地図と方位磁石によるナビゲーション技術(エッセイ)

 

さて、色々GPSの良いことを述べて来ましたが、GPSを利用するにあたり大きなマイナス点が存在します。それはGPSに頼りすぎる(つまり地図を見なくなる)ことです。ここでは便利なものには裏があることを理解し、『地図とコンパスでの読図術』とは何かを整理したいと考えます。

インターネット上で、「道迷い防止でGPSはどれを選んだらよいか。」「下りる道で間違うのでGPSは有効か?」などと質問すると、「まず地図とコンパスが基本。」とか「地図とコンパスを持たない非常識山登者」とのレッテルを貼られる意見が返って来ます。極端には「地図読みできない者は登山資格無し」「山をなめるな」など厳しいご意見(バッシング)をされる方も多々おられます。また「GPSは電池が切れたら使えない。」とか「山の楽しみが失われる」など的外れなご意見もあります。

たしかに、車でもナビを利用していると道を覚えないという弊害があります。なので「地図、コンパス」を知らずに入山することには、もちろん反論出来ないのですが、

どこか

英語が話せない人は、海外旅行に行く資格なし

 泳げない人は、海に行く資格なし

などの響きがあります。

 

それぞれ程度問題かと思いますし、高みを目指す人は当然備えておくべきことなのですが、現実的に自分も含め大多数の人が出来ていない(やってない)ように思います。ハプニング(通常でない状態)が発生した場合でも生還する(問題を解決出来る)能力をどこまで持つべきなのかです。個人によってどれ位難度の高いリスクに挑戦するかにも依存しています。

ただ余にもお気軽に難易度の高い山(高い山ということではありません。近所の低山でも該当します。)に準備不足で入られる方が多くおられるようです。(またそのような方は、このページを見られることも無いと思いますが…)

万が一遭難の際は、地図を持たない非常識で無謀者と言われないためにも併用は強くお勧めします。

ネットを色々検索すると、地図読み(地形読み)については、個人での技術差があることがわかります。

厳しいご意見の方も、果たしてどこまでの能力指しているのか疑問があります。

(地図と磁石も知識がなければ紙切れとなります。)

また中途半端な地図読み技術では逆に遭難を助長することにもなります。

そもそも『地図読み』とは何でしょうか。

 

それはおそらく

@地図から計画を立てることが出来ること。

 −掛かる時間を予測できる。

 −傾斜度や必要な体力を読み取れる。

 −技術的難易度を想像出来る。

 −万が一のエスケープルートを準備できる。

 −リスクを予知する。

A行動途中のナビゲーションに利用できること。

 −自分の位置を景色や方位磁石、歩行距離から推測(もしくは特定)できる。

 −今後のルートで見えてくる景色を予想(想像)できる。

 −見えている山や建物を地図から推測することが出来る。

 −歩くべき方向を読み取ることが出来る。

 −到着時刻を推測できる。

 −迷いやすい地形を察知する。

ということになるのではないでしょうか。

この能力はGPSを使う、使わないにかかわらずある程度求められます。

 

まず初めに、地図読み術の勘どころとして

http://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=90

が大変参考になりますのでご一読ください。

地図読みの楽しさを紹介されているとともに、「GPSはやめましょう」とも記載されています

 

さてここで、地図を読むことに関して2つに分類してみたいと思います。

実際はより細かな能力レベルがありますのでそれはもう少し先でまとめてみることにします。

 

1)ポイントを押さえた地図利用

  →本屋で販売されている山地図と、方位磁石、時計が必要。

 http://www.mapple.co.jp/mapple/product/images/mountainmap_firstview.jpg index

2)緻密、厳密なナビゲーション 

  →地形図(25000分の1)と、定規付き専用コンパス、時計が必要

index

 

に分けてみます。

 

もしかすると、1)もやっていない人がおられるかもしれません。

実際過去、自身山登りを始めた頃はガイドマップ的なものを

http://www2.city.gero.lg.jp/HP/mori/kairou/16ookura.pdf例)

で地図を持たずに山に出かけるなど、あまり注意をしてきませんでした。

色々登るにつれ、迷うことの怖さを感じてきました。

まだ地図見て歩いたことが無いという人は、少なくとも1)はお試しください。

 

まず1)についておさらいします。

事前準備:地図に記されたルートの掛かる時間や距離を見て(合計して)、歩くルートと開始時間を決めておく。

当日:登山口を地図に照らし合わせ、地図上の現在地を特定する。

   歩行途中は分岐点や、小屋、川(橋)、尾根、看板等から位置を特定し、進む方向を決める。

 

という感じではないでしょうか。この歩き方は「道を歩く」方法で方位磁石もあまり使わないかもしれません。太陽と時間と景色から、大まかな方向は確認しているかもしれません。地図は細かい地形までは視ないで、どちらかというと電車の路線図のように「道」の接続ポイントを確認するようなイメージです。尾根道か谷道か、川に近いか、急斜面か緩斜面(登り・下り)かどうかぐらいは読み取っている人もいるかと思います。

 

http://www.meik.jp/2rosenzu/02_osakakoiki-rosenzu.html

イメージ(どの線は、どの駅でどの線と繋がっているのか)

 

そして2)について考えてみます。

この方法は、正直実践しておりませんのであくまでもご参考情報です。

道なき道や雪山や、人の少ないバリエーションルートで求められる能力です。

 

前提能力:地形図から立体地形をイメージできること。

     これがなかなか難しいです。

等高線の間隔から斜度をイメージできるでしょうか。

 

竹内峠

カシミールの3D表示をしてみました。

 

gnijyo

Google Earthでのイメージ

 

前提知識:25000分の1の地図上で1cmは、25000倍=0.25km (250m)

          (地図上で4cm1km

     平地では人の速度は、人によりますが時速約4kmつまり1時間に4kmです。

          (地図上で平地の場合1時間で16cm進む。)

     地図上では平地の場合1cm進むのに約4分。

     山で斜面だと速度は2分の1から4分の1に落ちます。

     標高差300m登るのに60分〜70分かかるので、10m等高線を上るのに230秒ぐらい。

 

傾斜

1時間で進む距離

1/25000地図上

10分で進む距離

1/25000地図上

平地

4km

16cm

666m

2.6cm

緩やか

3km

12cm

500m

2.0cm

標準

2km

8cm

333m

1.3cm

急登

1km

4cm

166m

0.6cm

(注意:道の状態、季節、人、登りか下りにより異なります。)

 

事前準備:25千分の1の地図に、磁極線を記入

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B9%E4%BD%8D%E7%A3%81%E9%87%9D

磁石が北極を指していないことは、知らない人は少ないかと思いますが、毎年動き回っていることを知らない人は多いのではないでしょうか。(過去は南北反転していたときもあるようです。)

まずは、http://yamahack.com/83 や http://yamahack.com/84が参考になりますが、平行に何本か磁北線を引いておきます。

地図は無償で印刷可能です。

http://littlemountain.biz/?p=1648

必要な情報を地図に記入

@尾根、谷を透明マーカで色付

A歩行ルートや時間

B目標となるもの、通過ポイントとして識別できるもの。

Cその他必要と思われる注意点や迷いやすい点

 

登山開始:ここでは仮に約10分間隔で位置を特定するとします。歩いて約10分経過した所で、距離を測定(推測)。平地だったとすると上記表から、地図上で2.6cm移動。斜面があり、2倍かかったとすると 約1.3cm

方位磁石で前に地点からの角度を決め、歩いたと思われるところに点を置きます。(番号も付ける)置いた点が現在地のはずですので、現在見えている状況が一致しているか確認します。具体的には、

     斜面の傾斜の状況(登り?降り?傾斜の強さ?斜め斜面をトラバース?等)

尾根道なのか谷道なのか

見えている景色(2つ目標物があれば、地図で線を引けば現在地が特定可能)

分岐点か、鉄塔等などの目印の場所か。

尾根や谷だと尾根や谷が向いている方向が、地図と合致しているか。

峠や尾根などの出合か、川かなど。

もし状況と地図が一致していないとなると間違ったルートの可能性あり。

 

かなり参考となるページが以下にあります。

http://www.okimoto-guide.com/#!map/c6ar

https://onedrive.live.com/embed?cid=EFE74E76C69B7470&resid=EFE74E76C69B7470%21328&authkey=APMH2weF1xidc6M&em=2

(http://toyokawa-ac.jp/map

ただこれらの判断を手早く行わないと日が暮れてしまいます。(仮に1か所1分かけると10か所で10分掛かります。)

 

実際は、木々で回りの景色が見えにくいのと、霧やガスで目標物が認識出来ない場合があり、地形も地図に表示出来てない地形に惑わされることが多いため特定は簡単ではありません。また頻繁に地形を観察する必要があります。

http://toyama.shiminjuku.com/documents/tamayama/chizu/img/chizu.pdf

このページも参考になるかと思います。

 

場所は一つのポイントから次のポイントへ、相対的に確定させて行きますので、迷子になって初めて地図を取り出しても場所が確定出来ないということになります。

 

プランニングする際に、コースを立体表示(ヤマレコ3Dとか、Google Earth)等で表示させ、イメージをつかんでおくとよいかと思います。

地図やコンパスはもちろん、GPSも徐々に慣らして見識を深める必要があります。最初は近くの簡単な山から、徐々に難しい山に挑戦する必要があります。GPSを過信し過ぎないように上手く道具を使いこなせたら安全な登山となります。

 

地図読み能力についての研究

地図に掛かれていることを読み解く力、現地において地形と地図との関係を見抜く力について

レベル1

@東西南北が分かる。

 方位

 上記?は全て答えられる。

A地図の上が北をさすことを知っている。

B磁石の赤い棒が北を指すことをしっている。

 また赤い棒に、磁石の「北」を合わせ知りたい方位が指せる。

C等高線の意味を理解できる。

D等高線間隔が短いと急斜面であることを理解できる。

E地図の縮尺が何か知っている。

 5万分の125千分の1ではどちらが詳しいかわかる。

F記号を見れば意味がわかる。(暗記していないが凡例を見れば分かる。)

G三角点という言葉を知っている。

 また地図の山頂を見分けられる。

H太陽(月)が出る方位と沈む方位を知っている。

 また季節により場所と時間が変わることを知っている。

 

レベル2

@磁石の示す方向と本当の北とは数度ズレがあることを知っている。

A地場や、磁気を持った近くにある金属等(送電線や鉄塔)の影響で正しく北を指さない場合があることを知っている。

B定規付きコンパスの合わせ方(リングの使い方)を知っている。

C等高線から、尾根道か谷道かを識別できる。

D等高線から高さを読み取ることが出来る。

E等高線から平地か崖かを識別できる。

Fガイドマップに記載されているコースタイムから歩く量を計画出来る。

G地図と磁石を使って、現在歩いている方向に地図を向けることが出来る。

H見えている隣の山の名前を地図から推測することが出来る。

 

レベル3

@等高線の密度から、斜面を正確にイメージすることが出来る。

A等高線から地形の立体図がイメージできる。

B地形の名前が分かる

 ピーク、偽ピーク、モレーン、コル(鞍部)、沢、ルンゼ、キレット、稜線(りょうせん)等

C地図から植生が分かる。またその植生がどんなものかイメージ出来る。

D地図の縮尺から距離が計算できる。

E時間と太陽(月)の位置でおおよそ方位が特定できる。

 

レベル4

@解説書の時間情報無しで、地形から掛かる時間が推測できる。(登る量と距離から判断)

A歩いた時間とスピードで進んだ距離と方向が推測できる。

B特徴物2つが見える方向と角度から現在位置を推測できる。

C鳥観するように全体の地形と自分の現在位置がイメージ出来る。

 

レベル5

@地図に記載されていない地形を推測できる。

 (隠れコル、隠れピーク等)

A特徴物を複数見分ける力がある。

 (道の見え方、やまの重なり方、送電線の見え方、隣の目標物との高度差など)

 

このレベル分けは賛否色々あるかと思いますがあくまでも試作段階です。

 

このページを書くにあたり、『地図読み』について何冊も読んで、一番分かりやすかった本が下記です。

IMG_1934 IMG_1935

(表紙)           (裏)

図と写真が分かりやすかったです。是非参考にされてください。

 

方向音痴について(調査)

一般の書籍ですが、『話を聞かない男、地図が読めない女―男脳・女脳が「謎」を解く。』という本が販売されています。

男女による脳の違いは横に置いておいても、一般の町中でも道に迷う人と迷わない人など差が出て来ます。この違いが何かを少しだけ調べてみました。まず人が初めて訪問するケースと過去何度か通ったケースを見ます。

さすがに初めて訪問する場所は、皆さん必ず地図(最近ではスマホ地図)が無いと難しいかと思います。(人に聞く方法もありますが…)

さて最初に地図を見たときに

@自分の立っている場所が地図のどこかを特定出来るかどうか。

A目標に合わせて地図を進む方向に回転できるかどうか。

B当座の目標物(最初に進むべき方向にある建物や橋、タワー等)を探せるか。(決めることが出来るか。)

C歩いている途中、道を記憶する際、どのような目印を記憶しようとしているか。

 

2度目以降訪問する際は、

@地図を頭に思い浮かべることが出来るか。また地図を鳥の視点で頭の中で立っている位置と方向をイメージ出来るか。

A特徴のある分岐点を正しく曲がるように記憶出来ているか。(信号を直進、xxコンビニを右折。次はタバコ屋を左折等)

 

ということになるかと思います。

場所(地図)を記憶することと脳の中の海馬という記憶に大きく関係する部分に密接な関係があると言われていますが、方向音痴の人の特徴としては、一般的に以下の特徴があると言われています。

 

A)地図や図形を頭で回転できない。(もしくは北を固定として方向を変換出来ない。)

B)特徴物を固定物ではなく、車や工事現場など移動の可能性があるもので覚えてしまう。

C)考えずにまず感覚で行動してしまう。(自分の感覚を信じる。)

D)記憶が苦手

E)注意力(集中力)が低い

 

これは山でも当てはまるのですが、要するに地理への関心の低さから洞察力や観察力、記憶力が不足するために発生すると言われています。

本当は、脳は地図を求めていますし、脳の海馬にも地図や場所を記憶する専用の仕組みが備わっています。町で迷うのは時間の消費で済みますが、山では命が掛かりますので、関心度を高めて洞察力と観察力を高めましょう。

 

GPS遭難について(研究)

ネットの話で、GPSを所持しながら道に迷い遭難するというショッキングな事例があるようです。そのケースやパターンを調べてみました。

1)世界測地系の設定ミスによる道迷い(北西方向に約450mもずれます。)

2)GPS過信による無計画登山。(下調べなし、ルート設定なしで遭難)

3)故障や電池切れによる利用不可。(予備電池無し、充電確認忘れ。地図併用無しケース。)

4)無謀なショートカットによる事故(方向は分かっているが地形を理解していないケース)

5)そもそもGPSを見ていない(使用方法を知らないケース)

6)藪漕ぎ中GPS紛失による事故(紛失防止されていないケース)

7)その他原因不明のGPS誤差(ごくたまに発生?)

8)事前ルート設定ミス(もしくはルート選定ミス)

9)気軽に藪漕ぎ(ルート外れ)やバリエーションルートを選択する人の増加。

10)沢歩きでの沢選択ミス。(谷はGPS誤差が大きい。また尾根に登っても痩せ尾根の場合は危険。)

 

登山の基本的なことが出来ていないケースが多々あるようです。携帯やスマホの普及で多くの方がGPSを気軽に利用できます。事例を知ればGPSがあれば迷わないということには絶対なりません。(地図と磁石も同様です。)GPSは万能ではありませんので何が出来て、なにが出来ないのか十分理解して利用したいものです。

 

極度なGPS依存登山について

道迷いを怖がる結果、1mもルートを外れたくないという心理からGPSを手放せない人。GPSとにらめっこしながら登山する方は、非常に評判が下がります。

もしかするとこの道は間違っているかもしれないと不安を感じることは道迷いを防ぐ大事なことかと思います。まずは地形を見ること、なにより途中の自然や鳥、風を感じながら登ること重要なことかと考えます。山でのGPSは都会での道案内とは違いますので、使い方を間違えないようにしましょう。

GPSは大まかに現在位置を確認することと、この先進むべき方向の確認等が主となります。)

 

藪漕ぎ(やぶこぎ:道なき道を進むこと)登山について

山では、登山道以外の道なき道や、雪上(トレースなし)を進むことには、高いナビゲーション技術と体力、技術、忍耐力が求められます。万が一の事態への対応能力も装備も通常登山とはだいぶ異なります。

ただ、私信ですが、雪山以外で登山道を離れて山に踏み込むことは全く賛成できません。これは自然(木々や草花、土)を踏み荒らすことになり、『山を荒らす』行為だと考えています。

 

藪漕ぎ推進者の意見

@山を身近に感じる

Aぎりぎり限界に挑戦する

B技術を磨く。根性を鍛える。

C他の自然破壊に比べて影響は微々たるものである。

D人間も動物の一つであり自然な行為である。

 

藪漕ぎ反対の意見

@一人だけでは自然破壊にならないが、文化として大人数が行うと、許容範囲を超える。(Over Use

A枝や道の草花、木々が踏みつけられダメージが残る。また道が出来ることにより他の人が入りやすくなる。

B人以外の生息動物のねぐらを脅かす。

C従来環境以外の種子や菌を持ち込む可能性(もしくは持ち出す可能性)がある

D意図せずゴミを持ち込む可能性がある。(紛失も含む)

 

自然を楽しむことは良いことですが、節度ある自然に畏敬を持ち環境に優しい登山を心掛けたいと考えています。

 

山で遭難しないよう、最大限注意を払いながら自然と人生を楽しみましょう。

 

 

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