(原審:東京高判平成6年8月30日(平成5年(ネ)第5425号))
<事案の概要>
X(原告,上告人)は,発明の名称を「鋳造金型」とする特許権(特許番号1399625号)をDと共有している(以下,右特許権を「本件特許権」といい,その発明を「本件特許発明」という。)。
Dは,自己が代表取締役を務めるE精機株式会社に対し,Xの同意の下に本件特許権について通常実施権を許諾した。
E精機は,ダイカスト製品の鋳造加工を事業目的とする会社であるY(被告,被上告人)に対して第一審判決添付物件目録記載の鋳造金型(以下「本件金型」という。)を貸与した上,Yをして電気機械に使用する部品であるナット(以下「本件製品」という。)を鋳造させ,Yの鋳造した本件製品につき,その全部の納入を受けて,代金を支払っていた。
Xは,本件金型が本件特許発明の技術的範囲に属すると主張し,Yが本件金型を使用して本件製品を鋳造した行為は本件特許権を侵害するものであるとして,本件特許権に基づきYに対して損害賠償を請求する訴えを提起した。
<判決>
上告棄却。
「二 本件訴訟において,Xは,本件金型が本件特許発明の技術的範囲に属すると主張し,Yが本件金型を使用して本件製品を鋳造した行為は本件特許権を侵害するものであるとして,本件特許権に基づき被上告人に対して損害賠償を請求している。
しかし,前記事実関係によれば,YはE精機との契約に基づき,本件金型を使用して本件製品を鋳造し,その全部をE精機に納入していたのであるから,Yが本件金型を使用して本件製品を鋳造した行為は,専らE精機の事業のためにされたものというべきであり,仮に本件金型が本件特許発明の技術的範囲に属するとしても,本件特許権の通常実施権者であるE精機の実施権の行使としてされたものと解するのが相当である。したがって,Yが本件特許権を侵害したということはできない。
右と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は,独自の見解に立って原判決を論難するものであって,採用することができない。
よって,民訴法401条,95条,89条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」