1.判決
一部認容,一部棄却。
2.判断
「一 前掲請求の原因のうち,原告が実用新案権を有したその主張の登録実用新案について,原告の訂正審判の請求により審決が成立するに至る手続,審判請求の趣旨および審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。
二 そこで,右審決に原告主張の取消事由があるか否かについて考察する。
(「動力結合点」および「結合ピン」の技術的内容)
1 成立に争いのない甲第2号証(本件実用新案広報)によると,本件考案の要旨は,その原明細書中,登録請求の範囲記載のとおり,耕耘機Aのミツシヨンの一部より動力を取り出し,耕耘機架台3の後方に延長伝動するようにし,一方,トレラーB側は,リヤーシヤフトより架台8の前方ヒツチ金具12附近に至る動力伝動装置を設け,その双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーとを結合する結合ピン13の軸心線上C-Cに設けた耕耘機に連結するトレラーの駆動装置(別紙図面参照)であることが認められる。そして,本件審判請求の趣旨によると,その最も主要な要素は右考案の要旨における「動力結合点」と「結合ピン」とにあるものと解されるところ,右考案の要旨に,右甲号証によつて認められる本件原明細書の考案の詳細な説明中「これによつて,走行するとき施回の場合は,結合ピン13を支点として耕耘機とトレラーは左右屈折することができるが,耕耘機よりトレラーへの動力伝動装置も,結合ピンの軸心C-C線上に結合点17が設けられているから,旋回時においても支障なくリヤーシヤフトへ動力を伝動することができる。」との作用効果の記載および図面の記載をあわせ考えると,
(T)動力結合点は,
(@)耕耘機のミツシヨンの一部から取り出され,その架台3の後方に延長伝動される動力を,トレラー側のリヤーシヤフトより架台8前方のヒツチ金具12附近に至る伝動装置に伝達する点であるとともに,旋回時においてトレラー側の伝動装置に伝達される動力の方向がその点を中心として左右に旋回し得るものであり,
(A)結合ピンの軸心線上,したがつて,屈折時の中心となる軸心線上に位置するものである。
なお,その具体的構成は,右(A)の点のほか何ら限定されていない。
(U)結合ピンは,耕耘機とトレラーとを結合する要素であるとともに,その軸心線が耕耘機とトレラーが左右に屈折するときの中心となる軸心線と一致するものである。
と解することができる。
(「動力結合点」に関する訂正)
2 さて,本件原明細書中,別紙目録記載(7)のように訂正された後における登録請求の範囲の記載によると,「上下に傘歯車を有する垂直伝動軸17」は「双方の動力を結合する旋回自在の動力噛合結合部」を形成するものであるから,その垂直伝動軸の上部および下部にある傘歯車に対応してこれらにそれぞれ噛み合い,かつ,耕耘機側の動力およびトレラー側の伝動装置にそれぞれ結合される傘歯車が当然存在することになるが,前出甲第2号証によれば,そのような垂直伝動軸およびその上下方にある各二枚の傘歯車はすでに本件考案の願書に添付された図面(別紙図面)にも記載されていることが明らかである。そして,右図面第2図から考えると,右垂直伝動軸の上下方にある各二枚の傘歯車の軸心の延長線が交わる点は,上下方ともに垂直伝動軸の軸心線上にあつて,旋回時には,その二つの交点を中心としてトレラー側の伝動装置に伝達される動力の方向が左右に旋回し得るものであるということができ,また,この場合,原明細書について別紙目録記載(8)の訂正は考慮に入つていないから,右交点が結合ピン13の軸心線上に位置していることはいうまでもないところである。したがつて,右交点は前示(T)の(@),(A)の技術的意義の動力結合点に相当する。
そうだとすると,右(7)の訂正は,結局,具体的構成上,格別の限定がなかつた「動力結合点17」について,限定を付加したにすぎないものであり,しかも,その訂正後における構成が図面および原明細書記載の範囲を出でないものであることが明らかであるから,実用新案法第39条第1項第1号にいう登録請求の範囲の減縮に該当するものであつて,同条第2項にいう実質上登録請求の範囲を変更するものではないといわねばならない。
なお,原明細書中別紙目録記載の(2)ないし(6)の訂正は,その内容が,登録請求の範囲の記載を同(7)のように訂正することに附随して,原明細書中,考案の詳細な説明の語句を整理し(同(2)ないし(5)),また,訂正後の構成に基づく作用効果を追加するもの(同(6))であることが明瞭であるから,基本たる右(7)の訂正と同様,法定の訂正の要件を具備するものというべきである。
(「結合ピン」に関する訂正)
3 次に,別紙目録記載(8)の訂正は,原明細書中,登録請求の範囲における「耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C-C」を「耕耘機とトレラーを左右屈折自在に結合する結合軸心線C-C上」に訂正するものであり,また,同(1)の訂正が右(8)の訂正に附随して原明細書中,考案の詳細な説明の語句を整理するものであることはその内容から明らかである。
原告は右(8)の訂正を原明細書および図面の記載の釈明であると主張する。しかし,右訂正により,原明細書中,登録請求の範囲における「・・・結合する結合ピン13軸心線」との記載が「・・・結合する結合軸心線」との記載となる結果,考案の要旨から「結合ピン」なる要件が抹消され,そのため,訂正後における考案の要旨においては,「結合ピン」の前示(U)の技術的意義のうち,少くとも,「耕耘機とトレラーとを結合する要素である」という構成上の限定が解消されたことになるから,右訂正をもつて原告主張のような釈明にすぎないものと解することはできない。原告は,「左右屈折自在に結合する結合軸」と訂正される以上,「ピン13」を抹消してもその構成は変更されない旨を主張するが,右訂正後における本件考案の構成上,耕耘機とトレラーとの結合が例外なく結合ピンによつて行われるものとは容易に考えることができず(その結合が結合ピンによることがこの種駆動装置の技術分野において自明であることを認めるべき証拠はない。),また,「左右屈折自在に結合する結合軸心線」が直ちに結合ピンの軸心線であることを意味するとは限らないから,右主張は到底採用することができない。
そうだとすると,右(8)および(1)の訂正は,本件考案の構成における「結合ピン13」という限定要件を解消した点において実質上登録請求の範囲を変更するものというべきである。
三 以上の次第で,本件原明細書について別紙目録記載の訂正を全部許されないとした審決の判断は,同目録記載(2)ないし(7)の訂正に関する限り誤りというべきであるが,その余を誤りであるということはできない。もつとも,審決が同(8)の訂正を実質上登録請求の範囲を変更するものとした理由は,右に説示したところを出て,その実施例の構成に言及した点に首肯しがたいものがあるが,少くとも,右訂正によつて「結合ピン13」という要件がなくなつたことを根拠としているから,その判断は結局正当たるを失わない。
そして,実用新案法第39条の規定による登録実用新案の明細書または図面の訂正審判請求については,これを時期的に制限する規定がない(ただし,その実用新案権が無効審判により無効にされた後でないことを要する。)のみならず,一請求を一事項に限定する特段の規定もないから,一個の訂正審判請求により複数個の事項の訂正を求めることはもとより妨げがなく,そのような請求に対しては,原則として,事項ごとに訂正の適否を判断してこれに対応する趣旨の審決をすべきものと解するのが相当である。もつとも,訂正を求める複数個の事項が実質上一体不可分の関係にあるため,そのうち一部事項のみの訂正によつては実用新案権者としてその目的を達しえない等,特段の事情が存する場合には当然,右原則を修正すべきものと解するが,単に訂正を求める一部の事項についてこれを不適法とする事由があるというだけで,直ちに審判請求全体を成立しないものとして排斥すべき法律上の根拠はない。
ところが,本件審判請求にかかる訂正については,別紙目録記載の(2)ないし(7)がその他の項と一体不可分にある等の特段の事情を認めることができない。
よつて,本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は,右審決が別紙目録(2)ないし(7)の訂正について審判請求を不成立とした限度において正当として認容し,その余を失当として棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条,民事訴訟法第89条,第92条,第93条1項,第94条を適用して,主文のとおり判決する。」