最判平成6年4月19日(集民172号371頁(平成5年(行ツ)第180号))

(原審:東京高判平成5年8月16日(平成2年(行ケ)第147号))

<事案の概要>
 X(原告,上告人)は,本件特許出願につき拒絶査定を受け,これを不服として審判を請求したが,審判の請求は成り立たない旨の本件審決を受けたので,さらに本件審決の取消しを求めて本訴を提起した。
 原審(東京高判平成5年8月16日(平成2年(行ケ)第147号))は,平成5年8月16日,本件審決を正当として,Xの請求を棄却する判決を言い渡したところ,Xは,該判決言渡し後の同年9月1日に本件特許出願を取り下げ,自ら訴えの利益を失ったことを理由として,訴えの却下を求めて本件上告に及んだ。

<判決>
 上告却下。
「特許出願の拒絶査定を是認する審決に対し取消訴訟が提起され,その係属中に特許出願の取下げがされると,その審決で審判の対象となった特許出願自体が初めから存在しなかったことになるのであるから,特許出願人は,右審決の取消しを求めるにつき法律上の利益を失うに至るものである。Xは,前示のとおり,原判決の言渡し後に特許出願を取り下げることにより,自らこのような状態を現出させた上で,訴えの利益を失ったことを理由として,原判決を破棄して訴えを却下することを求めて本件上告をしたものであるが,このような上告は上訴制度の本来予定しないところであって,本件上告は,上訴権の濫用に当たるものとして不適法であり,その欠缺を補正することができないものというべきである。
 よって,行政事件訴訟法7条,民訴法399条ノ3399条1項1号,95条89条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」