最判昭和42年10月17日(民集21巻8号2065頁(昭和41年(行ツ)第12号))

(原審:東京高判40年12月23日(昭和40年(行ケ)第84号))

<判決>
 上告棄却
「上告指定代理人鈴木茂,同城山鉄雄,同江口俊夫の上告理由について。
 原判決の確定した事実によれば,被上告人が,旧特許法(大正10年法律第96号,以下旧法と称する。)のもとでした特許出願につき拒絶査定を受け,抗告審判を請求したのに対し,その請求は成り立たない旨の審決があつたのは,現行特許法(以下新法と称する。)施行後であつて,右審決はそのまま確定したというのである。従つて,右抗告審判は,特許法施行法(以下単に施行法と称する。)20条1項により,すべて旧法に従つてなされたものであるが,その審決は,施行法29条により,新法のもとにおいては,新法によつてなされたものとみなされることは明らかである。
 ところで,新法171条は,旧法121条と異なり,いわゆる査定系事件の確定審決に対しても再審請求を許している。従つて被上告人の受けた前記審決で新法によつたとみなされるものについては,右新法の規定の適用があり,これに再審請求のみちが認められなければならない。このことは,原判決の説示するように,法律に改正があり,改正法が施行されたときは,別段の定めのないかぎり,すべて改正法によつて規律されるのが法の原則であることに徴して,当然というべきである。
 論旨は,旧法によつた拒絶査定または拒絶すべき旨の審決が確定したときは,特許出願は終了し,その出願は存在しなくなるため,法改正にあたり,旧法によるこの種の事件には経過規定を設ける必要がなかつたのであり,すでに新法をもつて規律すべき対象がないのにかかわらず,原判決がこれに新法の適用があるものと解したのを失当という。しかし,再審は一定の事由のあるときに確定審決を遡及的に取り消し,審決のなかつた状態に立ち戻つて再審理をするものであることにかんがみれば,旧法によつた拒絶審決の確定後においても,その再審に関する規定の適用が考えられなければならないはずであり,所論のように,法の規律する対象が全く存しないということはできない。そして,もしこの種の事件には,新法施行後においても,旧法当時と同様,再審を許さないというのであれば,施行法にその旨の規定が設けらるべきを当然とする。
 論旨は,なお,施行法において特に新法を適用する旨の経過規定を設けないものについては,新法の適用を認めないのが同法の建前であると論じ,それを法律不遡及の原則に適合するものと主張する。しかし,新法施行後において,旧法によつた審決その他を新法によつて規律することは,新法を遡及的に適用することではない。また,施行法を所論のように解しがたいことは,前叙したところから明らかである。
 論旨は,すべて採用できない。
 よつて,民訴法401条95条89条に従い,裁判官全員の一致で,主文のとおり判決する。」