最判昭和28年10月16日(集民10号189頁(昭和26年(オ)第745号))

(原審:東京高判昭和26年7月31日)

<判決>
 上告棄却。
「上告代理人弁理士弁護士和久井宗次,弁理士木戸伝一郎,同山田勝三の上告理由は別紙記載のとおりである。
 上告理由第一点について。
 論旨の縷々主張するところは,要するに,上告人の発明した製粉機が特許法1条にいわゆる「新規ナル工業的発明」に該当するというのである。この点について,原判決は「(一)特許第159910号製粉機(二)特許第173593号製粉機(三)登録実用新案第18373号製粉機(四)昭和6年実用新案出願公告第10655号製粉機の各記載事項を綜合して格別発明思想を要することなく設計によつて容易に連想し得る程度のものと認定する。」と判示しているのであつて,原判決が右各製粉機及び本件製粉機について認定するところによれば,原判決の右の判示は正当であり,本件発明は特許法1条にいわゆる「新規ナル工業的発明」に該当しないものと解するのが相当である。論旨は大審院の判決を引用して原判決が先例に違反すると主張するのであるが,ある発明が特許法1条の「新規ナル工業的発明」にあたるかどうかは,具体的場合によつて異るのであるから,引用の判決中に発明の新規性を認めたものがあり,本件の場合これを認めなかつたからと言つて,先例に違反するものということはできない。
 上告理由第二点について。
 論旨は,特許抗告審判の審決取消請求の訴訟においては,抗告審判の審理に際して提出されなかつたあらたな事実の主張,立証はゆるされないというのであるが,原審が事実審である以上,審判の際主張されなかつた事実,審決庁が審決の基礎としなかつた事実を,当事者が訴訟においてあらたに主張することは違法ではなく,またかゝる事実を判決の基礎として採用することは少しも違法ではない。
 以上説明のとおり論旨は理由がないから,本件上告はこれを棄却することとし,民訴401条95条89条を適用して,裁判官全員一致の意見をもつて主文のとおり判決する。」