(原審:東京高判昭和42年2月28日(昭和38年(ネ)第2043号))
<事案の概要>
(特許判例百選(第3版)による)
X(原告,控訴人,上告人)の先代Dは,Y(被告,被控訴人,被上告人)の親会社であるAに入社した当時から,能率の高い石灰窒素の製造炉に関する構想を抱いていたところ,昭和12年にYに入社した。Xは,YのW工場の工場長として該構想の実現を試みたが,それを完成するには至らなかった。その後,Dは取締役としてYの技術部門担当の最高責任者を務めていところ,Yが石灰窒素の増産を図ることとなったので,再び該構想の実現を考え,Yの技術陣に検討を指示するとともに,Yの設備や資金を利用して工夫を重ねた。その結果,昭和26年に石灰窒素の製造炉に関する考案(本件考案)を完成するに至った。なお,Dは,Yから本件考案をすべき旨の命令ないし指示を受けてはいなかった。
Dは,昭和29年に本件考案について実用新案登録出願をし,昭和30年にその登録を受けた。その後,Dの死亡によりDの実用新案権を承継取得したXは,Yがその実用新案権を侵害しているとして損害賠償を請求する訴えを提起した。
第一審(東京地判昭和38年7月30日)は,Yが職務発明に基づく実施権を有するとして,Xの請求を棄却した。
X控訴。
控訴審(東京高判昭和42年2月28日)も,第一審と同様の理由により,Xの控訴を棄却した。
X上告。
<判決>
上告棄却。
「上告代理人伊達利知,同吉原隆次,同溝呂木商太郎,同伊達昭,同藤井正博の上告理由第一点および第二点について。
原判決(その引用する第一審判決を含む。)の適法に確定した事実関係のもとにおいて,Xの先代であるDは,同人が石灰窒素の製造炉に関する本件考案を完成するに至つた昭和26年3月当時,石灰窒素等の製造販売を業とするY会社の技術部門担当の最高責任者としての地位にあつたものであり,かつ,その地位にもとづき,Y会社における石灰窒素の生産の向上を図るため,その前提条件である石灰窒素の製造炉の改良考案を試み,その効率を高めるように努力すべき具体的任務を有していたものであるから,右Dが本件考案を完成するに至つた行為は,同人のY会社の役員としての任務に属するものであつたというべきであり,したがつて,Y会社は,本件実用新案につき,旧実用新案法(大正10年法97号)26条,旧特許法(大正10年法96号)14条2項にもとづく実施権を有する,とした原審の解釈判断は,正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく,論旨は,ひつきよう,独自の見解を主張するものにすぎず,採用することができない。
よつて,民訴法401条,95条,89条に従い,裁判官全員の一致で,主文のとおり判決する。」