1.事案の概要
Y(被告)は,考案の名称を「中通し釣竿」とする登録第2538358号の登録実用新案(平成3年2月4日に出願された実願平3-3581号について平成8年1月19日になされた分割出願(以下「本件分割出願」という。)に基づき,平成9年3月7日に設定登録された。以下「本件登録実用新案」といい,その考案そのものを「本件考案」という。)の実用新案権者である。
特許庁は,本件登録実用新案の登録につき,異議の申立てを受け,これを平成9年異議第75933号事件として受理した。Yは,この審理の過程で,取消理由通知を受け,その指定期間内に,本件登録実用新案に係る願書に添付された明細書について訂正請求をし,次いで,この訂正請求に対し訂正拒絶理由の通知を受けて,その指定期間内に手続補正をした。特許庁は,上記事件につき,「訂正を認める。実用新案登録第2538358号の請求項1ないし2に係る実用新案登録を維持する。」との異議決定をした(以下,上記訂正を「本件訂正」という。)。
X(原告)は,平成12年3月14日,本件登録実用新案の請求項1及び2に関し,その登録を無効にすることについて審判を請求し,特許庁は,この請求を無効2000-35133号事件として審理した結果,平成12年8月28日,@本件訂正は,請求の範囲の減縮,及び,不明りょうな記載の釈明に相当する,A本件分割出願は,適法であり,その出願日は,平成3年2月4日に遡及する,B本件考案は,実願昭63-74403号(実開平1-178373号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。),特開平2-20233号公報(以下「引用例2」という。),実願昭55-155704号(実開昭57-76474号)のマイクロフィルム(以下「甲第6号証刊行物」という。),実公昭63-34525号公報(以下「甲第7号証刊行物」という。),特開昭56-127032号公報(以下「甲第8号証刊行物」という。)のそれぞれに記載された発明ないし考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえない,と認定判断して,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
X出訴。
本件登録実用新案の実用新案登録請求の範囲(本件訂正による訂正後のもの)は,次のとおりである。
「【請求項1】繊維強化複合材料によって形成された竿管の概ね軸長方向に沿った竿管表面に,釣糸を外部から内部に導入する,前記軸長方向に長い長孔を設け,該長孔の孔周辺部に厚肉部を一体に形成すると共に,該長孔近傍の竿管表面よりも高い位置にあり,リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが,前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されていることを特徴とする中通し釣竿。
【請求項2】前記長孔の縁部の強化繊維に織布を具備してなる請求項1記載の中通し釣竿。」
2.争点
(1)登録明細書に記載されていない,「一般に孔は釣糸を自在に導入させるべく大きな領域を確保することが好ましいが,竿管に対して大きな円形の孔や竿管の幅方向に長い長孔を設ければ,その部位の強度が大きく低下することになるが,軸長方向に長い長孔を設けて大きさを確保すれば強度の低下が防止される。」との記載を追加する訂正は新規事項を追加するものか。
(2)分割出願要件についての判断の誤り。
3.判決
審決取消。
4.判断
「第5 当裁判所の判断
1 本件訂正の概要
証拠(甲2,甲9)によれば,本件訂正は,次の(1)の登録明細書の【実用新案登録請求の範囲】の請求項1,2を,(2)のとおりに訂正し,かつ,登録明細書の【考案の詳細な説明】を(3)のとおりに訂正したものであり,アンダーラインを付した部分がその訂正部分である。
(1)登録時の実用新案登録請求の範囲
【請求項1】繊維強化複合材料によって形成された竿管に釣糸を外部から内部に導入する孔を設け,該孔の孔周辺部を厚肉に一体化形成したことを特徴とする中通し釣竿。
【請求項2】前記孔の縁部の強化繊維に織布を具備してなる請求項1記載の中通し釣竿。
(2)本件訂正による実用新案登録請求の範囲
【請求項1】繊維強化複合材料によって形成された竿管の概ね軸長方向に沿った竿管表面に,釣糸を外部から内部に導入する,前記軸長方向に長い長孔を設け,該長孔の孔周辺部に厚肉部を一体に形成すると共に,該長孔近傍の竿管表面よりも高い位置にあり,リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが,前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されていることを特徴とする中通し釣竿。
【請求項2】前記長孔の縁部の強化繊維に織布を具備してなる請求項1記載の中通し釣竿。
(3)本件訂正による考案の詳細な説明
【0001】【考案の属する技術分野】本考案は,釣糸を外部から内部に導入する孔を設けた中通し釣竿に関する
【0002】【従来の技術】例えば実開平1-178373号公報(判決注:引用例1)には,中通し部材から竿管内に釣糸を導入し,竿管内を挿通させて先端から導出して使用する中通し釣竿が開示されている。この中通し釣竿には前後の竿管を継ぎ合わせた部分に中通し部材が配置されており,これに釣糸を導入する貫通孔が形成されている。
【0003】【考案が解決しようとする課題】然しながら,この構造では前側の竿管にはこの貫通孔用の,即ち釣糸導入用の切欠部を形成しており,前後の竿管を継ぎ合わせた状態でも,この釣糸導入用の切欠部の周囲の竿管本体は各竿管単独の肉壁部でしかなく,切欠部の影響で釣竿強度が非常に弱くなる。
【0004】依って本考案は,釣糸導入用の孔を設けた中通し釣竿の強度を向上させることを目的とする。また,孔の加工の際や釣りにおいて,孔の縁がささくれたり,裂けや割れの発生を防止することを目的とする。
【0005】【課題を解決するための手段】(実質的に請求項1,2と同文)
【0006】竿管の釣糸導入用孔の孔周辺部を一体厚肉化しているため,孔を設けたことによる竿管の強度低下を補強できる。一般に孔は釣糸を自在に導入させるべく大きな領域を確保することが好ましいが,竿管に対して大きな円形の孔や竿管の幅方向に長い孔を設ければ,その部位の強度が大きく低下することになるが,軸長方向に長い長孔を設けて大きさを確保すれば強度の低下が防止される。また,リールからの釣糸を案内挿通させてからより低い位置の長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが,前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されているため,リールから引出された釣糸を環状ガイドリングに挿通させてから長孔の中を経由して竿管に導入させて釣りを行う場合,釣糸を介して作用する環状ガイドリングへの負荷はより低い位置の厚肉部領域に伝達されるが,ここが厚肉であるために釣糸導入部領域の強度が向上しており,強い。
また,この長孔の縁部の強化繊維に織布を具備していれば,孔の加工時や釣りの際にささくれが発生し難く,裂けや割れも防止できる。
【0007】【考案の実施の形態】以下,本考案を添付図面に示す形態例に基づき,更に詳細に説明する。・・・
【0008】・・・竿管13には,該竿管の軸長方向に長い細巾長孔35が形成されており,この孔35には,外枠筒37に保持された管状ガイド47が傾斜状に挿入されている。この孔35の存在は竿管13の強度を著しく低下させるため,図示の如く,孔35の縁部を含む周辺部を厚肉部25に形成し,竿管本体部に一体化形成している。
【0009】この形態例では,厚肉部25は図4に示すように,竿管13の本体部27とほぼ同一の肉厚を有し,本体部27より多少大径の中間層29と,この中間層29の内側に一体形成された内側層31と,中間層29の外側に一体形成された外側層33とから構成されている。
【0010】中間層29は,竿管13の本体部27を延設して形成され,本体部27と同様に,例えば,軸長方向繊維を主体としたカーボン繊維等の高強度繊維を強化材とした複合材料によって形成されている。内側層31は,例えば,ガラス繊維,有機繊維等からなる補強繊維の織布を強化材とした複合材料により形成されている。外側層33は,例えば,カーボン繊維,ガラス繊維等からなる高強度繊維の織布を強化材とした複合材料により形成されている。
【0011】・・・外枠筒37には,その後端部43から前記細巾長孔35に向けて傾斜するガイド孔45が形成されている。このガイド孔45にはほぼ直線状の上記管状ガイド47が挿通固定されている。そして,管状ガイドの後端部49が竿管13の外側に位置し,前端部51が竿管13の内側に位置している。
【0012】管状ガイド47の後端には顎部53が形成され,該顎部が外枠筒37の端部に形成されている凹部55に挿入され,該管状ガイド47は接着或いは圧入によって外枠筒37に固定されている。また,凹部55には,例えば,炭化珪素,ジルコニア,アルミナ等の耐摩耗性材料からなる環状ガイドリング57が挿入固定されている。管状ガイド47の前端部51は,厚肉部25の細巾長孔35の先端に当接した後,竿管13の内側に突出している。また,管状ガイド47の前端の内面には,面取平面,或いは面取曲面が形成されている。
【0013】なお,管状ガイド47の中心軸線と竿管13の中心軸線とのなす角度は,20度以下がよく,好ましくは5度から15度に形成するのがよい。また,管状ガイド47の外径は厚肉部25の外径の30%以下が好ましく,このようにすることにより,細巾長孔35の巾を小さくすることができ,竿管13の強度低下を防止できる。
【0014】以上のように構成された中通し釣竿では,竿管13に一体形成された厚肉部25に,竿管13の軸長方向に長径部を有する細巾長孔35を形成すると共に,厚肉部25の外側に外枠筒37を装着し,この外枠筒の後端部43から細巾長孔35に向けて傾斜して形成されるガイド孔45に,ほぼ直線状の管状ガイド47を挿通固定させ,この管状ガイドの後端部49を竿管13の外側に位置させ,前端部51を竿管13の内側に位置させたので,竿管13の釣糸導入部の剛性を従来より大幅に向上させることができると共に,釣糸導入部における釣糸の摺動抵抗を従来より大幅に低減することができる。
【0015】即ち,竿管13の先端部の継合部を除いた部分に細巾長孔35の形成される厚肉部25を形成し,この厚肉部に外枠筒37を装着し,この外枠筒37に管状ガイド47を挿通させるようにしたので,竿管13の釣糸導入部21の剛性を従来より大幅に向上することができる。特に管状ガイド47の外径を小さくすることにより,細巾長孔35の巾を小さくすることが可能となり,釣糸導入部21の剛性の大きな低下を防止することが可能となる。
【0016】また,以上のように構成される中通し釣竿では,管状ガイド47と竿管13とのなす角度を小さくすることが容易に可能であり,釣糸導入部21における釣糸19の摺動抵抗を従来より大幅に低減することができる。
【0018】更には,以上のように構成された中通し釣竿では,厚肉部25を織布を使用した多層構造にしたので,細巾長孔35の加工時や釣竿の使用時等にささくれが発生することが防止され,また,大きな応力が作用しても,裂け,割れ等が生じることが防止される。
【0019】【考案の効果】以上の説明から明らかなように本考案によれば,竿管の釣糸導入用孔の孔周辺部を一体厚肉化しているため,孔を設けたことによる竿管の強度低下を補強できる。(判決注:これに続けて,段落【0006】と同文の追加記載がある。)また,この長孔の縁部の強化繊維に織布を具備していれば,孔の加工時や釣りの際にささくれが発生し難く,裂けや割れも防止できる。
2 取消事由1(新規事項の追加についての判断の誤り)について
(1)訂正事項1に係る訂正は,「一般に孔は釣糸を自在に導入させるべく大きな領域を確保することが好ましいが,竿管に対して大きな円形の孔や竿管の幅方向に長い長孔を設ければ,その部位の強度が大きく低下することになるが,軸長方向に長い長孔を設けて大きさを確保すれば強度の低下が防止される。」との記載を,考案の詳細な説明(段落【0006】及び【0019】)に追加するものである。
甲第9号証によれば,この文言自体も,これと同旨の文言も,登録明細書に記載されていないことが明らかである。
甲第9号証によれば,@登録明細書には,段落【0001】に【考案の属する技術分野】が,段落【0002】に【従来の技術】が,段落【0003】〜【0004】に【考案が解決しようとする課題】が,段落【0005】〜【0006】に【課題を解決するための手段】が,段落【0019】に【考案の効果】が,それぞれ記載されていること,Aこれらの段落【0001】〜【0006】及び段落【0019】並びに【実用新案登録請求の範囲】には,「長孔」との記載は存在しないこと,B「長孔」に係る構成が登録明細書に記載されているのは,【考案の実施の形態】を記載した段落【0007】〜【0018】に限定されていることが,認められる。
そして,同号証によれば,【考案の実施の形態】においては,「長孔」に関して,・・・との各記載があり,【図1】には,竿管軸長方向に沿って,長孔に管状ガイド47が傾斜状に挿入されている様が図示されていることが認められる。これらの記載及び図示によると,管状ガイドの前端部は長孔の先端に当接し,長孔の後端部にも略当接(【図1】)しているものと認められる。そして,管状ガイドの傾斜角は「20度以下がよく,好ましくは5度から15度」とされており,これを実現する態様で,管状ガイドを挿入するためには,竿管に形成された孔は,管状ガイドの直径よりも十分に長いことが必要であることは自明であるから,管状ガイドを挿入するに必要な寸法として,長孔の長さが決定されていると解することが十分可能であり,このように解するのが最も自然な理解というべきである。また,管状ガイドを経由して釣糸を竿管に導入する以上,その管状ガイドが竿管軸長方向に沿っている方が操作上好都合であることが自明であると同時に,仮に管状ガイドを竿管巾方向に沿わせた場合には,管状ガイドを挿入するに必要な長さを確保することが困難となることから,軸長方向に長い長孔が採用されていると理解できるものである。すなわち,登録明細書・図面の上記認定の記載の下では,軸長方向に長い長孔であることの技術的意義は,その長孔に管状ガイドを傾斜させて挿通させることを可能ならしめることにあるのであって,管状ガイドの存在を抜きにしての技術的意義はなんら存在しないというべきである。
そして,【考案の実施の形態】においては,釣糸は管状ガイドを経由して竿管に導入され,その管状ガイドが竿管内に突出しているものとされていることからすれば,そこでは,釣糸は,長孔と管状ガイドが交差する位置を通過するだけで,それ以外の長孔位置を通過することはあり得ないということができる。
このような状況の下では,釣糸を自在に導入させるに必要な構成は,管状ガイドの径及び傾斜角,並びに管状ガイド後端部の形状に関連するのであって,竿管に形成された孔の面積と直接関連することはないことが,明らかである。
(2)他方,訂正事項1の「一般に孔は釣糸を自在に導入させるべく大きな領域を確保することか好ましい」との記載は,管状ガイドを経由せずに,直接釣糸を竿管に導入させる場合にいえることである。それに続く「竿管に対して大きな円形の孔や竿管の巾方向に長い長孔を設ければ,その部位の強度が大きく低下することになるが,軸長方向に長い長孔を設けて大きさを確保すれば強度の低下が防止される。」は,直接釣糸を竿管に導入させることを前提として,同一面積の孔を設けるに当たり,竿管軸長方向の長孔が有利であることを述べたものである。しかし,上記説示のとおり,登録明細書・図面には,管状ガイドを経由して釣糸を竿管に導入するための構成として,軸長方向に長い長孔が採用されていたのであるから,その長孔と同一面積の円形孔や巾方向に長い長孔は,そもそも採用の余地がないものであり,それらとの強度比較をすることも無意味なのである。
(3)したがって,訂正事項1記載の効果は,登録明細書・図面に記載された事項ということのできないものである。しかも,同記載は,単に,登録明細書に記載されていた構成の効果を追加記載したというにとどまらず,管状ガイドを挿入せずに竿管に長孔を設けるという構成をも追加記載したものというべきであり,登録明細書・図面に記載された事項ということができないことは,この点からも明らかである。
以上によれば,訂正事項1は,登録明細書・図面に記載した事項の範囲を超えるものであり,「当業者において自明な事項にすぎない。」(審決書4頁12行〜13行)ので新規な事項ではない,とした審決の判断は誤りである。
(4)Yは,登録明細書の段落【0008】及び段落【0013】の記載を基に,巾の狭い長孔は,巾が広い大きな円形の孔や竿管の巾方向に長い長孔に比べて強度低下の防止に有利であること,すなわち,長孔は,本件考案の強度低下の防止という技術的課題を解決するに好適な構成であることは,当業者であれば,これらの記載から当然に理解できるところである,そもそも,長孔が巾が広い大きな円形の孔や竿管の巾方向に長い長孔に比べて強度低下の防止に有利であること及び巾の寸法が強度に大きな影響を及ぼすことは,登録明細書の記載と離れて,それ自体技術常識でもあるのである,と主張する。Y摘示の段落に加えて段落【0015】からも,竿管の強度低下が主として孔の竿管の巾方向の巾に依存し,軸長方向の長さにはさほど依存しないという事実自体が示唆されているということはできる。しかしながら,登録明細書・図面において,長孔の技術的意義が管状ガイドを設けることにあることは上記説示のとおりであるから,これらの段落の記載は,管状ガイドを挿入するための長孔は,管状ガイドの外径を小さくすることにより,長孔の巾を小さくすることができ,竿管の強度低下を防止できるという事実を述べたにとどまるのであり,したがって,訂正事項1は登録明細書・図面に記載された技術とは無関係というべきである。これを新規事項でないとするYの主張は,到底採用できるものではない。
(5)取消事由1における,訂正事項1についてのX主張には理由がある。
3 取消事由4(分割出願要件についての判断の誤りに基づく独立実用新案登録要件の判断の誤り)について
(1)証拠(甲3)によれば,原出願明細書・図面には,・・・との記載があることが認められ,「環状ガイド57」及び「外枠筒37」が本件考案の「環状ガイドリング」及び「厚肉化された領域に取付けられた部材」に,それぞれ相当することは明らかである。
これらの記載によれば,原出願明細書・図面においては,「外枠筒37」は管状ガイドを挿通固定するためのものであり,その凹部に管状ガイドの鍔部を挿入することにより,管状ガイドの後端部位置決めを行うものと認められ,鍔部を挿入してもなお外枠筒には凹部が残り,その残部に環状ガイドを挿入固定するものである。そして,環状ガイドに耐摩耗性材料を用いていることの技術的意義は,環状ガイドが最も高い位置にあることから,そこでの釣糸張力が大きいため,耐摩耗性材料を用いることにより耐久性を向上させることにあると理解するのが自然である。また,「釣糸19の摺動抵抗をより低減することができる。」との記載からすれば,環状ガイドは摺動抵抗を小さくする機能をも有すると認めることができる。そして,環状ガイドが,その用語の意味するとおり,ガイド,すなわち,案内機能を有するかどうかについて検討してみても,釣糸を竿管に案内するのは管状ガイドであるから,環状ガイドは釣糸をせいぜい管状ガイド鍔部まで案内するにすぎないものというべきである。そして,仮に環状ガイドがないとすると,釣竿使用者自身の手により管状ガイド鍔部まで案内することとなるとはいえ,釣竿使用者自身の手により環状ガイドまで案内することと,同じく管状ガイド鍔部まで案内することに,案内の困難性において相違があるとすることもできない。そうすると,環状ガイドは,その用語が案内を意味するものであるとしても,耐摩耗性や摺動性を向上させるために設けられているものというべきであり,独立した1つの案内機能を有する部材と解することはできない。
また,「外枠筒37」は管状ガイドを挿通固定するためのものであり,管状ガイド前端部が長孔先端に当接する以上,外枠筒は長孔全域にわたって竿管に取り付けられていなければならないものである。
(2)これに対し,本件考案は「該長孔近傍の竿管表面よりも高い位置にあり,リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが,前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されていること」を構成要件とするものであって(訂正事項2に係る本件考案の構成である。),管状ガイドを構成要件とするものではないため,釣糸を長孔を経由して竿管に導入するという独立した1つの案内機能を有する部材として環状ガイドリングが設けられている釣竿をも包含し,さらには,「厚肉化された領域に取付けられた部材」が長孔全域にわたらずに取り付けられている釣竿をも包含するものである。このような構成の中通し釣竿が,原出願明細書・図面に記載されていないものであることは前示のとおり明らかであるから,「該構成は,原出願の明細書の【0015】〜【0017】及び【図1】にも記載されている。」(審決書4頁21行〜22行),及び「本件は適法に分割して出願したものであり」(審決書4頁23行)との審決の認定判断は,いずれも誤りであることが明らかである。
(3)Yは,訂正事項2は,原出願明細書の段落【0015】ないし【0017】及び図1に記載されている旨主張する。しかし,環状ガイドリング及び外枠筒が,それだけを取り出してみれば,原出願明細書等の実施例に記載されている構成であるとしても,実施例に記載された個々の構成が無条件に考案の構成となりうるものではなく,個々の構成の技術的意義を踏まえ,当業者が一つの技術思想として把握できる構成のみが考案の構成たり得るのである。Yの主張は,結局のところ,原出願明細書に記載された環状ガイドリング及び外枠筒の技術的意義と離れて,別な技術内容を有する環状ガイドリング及び外枠筒が原出願明細書等に記載されていると主張するものであり,失当である。
4 結論
以上のとおり,取消事由1についての審決の認定判断,及び,取消事由4についての審決の認定判断は,いずれも誤りであって,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,Xの請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由があることが明らかである。
第6 よって,Xの本訴請求を認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。」