最判昭和45年10月30日(集民101号335頁(昭和43年(行ツ)第99号))

(原審:東京高判昭和43年6月29日(昭和36年(行ナ)第183号))

<判決>
 上告棄却。
「上告代理人戸田善一郎の上告理由について。
 論旨は,上告人は旧実用新案法(大正10年法律97号)26条により準用される旧特許法(同年法律96号)6条(以下たんに法6条という)の所定期間内に実用新案登録の出願をした者で,その際,同法施行規則(同年農商務省令33号)41条(以下たんに規則41条という)所定の手続は怠つたが,法6条1項の要件を充足していることが別に証明されるかぎり,規則上の手続履践の懈怠は出願の効力に影響しないものと解すべきであるにもかかわらず,原判決が上告人の右手続懈怠を理由として上告人は法6条の規定による利益を受けることができなくなつたものとしたのは,同条にその出願手続を省令に委任する旨の定めがなく,また,省令で法律の内容を変更しえないことを看過し,右関係法条の解釈適用を誤つたものである,と主張する。
 よつて按ずるに,法6条1項によれば,特許出願前すでに公知となつた発明であつても,その公知となつた原因が同項所定の博覧会に出品されたことにある場合には,その開会の日より6月以内に出願したときにかぎり,当該発明の新規性を失わないものとされるのであつて,これによると,法定の博覧会が開設されてこれに発明が出品されたこと,法定の期間内に出願されたこと,右の出品された発明と出願された発明とが同一であることが,当然に要求されるのである。そして,以上の諸点を審査するためには,個々の出願ごとに当事者の任意の立証にまつことなく,一般的・画一的な基準を設けて,法定の博覧会の開設,時期,出品の事実,内容等を明確にすることが望ましいのであつて,さらに,博覧会の出品に関する出願の大量処理の必要を考えると,そのための手続的規定を設けることは不可欠の要請であるともいうことができ,かかる趣旨の手続的規定の整備は,法の趣旨に適うものでこそあれ,これにもとるものではありえない。
 所論規則41条は,法6条1項の規定を承けて,同項の「規定ノ適用ヲ受ケムトスル者ハ願書ニ博覧会開会ノ年月日及出品ノ年月日ヲ証スル書面竝其ノ出品シタル発明ニ関スル説明書及必要ナル図面ヲ添付スヘシ」と規定し,法定の博覧会の開設,時期,出品の事実,内容を明らかにしようとしたもので,もとより,法6条の趣旨に適うものというべきである。ただ,規則41条が必要書類を願書に添付すべきものとする点については,出願自体が博覧会開会の日より6月以内は許されるのであるから,かりに出願時に必要書類の添付がないとしても,右開会の日より6月以内にあつてはその追完を許すものと解すべく,したがつて,法6条の所定要件を充足することの証明をなすべき期間を法定の期間以下に制限したものとはいえないから,規則41条の規定が法6条の趣旨に反し,またはその内容を変更したものということはできない。
 論旨は採用できない。
 よつて,行政事件訴訟法7条,民訴法401条95条89条に従い,裁判官全員の一致で,主文のとおり判決する。」