによる |
巻き上げ |
一作動(120°)レバー式、小刻み巻き上げ可能 |
自動巻き上げ |
モータードライブMD−2、MD−3使用可能 |
多重露出 |
巻き戻しボタンの操作により可能 |
フィルムカウンター |
自動復元順算式 |
シンクロ接点 |
ホットシューおよびJIS−B型ねじ止め式ソケット付き
タイムラグ自動切換式、X接点は1/80秒 |
裏ぶた |
蝶番式、メモホルダー付、取りはずし交換可能 |
大きさ |
約152.5mm(横)×98mm(高さ)×56mm(幅)
(ボディおよびファインダー) |
重量 |
715g(ボディおよびファインダー) |
(HID)
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