(原審:東京高判昭和33年4月17日)
<判決>
上告棄却。
「上告代理人弁護士兼子一,同釘沢一郎の上告理由第一点について。
論旨は,原判決は行政処分の違法判断基準時に関する当裁判所の先例に違反する旨を主張するのであるが,本件無効審判における争点は,上告人の商標が旧商標法(以下法と略称する)2条に違反して登録されたかどうかであり(法16条1項1号),抗告審判の審決に対する本訴の争点も実質的には右とかわりはなく,されば原判決も「被告の商標の登録は商標法第2条第1項第9号の規定に違反してなされたもの・・・」と判示しているのである。所論違法判断の基準時は,本訴においては問題とする余地がなく,原判決の当否とは関係がないものといわなければならない。
次に論旨は,原判決は審決の後に生じた事実に基いて審決の当否を判断した違法があるというのである。もとより,抗告審判の審決に対する訴では,直接には,審決の当否が争われるのであるが,実質上は,前述のように,商標が法2条に違反して登録されたかどうかが争われるのであつて,審決後の事実であつても,右違反の有無判断の資料となり得るものは,これを判断の資料として採用できないものではない。所論甲第19号証,第20号証等が審決後の事実に関するものであることは論旨のとおりであるが,これらの証拠によつて審決後において原判示のような混同誤認のおそれがあると認められる以上,特段の事情のない限り,上告人の本件商標出願登録当時においても,上告人出願商標が法2条1項9号に該当していたものと推定すべく,原判決がこれらの証拠に基いて事実を認定し審決を違法としたからといつて違法ということはできない。
論旨はさらに,審決に対する訴訟では,審判の段階で主張されなかつた事実を主張することがゆるされないにかかわらず,原判決は,本訴で当事者が新しく主張した事実に基いて判決をした違法があるというのである。しかし,本件審判における争点は,上告人の商標が法2条1項9号,11号に該当するかどうかであり,右の争点に関する限り,訴訟の段階でも,攻撃,防禦の方法として,新な事実上の主張がゆるされないものではない。原審が事実審であり,「私的独占禁止及び公正取引の確保に関する法律」81条のような規定がない以上,審決に対する訴であるからといつて,所論のように解することはできない。所論は立法論としては格別,現行法の解釈としては,結局,独自の見解というよりほかはなく,とることができない。
同第二点について。
論旨は,原判決が上告人の商標は取引上商品の混同誤認を生ずるおそれがあるとし,法2条1項9号に該当するとしたのは,右九号の適用を不当に拡大した違法があるというのである。
法2条1項9号が私益的規定であり同項11号が公益的規定と解すべきことは所論のとおりであるが,両者を所論のように排他的に解しなければならない理由はなく,むしろ,9号に該当する場合には,11号にも該当することが多いものと解して少しも支障はないのである。右9号に該当するか否かは,所論のように,外形のみによつて判断すべきではなく,原判決が上告人の商標は被上告人の商標と誤認混同を生ずるおそれがあるとし,法2条1項9号に該当するとしたのは違法ではない(論旨援用の昭和17年10月13日大審院判決は論旨にそう判決ではない)。論旨は理由がない。その他の論旨は,原判決の経験則違背を主張するのであるが,上述の上告人の法律解釈を前提としているのであつて採用できない。
同第三点について。
論旨は,被上告人商標の指定商品と上告人商標の指定商品とは一部だけ牴触しているに過ぎないのにかかわらず,上告人の商標について何等留保することなく全部無効としたのは違法であるというのである。
しかし,本件二商標のそれぞれの指定商品について牴触するものがあることについては争いがなく,しかも,本件審判においては,指定商品全部について類似性の有無は争われておらず,原審でもこの点について争われていないのであるから,原判決がこの点について判断を示さなかつたのは当然である。原判決は,本件審決が上告人の商標が法2条1項9号に該当しないとしたのを違法として取り消したに過ぎないのである(従つて判決の拘束力は指定商品中類似性のないものがあるかどうかについては及ばないものと解してよいのである)。論旨は理由がない。
同第四点について。
論旨は,原判決の認定は経験則に反するというのであるが,原判決が上告人の商標と被上告人の商標とは外形において類似していないが,観念,称呼において類似するとしたのは,その挙示の証拠及びその説明によつて首肯できないことはない。論旨は理由がない。
よつて,民訴401条,95条,89条に従い,裁判官全員の一致で,主文のとおり判決する。」