東京高判平成16年10月21日(平成15年(行ケ)第288号)

1.事案の概要
 X(原告)は,発明の名称を「Webデータ収集装置およびその方法,並びに該方法に係るプログラムを記憶した記憶媒体」とする特許第3017735号(以下「本件特許」という。)の特許権者である。
 Y(被告)は,平成14年2月19日,Xを被請求人として,本件特許の請求項1ないし6に係る発明についての特許について,これを無効とすることを求めて本件審判の請求をした(無効2002-35057号)。本件審判の手続において,Xは,平成14年4月30日,本件特許出願に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
 本件明細書の「特許請求の範囲」の請求項1ないし6に記載された発明(請求項1ないし6に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は,次のとおりである。
  【請求項1】 インターネット,イントラネット,またはエクストラネット上で,検索条件を入力し該検索条件に合致した情報を表示するページを対象としてWebデータを自動的に収集するWebデータ収集装置であって,検索対象のページを指定する手段と,検索条件を入力する手段と,該検索条件での検索の実行を指示するリクエストを生成して,検索対象のサーバに送信する手段と,検索結果であるレスポンスを受信する手段と,レスポンス中のコンテンツを格納する格納手段と,該コンテンツ中から次ページの有無を検出する手段と,次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得し前記格納手段に格納し,次ページがある限りこれを繰り返す手段とを備えたことを特徴とするWebデータ収集装置。
  【請求項2】 インターネット,イントラネット,またはエクストラネット上で,検索条件を入力し該検索条件に合致した情報を表示するページを対象としてWebデータを自動的に収集するWebデータ収集装置であって,検索対象のページを指定する手段と,検索条件を入力する手段と,該検索条件での検索の実行を指示するリクエストを生成して,検索対象のサーバに送信する手段と,検索結果であるレスポンスを受信する手段と,レスポンス中のリンクをたどって該リンクページをダウンロードし,該ダウンロードしたページデータを格納する格納手段と,前記レスポンス中から次ページの有無を検出する手段と,次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得し,取得したページデータ中のリンクをたどって該リンクページをダウンロードし,該ダウンロードしたページデータを前記格納手段に格納し,次ページがある限りこれを繰り返す手段とを備えたことを特徴とするWebデータ収集装置。
  【請求項3】 さらに情報収集するネストレベルを指定する手段を備え,該ネストレベルまで前記コンテンツ中に含まれるURLをたどって情報収集することを特徴とする請求項1または2の何れか1つに記載のWebデータ収集装置。
  【請求項4】 前記格納手段に格納する情報に対し,さらに別の検索条件での検索をかけ,その検索結果を前記格納手段に格納することを特徴とする請求項1または2の何れか1つに記載のWebデータ収集装置。
  【請求項5】 検索された情報のうち,どのフィールドの情報を表示するか,その表示条件を入力する手段をさらに備え,前記格納手段に格納された情報から,前記表示条件で指定されたフィールドの情報を抽出して表示することを特徴とする請求項1または2の何れか1つに記載のWebデータ収集装置。
  【請求項6】 次ページがある限り情報収集を続ける代わりに,所定の条件に基づいて情報収集を終了する手段をさらに備えた請求項1または2に何れか1つに記載のWebデータ収集装置。
 本件訂正後の明細書(以下「本件訂正明細書」という。)の「特許請求の範囲」の請求項7ないし13に記載の発明(以下「本件訂正発明7」ないし「本件訂正発明13」という。)は,次のとおりものである。
  【請求項7】インターネット,イントラネット,またはエクストラネット上で,検索条件を入力し該検索条件に合致した情報を表示するページを対象としてWebデータを自動的に収集するWebデータ収集方法であって,検索対象のページを指定するステップと,検索条件を入力するステップと,該検索条件での検索の実行を指示するリクエストを生成して,検索対象のサーバに送信するステップと,検索結果であるレスポンスを受信するステップと,レスポンス中のコンテンツをファイルとして格納する格納ステップと,該コンテンツ内を解析し,次ページの指定があるか否かを判別して次ページの有無を検出するステップと,次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得しファイルとして格納し,次ページがある限りこれを繰り返すステップとを備えたことを特徴とするWebデータ収集方法。
  【請求項8】インターネット,イントラネット,またはエクストラネット上で,検索条件を入力し該検索条件に合致した情報を表示するページを対象としてWebデータを自動的に収集するWebデータ収集方法であって,検索対象のページを指定するステップと,検索条件を入力するステップと,該検索条件での検索の実行を指示するリクエストを生成して,検索対象のサーバに送信するステップと,検索結果であるレスポンスを受信するステップと,レスポンス中のリンクをたどって該リンクページをダウンロードし,該ダウンロードしたページデータを格納する格納ステップと,前記レスポンス中のコンテンツ内を解析し,次ページの指定があるか否かを判別して次ページの有無を検出するステップと,次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得し,取得したページデータ中のリンクをたどって該リンクページをダウンロードし,該ダウンロードしたページデータを前記格納手段に格納し,次ページがある限りこれを繰り返すステップとを備えたことを特徴とするWebデータ収集方法。
  【請求項9】さらに情報収集するネストレベルを指定するステップを備え,該ネストレベルまで前記コンテンツ中に含まれるURLをたどって情報収集することを特徴とする請求項7または8の何れか1つに記載のWebデータ収集方法。
  【請求項10】前記ファイルとして格納する情報に対し,さらに別の検索条件での検索をかけ,その検索結果をファイルとして格納することを特徴とする請求項7または8の何れか1つに記載のWebデータ収集方法。
  【請求項11】検索された情報のうち,どのフィールドの情報を表示するか,その表示条件を入力するステップをさらに備え,前記ファイルとして格納された情報から,前記表示条件で指定されたフィールドの情報を抽出して表示することを特徴とする請求項7または8の何れか1つに記載のWebデータ収集方法。
  【請求項12】次ページがある限り情報収集を続ける代わりに,所定の条件に基づいて情報収集を終了することを特徴とする請求項7または8の何れか1つに記載のWebデータ収集方法。
  【請求項13】請求項7から12の何れか1つに記載のWebデータ収集方法に係るプログラムを記憶したことを特徴とするプログラム記憶媒体。
 特許庁は,本件訂正は特許法第126条第1項各号のいずれかであるとした上で,請求項7乃至13についての訂正は,審判請求がされていない請求項についての訂正であり,その内容は特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるから,その訂正により特定される本件訂正発明7ないし本件訂正発明13について,独立特許要件の判断をした。その結果,(1)本件訂正発明7,8については,米国特許第5890172号明細書(以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)である,(2)本件訂正発明9は,引用発明1と特開平10-207759号公報(以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて,当業者が容易になし得たものである,(3)本件訂正発明10は,引用発明1及び特開平9-305611号公報(以下「刊行物3」という。)に記載された発明(以下「引用発明3」という。)に基づいて,当業者が容易になし得たものである,(4)本件訂正発明11は,引用発明1及び特開平8−55132号公報(以下「刊行物4」という。)に記載された発明(以下「引用発明4」という。)に基づいて,当業者が容易になし得たものである,(5)本件訂正発明12は,引用発明1及び2に基づいて,当業者が容易になし得たものである,(6)本件訂正発明13のうち本件訂正発明7及び8を引用する発明は引用発明1であり,本件訂正発明13のうち本件訂正発明9ないし12を引用する発明は,引用発明1ないし4に基づいて,当業者が容易になし得たものである,と判断し,平成15年5月27日,本件訂正の請求は認められないとした上,「特許第3017735号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。
 X出訴。

2.争点
(1)本件訂正発明7ないし13についての独立特許要件の具備に関する判断の誤り。
(2)本件訂正の適否を請求項ごとに判断しなかった判断の誤り。
(3)本件発明1ないし6について特許要件の具備に関する判断の誤り。

3.判決
 請求棄却。

4.判断
「第4 当裁判所の判断
  1 取消理由1(本件訂正発明7ないし13についての独立特許要件の具備に関する判断の誤り)について
    (1)本件訂正発明7について
      Xは,引用発明1は,本件訂正発明7の構成要件G(該コンテンツ内を解析し,次ページの指定があるか否かを判別して次ページの有無を検出するステップ)及び構成要件H(次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得しファイルとして格納し,次ページがある限りこれを繰り返すステップ)に相当するものを備えているとした本件審決の判断は誤りであるとし,(X主張の取消事由)・・・のとおり主張するので,以下判断する。
      ア Xは,「「next」判定部850」で判定される最終URLは,FIG.5Cにいう符号584のhot-linkであると解するほかなく,これを符号588として示された「Next20」と解する余地はないと主張する。
        (ア)そこで検討するに,刊行物1には,「「Next」判定部850」に関して,別紙・・・のとおり,「FIG.8Bに検索手順の自動ジャンプモードの詳細を示す。この手順は,ユーザーに対して,ブラウザウィンドウ内のレベル1のhot-linksで示されるレベル2のファイル群の動的なツアーを見ることを可能にする。連結ブロックAで開始し,制御はmemory fetch手順840へ移行する。そこで最初のURL(FIG.2で示される格納部230内のhot-linksの一部である)がjumperにより取り出される。次に,jumper−browser手順842において,最初のURLがブラウザに送られる。userI/O208の制御により,ブラウザは,当該サイトと当該サイトにあるファイルにアクセスし,ブラウザウィンドウ406に当該ファイルがアップロードされ表示される。」(第10欄51〜61行,訳文22頁14〜25行)との記載,別紙・・・のとおり,「制御は遅延手順844へ進み,ユーザーが選択可能な表示インターバルに基づき,選択されたインターバルでページ画像がブラウザウィンドウ406に表示される。インターバルが終ると制御はmemry fetch手順846に進み,解析されたHTMLファイルの次のURLが取り出され,リスト最終判断部848において,当該URLが格納されたURL群の最後であるかどうかが判定される。・・・判定が肯定であれば,制御は「next」リンク判定部850へ移行する。「next」リンク判定部850では,(FIG.5Cの588の例で示す通り)その最終URLが,また,次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか判定される。」(第11欄3〜22行,訳文22頁33〜23頁5行)との記載がある。
          上記記載によれば,引用発明1において,「「Next」判定部850」で「次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか」が判定される最終URLは,「格納部230」内に格納されたhot-linksでジャンパ(jumper 28)により取り出されるものであると解される。
          ところで,刊行物1には,別紙・・・のとおり,ブラウザにより取得されたファイルが「next feature 588」を含んでいることは記載されているが(第7欄64〜65行,訳文18頁14〜16行,及びFIG.5C),取得された「next feature 588」がジャンパにより「格納部230」にhot-linksの1つとして格納されるかどうかについて,明確な記載はない。
          しかしながら,刊行物1には,上記のとおり,「「next」リンク判定部850では,(FIG.5Cの588の例で示す通り)その最終URLが,また,次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか判定される。」と記載されているから,「next feature 588」が格納部230に格納されて最終URLとして取り出されることが示唆されているといえる。仮に,「next feature 588」が格納部230に格納されておらず,最終URLとして「「next」リンク判定部」で判定されるhot-linkがXの主張するようにFIG.5Cで示される「hot-link 584」であるとするならば,この「hot-link 584」は対応するレベル2のファイルへのリンクを含むのみであって,「次の10個のエントリへのクエリを含むかどうかが判定される」という判定手順は技術的に意味のないものとなる。
          したがって,刊行物1の上記記載からは,「「next」リンク判定部」で判定される最終URLは,「next feature 588」であると解するのが合理的であり,当業者であればそのように解するのが自然である。
        (イ)Xは,刊行物1のjumperボタン312等の記載(第9欄2〜6行,訳文19頁40〜44行)は,本件審決が認定した自動ジャンプモードの実施例の一部をなすものであるから,本件審決が,上記「「next」リンク判定部」の解釈に際して,上記「jumperボタン312等の記載(第9欄2〜6行)は,「next」リンク判定部850での判定が問題となる自動ジャンプモード時とは異なる場面のものである」と判断したのは誤りであると主張する。
          Xの主張するように,刊行物1の「jumperボタン312」等の記載(第9欄2〜6行)は,自動ジャンプモードと共通の1つの実施例についての説明をした部分であるが,この記載中に「next feature 588」への言及はない。
          ところで,刊行物1には,「jumperを使えば,ユーザはいくつかのオプションを有する。最初のオプションとしては,ユーザーはjumperボタン312,314,316,318,320のひとつを選択してそれぞれ,Fig.6で示される,先頭,前,ランダム,次,最後のhot-links(jumperドロップダウンリスト586に入っている)に戻ることができる。ユーザの選択に対応して,選択されたhot-linkに対応するファイルが取得され,ブラウザウィンドウ406に表示される。2つめのオプションは,ユーザーはタイマー開始ボタンを選択して,解析されたリストのすべてのhot-linksを時間間隔を置いて自動的に連続して選択することを開始できる。自動ジャンプモードの選択に対応して,選択されたhot-linkに対応する各ファイルが時間間隔を置いてブラウザによって取得され表示される。3つめのオプションは,ユーザーがドロップダウンウィンドウボタン310を選択し,提示されたエントリをドロップダウンリストからマウスをクリックして選択できることにある。」(第9欄1〜15行,訳文19頁39行〜20頁7行)と記載されている。
          また,刊行物1には,単独ジャンプモードと自動ジャンプモードに関して,「FIG.9Bは単独ジャンプまたは自動ジャンプモードで,一度に多段階の縦断をする本発明のひとつの実施形態を利用するものである。単独ジャンプモードで,検索者がレベル5のファイル932に到達したとき,ユーザがレベル1に戻ることを欲する場合,従来のブラウザのように逆順に辿る必要はない。すなわち,ユーザーはjumperに対し,次のレベル1のhot-linkにアクセスすることを指示する。それに応じて,jumperは単独ジャンプ914によって,レベル5のファイル932からレベル1ファイル932のhot-linksで示されるレベル2ファイルにユーザーを戻らせる。多くの時間が節約され,ユーザーは他のレベル1のhot-linksの検索を進めることができる。自動ジャンプモードでは,ユーザーは,ファイル902の全てのhot-linksにアクセスするようjumperに指示する。すると,jumperはレベル2のファイル926,934,936のそれぞれにアクセスして表示するようにブラウザに指示する。これらのファイルは,jumperが時間間隔を置いてhot-links924,922,920のそれぞれを,解析されたhot-linkリストからブラウザに送ることに対応して,ブラウザにアクセスされるものである。ブラウザは,hot-links924,922,920がそれぞれ指し示すファイル926,934,936にアクセスする。これにより,ユーザーはブラウザウィンドウで時間間隔を置いたアニメーションを見ることができる。」(第5欄24〜45行,訳文14頁1〜23行)と記載されている。
          上記の各記載によれば,「jumperボタン312」等の記載部分は,自動ジャンプモードとは異なる単独ジャンプモードのjumperボタンの使用法を説明した部分であることが明らかである。そして,上記のように,単独ジャンプモードは,「jumperボタン312」等を使用することにより,レベル5のファイルから,選択されたレベル1のhot-linkに対応するレベル2のファイルに直接移ることができるモードであるのに対し,自動ジャンプモードは,数ページに及ぶレベル1のhot-linksに対応するレベル2のファイルを,すべて,時間間隔を置いて自動的に表示することができるモードであるから,単独ジャンプモードでは,次ページが存在するか否かに重要性がないのに対し,自動ジャンプモードでは,次ページがある場合に次ページに移る処理が重要になるものである。なお,ブラウザによるWebデータの取得画面には,検索条件に合致した20件未満の場合もあり,この場合は「next feature」は存在しない。また,検索条件に合致した件数が20件以上であって,hot-linksの最後に「next feature」が存在し,jumperボタンによりこれが選択された場合には,次の20個のエントリを含むファイルが取得され,新たな20件のhot-linksが表示されるだけであるから,動作上何ら支障はない。したがって,いずれにしても,自動ジャンプモード以外では「next feature」に言及する必要は必ずしもない。「jumperボタン312」等の記載部分には,このようなことから「next feature」についての言及がないものと解される。
          そうすると,「jumper312」等の記載部分に「「next feature」についての言及がないからといって,そのことは,「判定部848」によって「最終」であることが判別され,さらに「「next」リンク判定部850」の処理に供される「最終URL」が「next feature」ではないとする根拠とはなり得ない。本件審決の上記判断は,この趣旨をいうものと解されるのであって,これを誤りということはできない
        (ウ)以上のとおり,本件審決が,「「next」リンク判定部」で判断される最終URLが「next feature 588」であると認定した点に誤りはない。
      イ Xは,「「next」リンク判定部」においては,「最終のURL」が「次の10個のエントリへのクエリを含むか」どうかが判定されるのであり,「「next」リンク判定部850」において,最終URLに対応するテキスト部分に「next」があるか否かを判定しているということは,刊行物1には一切記載されていないし,示唆もされていないと主張する。
        そこで,検討するに,刊行物1の記載事項である別紙・・・の記載とFIG.5A〜5Cの記載によれば,検索条件「Rat」に合致したファイルが74件あることが示されているが,この74件について,刊行物1の「「next」リンク判定部850では,(FIG.5cの588の例で示すとおり)その最終URLがまた次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか判定される。」(第11欄19〜22行,訳文23頁2〜5行)との記載に従って,hot-linksを10個ずつ取得するようにすれば,最後は「4件のhot-links」が残ってしまう。この場合,「「next」リンク判定部850」では,文字どおり,最終URLが「次の10個のエントリへのクエリを含むがどうか」の判断が行われるのであれば,その判定結果は否定となり,「最後の4個のhot-links」に対応するレベル2のファイルは,自動ジャンプモードの手順ではブラウザで表示することができない。
        しかし,引用発明1が,自動ジャンプモードで,「最後の4個のhot-links」に対応するファイルを表示することなしに終了することを意図したものであるとは,技術常識からは考えられない。「「next」リンク判定部」が,最終URLに「次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか」ではなく,「次の何個かのエントリへのクエリを含むかどうか」を判断しているものと解すれば,「最後の4件のhot-links」は,他のhot-linksと同様にブラウザに送られ,レベル2のファイルが表示できることは明らかである。そして,このように解することは,刊行物1の他の記載と何ら矛盾するものでなく,引用発明1についての技術常識にかなった合理的な解釈というべきである。したがって,当業者であれば,引用発明1において,「「next」リンク判定部」は,最終URLに対応するテキスト部分に「next」があるか否かを判定していると理解するのが自然である。この点に関する本件審決の認定に誤りはない。
        なお,後述するように,刊行物1における「次の10個のエントリ」,「次の10個のhot-links」という記載は,「次の20個のエントリ」,「次の20個のhot-links」の誤記であると認めらるところ,その場合でも,「最後の14件のhot-linksの一覧」を表示するページを取得できる構成が開示されているか否かが問題となるが,上記と同様に判断される。
        したがって,「「next」リンク判定部」は「Next20」ないし「Next10」の記載を判定しているのではなく,「Next」の記載を判定しているとするのが相当」とした本件審決の判断に誤りはない。
      ウ Xは,刊行物1の記載事項である別紙・・・の「次の10個のエントリ」,「次の10個のhot-links」の「10」の記載は,「20」の誤記ではなく,そのことを前提にすれば,引用発明1の「「next」リンク判定部850」という「判定手段」は,「最終URLが次の10個のエントリへのクリエを含むか否かを判定する手段」であって,同「判定部850」はFIG.5Cで符号588として示されている「Next20」を検出しているものではなく,また,引用発明1における「「next」リンク判定部850」の判定が肯定であった場合に,手順852で送信されるクエリは,「該次ページ」とは別物の,「10件」という指定のある取得リクエストであることは明らかであると主張する。
        (ア)Xにおいて,刊行物1の記載中の上記「10」を「20」の誤記ではないとする理由は,刊行物1には,「最終URLが,また,次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか判定される。判定が肯定であった場合,制御はjumper-browser-jumper手順852に進む。手順852では,次の10個のhot-linksのためのクエリがヤフーに送られる。それに応じて,次の10個のhot-linksを含むHTMLにエンコードされたページが取得される。」(第11欄19〜27行,訳文23頁4行〜23頁10行)と記載され,FIG.8Bのフローチャートに「LAST=NEXT"10"?」と記載されており,そのすべてを誤記であるということはできないというものである。
          しかし,前記アで検討したように,引用発明1において,「「next」判定部」で判定される最終URLは「next feature 588」であって,刊行物1のFIG.5Cには「Next20」として記載されている。Yahoo検索サイトの回答画面における表示件数が通常は「20件」であることは当業者に一般に知られた事実であるから,刊行物1の記載事項である,「「next」判定部」で判定される最終URLが「次の10個のエントリを含むか否か」を判定し,この判定が肯定の場合に,「次の10個のhot-linksのためのクエリ」を送信し,「次の10個のhot-linksを含むページが取得される」という記載(別紙・・・)の「10」は,明らかに「20」の誤りであると解される。上記「10」に関する記載はすべて関連した記載であるから,1箇所の誤りがすべてに波及するのであり,すべての記載を誤記であるとする解釈は何ら不自然なものではない。
        (イ)Xは,検索サービスYahoo!において,次の何件のhot-linksを取得するかについて任意に指定することは公知の事実であり,刊行物1に「10」という数字が複数箇所記載されていることからすれば,刊行物1では初期値として「10件」と設定されているものと解するしかないと主張する。また,ネットワークの検索サービスにおいて,ユーザーは最初の20〜30件をチェックし,目的の情報が取得できそうにないことが分かれば,別のより適当な検索キーワードを試すのが通常であり,21件目以降についてさらに20件ごとにデータを取得する必要性は乏しく,10件ごとにデータを取得していくことで十分であるとも主張する。
          しかし,Yahoo検索サイトの表示数が通常20件単位であることを考慮すれば,刊行物1にこれを「10件」として設定することの明確な記載がされてない以上,初期値として「10件」が設定されていると解することはできない。
          なお,刊行物1には,「他の実施形態では,ユーザーが検索結果からいくつかのサイト識別情報が解析されるかをユーザーが決められるようにすることである。たとえば,検索結果が20のサイト識別情報を提供し,ユーザーが最初の5個の識別情報のみを欲する場合,ユーザは最初の5個の識別情報のみが提供されるようにすることができる。」(第12欄51〜56行,訳文25頁10〜15行)とも記載されているが,該記載は他の実施例についてのものであり,上記「10件」が初期設定されているという解釈とは結び付くものではない。
        (ウ)上記のとおり,刊行物1の記載事項である別紙・・・の記載事項である「次の10個のエントリ」,「次の10個のhot-links」との記載における「10」は「20」の誤りであると認められるから,それが誤記ではないことを前提するXの主張は,その前提を欠くものである。
          のみならず,仮に刊行物1記載中の上記「10」が誤記ではないとしても,引用発明1において,前記ア及びイで説示したところからすれば,「「next」リンク判定部」で判断される最終URLが「next feature 588」であること,「「next」リンク判定部」においては,最終URLに対応するテキスト部分に「next」があるか否かを判定するものであることには変わりがないというべきであり,刊行物1には記載事項である別紙・・・に「次の10個のエントリ」,「次の10個のhot-links」との記載及びFIG.8Bに「LAST=NEXT"10"?」との記載があり,他方,その記載事項である別紙・・・には「そのうち最初の20件のhot-linksが表示されている。」との記載があり,実施例の説明としては一貫性を欠くが,このことにより,上記の判断が左右されるものではない。
      エ 以上のとおり,Xの上記主張はいずれも理由がなく,本件訂正発明7が引用発明1であるとの本件審決の判断に誤りがあるということはできない。
    (2)本件訂正発明8について
      本件訂正発明7が引用発明1であるとの本件審決の判断に誤りがないことは前記(1)で説示したとおりであり,その誤りがあることを前提に,本件訂正発明8の新規性に関する判断も誤りであるとするXの主張は,その前提を欠き理由がない。
    (3)本件訂正発明9ないし13について
      本件訂正発明7及び8が引用発明1であるとの本件審決の判断に誤りがないことは前記(1)及び(2)で説示したとおりであり,その誤りがあることを前提に,本件訂正発9ないし13が新規性ないし進歩性を欠き,独立特許要件を具備しないとした本件審決の判断の誤りをいうXの主張は,その前提を欠き理由がない。
  2 取消理由2(本件訂正の適否を請求項ごとに判断しなかった判断の誤り)について
    1つの特許出願により特許を受けることのできる発明は,1つの発明又は単一性の要件を満たす相互に技術的に密接に関連した2以上の発明であり,当該発明についての特許出願において請求項が複数存在する場合,それらの請求項は互いに関連している場合が通常であり,1つの請求項の訂正が他の請求項に影響を及ぼすことのあることは明らかである。このような関係にある請求項について,上記特許出願に添付された明細書又は図面の記載についてこれを複数箇所にわたって訂正を求める訂正請求は,その訂正が単なる誤記の訂正であるような形式的なものであるときは格別,それが特許請求の範囲に実質的に影響を及ぼすものであるときには,これを一体不可分の一個の訂正を求めているもの解すべきである。そして,このような訂正請求がされたときは,請求人において,訂正請求書の訂正事項を補正して,上記複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しない限り,特許庁は,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの判断ができるだけであると解するのが相当である。複数の請求項のうちどの請求項について,いかなる訂正をするかどうかは,請求人において適宜選択できることであり,上記のように解しても格別の不都合はないというべきである。
    本件訂正の請求は,本件明細書の「特許請求の範囲」の請求項1から13に関し複数箇所について特許請求の範囲に実質的に影響を及ぼす訂正を求めるものであるところ,Xは,本件審判の手続において,本件訂正の請求書を補正して,その一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明確にする措置をとっておらず,したがって,特許庁において,本件訂正の請求を一体不可分のものとして扱い,その可否を判断したことに誤りはない。
  3 取消事由3(本件発明1ないし6について特許要件の具備に関する判断の誤り)について
    本件訂正発明7及び8が引用発明1であるとの本件審決の判断に誤りがないことは前記1で説示したとおりであり,したがって,その誤りがあることを前提に,本件発明1及び2の新規性に関する判断,本件発明3ないし6の進歩性に関する判断も誤りであるとするXの主張は,その前提を欠き理由がない。
  4 以上によれば,Xが取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,本件審決には他にこれを取り消すべき瑕疵は見あたらない。
    よって,Xの本件請求は,理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。」