大阪地判昭和45年4月17日(昭和42年(ワ)第412号)

1.判決
 請求棄却。

2.判断
「一 X1が「金属編籠の縁編組装置」なる考案について昭和34年3月27日実用新案登録を出願し,昭和37年1月23日出願公告(実公昭37-997号)を経て同年5月31日第571193号実用新案として登録を受けたこと,同人は昭和41年4月26日X2に右実用新案権の譲渡による移転登録をなすまでの間その実用新案権者であつたこと,右登録実用新案の明細書に記載された登録請求の範囲は「図面に示す通り,金属線杆をもつて編成するものにおいて,開口上縁のごとき編み上り最終たる縁部の相隣る各編骨杆1,2の各末端を掛止環部3,4を有する水平屈曲脚5,6および7,8と屈曲脚6,8よりさらに屈曲された掛鉤部9,10に形成し,各編骨杆1,2をその掛止環部3,4よりの各屈曲脚5,6および7,8の挿出と掛鉤部9,10の環部3,4への掛止を介し連結一体化した縁部Aとして成る金属編籠の縁編組装置の構造」であること,以上の事実は当事者間に争いがない。
二 Y1は,右実用新案の考案はX1自身の考案にかかるものではないのに自己の考案にかかるものと偽つて登録出願をなし,実用新案として登録を受けたものであるから,民事的には無効の実用新案権として無視すべきである旨主張するけれども,本件実用新案につき登録無効の審決を得ていないことはY1の自認するところである。いつたん登録された実用新案は,たとえ無効事由の存在を推測せしむる場合でもこれを無効とする旨の確定審決があるまでは一応有効な権利として取り扱うのほかなく,通常の民事訴訟において登録実用新案権の有効性を否定するが如きは許されないと解するのが相当であるから,Y1の右主張は採用することができない。
三 昭和40年6月頃から昭和41年4月頃までの間において,Y1が手芸用糸入れ金属編籠七万余個を製造したうえ,これを全部Y2に売り渡し,Y2がそのままこれをY3に売り渡し,Y3がこれを各方面に拡布した事実は,Yらの行為の具体的な日時及び正確な取引数量をしばらく別とすれば,当事者間に争いがなく,検甲第2号証(これがY1において製造のうえY2に売り渡した編籠であることは,XとY1との間で争いがなく,その余のYに対する関係では,証人【D】,同【E】の証言によつて認定しうる),検乙第1号証(これがY2,Y3においてY1から仕入れて拡布した編籠であることは,XとY2,Y3との間で争いがない)によれば,Yらが製造又は拡布した前記手芸用糸入れ編籠(以下これをイ号製品という)は,アルミ線杆をもつて編成した編籠で,蓋体と承体との両者からなり,全体としての外観は別紙イ号図面第1図に示されたとおりのもので,蓋体と承体のそれぞれについてその編み上り最終部分たる口縁部(蓋体の下縁部及び承体の上縁部)の構造をみると,別紙イ号図面及びその説明書に記載のとおり,編み上り最終である縁部の相隣る各編骨杆1ダツシユ2ダツシユの各末端を掛止環部3ダツシユ,4ダツシユを有する水平屈曲脚5ダツシユ,6ダツシユ及び7ダツシユ,8ダツシユと屈曲脚6ダツシユ,8ダツシユよりさらに屈曲された掛鉤部9ダツシユ,10ダツシユに形成し,各編骨杆1ダツシユ,2ダツシユをその掛止環部3ダツシユ,4ダツシユよりの各屈曲脚5ダツシユ,6ダツシユ及び7ダツシユ,8ダツシユの挿出と掛鉤部9ダツシユ,10ダツシユの環部3ダツシユ,4ダツシユへの掛止を介し連結一体化した編縁Aダツシユを有する構造であることが認められる。
四 本件実用新案の登録請求の範囲の記載の意義につき当事者に争いがあるので,先ず本件実用新案の考案内容について検討する。
  (一)前記当事者間に争いのない登録請求範囲の記載に成立に争いのない甲第2号証(本件実用新案公報)の実用新案の説明及び図面の記載を綜合して考察すると,本件実用新案は,金属線杆をもつて編成する編籠において,たとえば開口上縁部の如き編み止め部分となる口縁の形成のために編骨杆を別の挿通芯杆に掛着することなく,編骨杆自体によつて,平坦で整然とした縁部を編組形成することを考案の課題とし,その具体的解決手段として登録請求範囲記載の構成を採用したものであり,右構成によつて編骨杆を直接掛合させるだけで整然とした縁部を容易に形成でき,縁部が二重部分の強固な縁として歪曲変形のおそれなく,また掛鉤部の掛止によつて伸張離脱のおそれが生ぜず,別資材も全く必要としないとの明細書記載の作用及び効果を奏するものであることが認められる。そうすると,登録請求範囲に記載された「開口上縁のごとき編み上り最終たる縁部の相隣る各編骨杆1,2の各末端を掛止環部3,4を有する水平屈曲脚5,6および7,8と屈曲脚6,8よりさらに屈曲された掛鉤部9,10に形成」する事項及び「各編骨杆1,2をその掛止環部3,4よりの各屈曲脚5,6及び7,8の挿出と掛鉤部9,10の環部3,4への掛止を介し連結一体化し」て縁部Aを編成する事項が本件実用新案の考案の構成要件をなすことは疑いをいれないところである。
  (二)Yらは,本件実用新案においては,@水平屈曲脚は,その二本の脚5,6及び7,8を上下面上に連なるように曲成することが必要であり,従つて,その掛合せによつて形成される縁部Aは各屈曲脚の二本の脚が上下二段となつて一直線状に連なるものに限定され,A掛止環部3,4は籠の外側からみて屈曲脚5,7の基部より左側方に,掛鉤部9,10は籠の外側からみて屈曲脚5,7の基部より手前側にそれぞれ設けることが必要であり,B相隣る編骨杆には相反屈曲部11,12を設け,同屈曲部を境として上開き及び下開きの形状を付与することが必要である旨主張する。
    なるほど,前掲甲第2号証の公報によると,実用新案の説明中には,Yらの指摘するように,「本案では相隣位置となる編骨杆1,2の末端をそれぞれ掛止環部3,4を構成する上下の水平屈曲脚5,6,7,8とこれにつづく掛鉤部9,10としたから・・・水平屈曲脚5,6,7,8の一直線状に並ぶ縁部Aが簡単に構成される。」,「このさい縁部Aは上下の各脚5,6,7,8と連鎖状に相連なるから二重部分の強固な縁として歪曲変形のおそれなく」,「図において11,12は編骨杆1,2における相反屈曲部を示している」との記載がみられ,図面にも,一部切欠正面図として水平屈曲脚の一方の脚5及び7はそれぞれ他の一方の脚6及び8よりも上方の位置にあり,掛止環部3,4は屈曲脚の基部より左方に,掛鉤部9,10は手前側にあり,全体としてS字状に連なるように描かれ,また相隣る編骨杆1,2は相反屈曲部を境として上方及び下方に開いた形状のものとして図示されている。
    しかしながら,右に摘示した「水平屈曲脚5,6,7,8の一直線上に並ぶ縁部A」との記載は平坦であつて凹凸のない縁部を意味するものと解せられ,また「縁部Aは・・・二重部分の強固な縁として」との記載は屈曲脚5,7の連続する線と屈曲脚6,8の連続する線とが内外二重となつて縁Aを構成するとの趣旨に解せられるし,前記図面の表現にしても,これが籠の外側から見た図であるか内側から見た図であるかは何等解説が施されていない。しかも,実用新案の説明の項には,その冒頭において登録請求範囲の記載と全く同一の表現をもつて考案の構成が説明されており,Yら主張@ABの構成が本件考案において果す役割については,図面及び説明の全般を通じても何等これに言及した記載は存在しないばかりでなく,明細書に記載された前段説示の作用及び効果はすべて前記登録請求範囲の構成から生ずるものと認められ,右構成にYら主張@ABの要件が加わることによつてはじめて生ずるものではないことが明らかである。
    以上を要するに,Yら主張の諸点は,登録請求範囲に記載されていないばかりでなく,図面及び説明全般の記載からみても考案の構成上不可欠の要件と認めるべき根拠は見出せないのであり,図面の表現及び説明中の「上下の水平屈曲脚」「上下の各脚」「相反屈曲部」なる記載は,本件実用新案の一実施例を示したにすぎないものと解するのが相当である。
  (三)もつとも,成立に争いのない乙第8号証,同第11ないし第13号証,公文書であるから真正に成立したと認める乙第10号証,ならびに検乙第7号証(乙第8号証中の斜面図と対比の結果その拡大写真と認める),検乙第8号証の1ないし3(乙第10号証中の正背面図,左右両側面図,斜面図との対比の結果これらの拡大写真と認める),検乙第12,13号証(乙第11号証中の斜面図,乙第12号証中の正背面図と対比の結果それぞれの拡大写真と認める)によれば,訴外【B】によつて出願され,本件実用新案の登録出願前たる昭和33年11月13日にそれぞれ意匠原簿に登録された登録第143197号,同第143198号,同第143334号各意匠の願書に添附された図面代用写真には,いずれも,金属様の線杆で編成された食器入れ手提籠で,開口上縁部につぎのような構造を具えたものが示されていることが認められる。すなわち,右手提籠の開口上縁部は,編上り最終部分たる縁部の相隣る各編骨杆の各末端が籠の外側から見て口縁沿いに先ず右方へ折曲げられ,次いで口縁内周側を通り左方へ曲げ戻されて掛止環部を有する水平屈曲脚となり,更にその先端が下向きに右方へ曲げ戻されて水平屈曲脚に連なる掛鉤部となり,各編骨杆の水平屈曲脚は隣接編骨杆の掛止環部から挿出されるとともに掛鉤部が該掛止環部に掛止められ,右挿出及び掛止により各編骨杆の末端が連結一体化した編縁となつている。そして,証人【B】,同【F】の各証言によれば,【B】が専務取締役をしていた訴外庄司貿易株式会社は,右【B】によつて前記各意匠登録出願がなされた昭和33年2月頃から右各意匠の実施品としてアルミ線編みの食器入れ手提籠で前認定の構造の口縁を有するものの製造販売を開始し,昭和33年中に国内においては大阪のパーマン化粧品なる会社に相当数を納入したほか東京方面にも販売し,その製品が銀座の三愛の店頭に陳列されていたこと,右庄司貿易株式会社は右手提籠の製造にあたり籠本体及び口縁部の編成作業を兵庫県城崎郡<以下略>の柳行李製造業者【E】に請負わせ,【E】はこれを下請に出し,直接その編成作業に従事した者は多数に上つたが,これらの者の間で前認定の構造の口縁は鎖天場と呼ばれていたことが認められる。
    以上によれば,金属線杆をもつて編成する編籠において,その口縁部を前認定の構造のものとする技術は,本件実用新案の登録出願時には既に国内において公知公用となつていたと認定せざるをえない。成立に争いのない甲第9号証,証人【E】の証言,X1本人尋問の結果(第二回)中の右認定に反する部分は採用できず,また,成立に争いのない甲第3号証によれば,訴外株式会社伊藤商店ほか三名を請求人としX1を被請求人とする本件実用新案についての昭和37年審判第1456号登録無効審判事件の審決においては,当裁判所の認定と異なる判断が示されていることが認められるが,この事実は何等前認定を妨げるものでない。
    ところで,Yらは,前認定の公知の鎖天場においては屈曲脚の両脚が同一水平面上にある旨主張し,証人【B】はこれに添うよう供述しているが,前認定の用に供した乙号証及び検乙号証の各写真に現われている水平屈曲脚は,必ずしもその両脚が同一水平面上にあるものとは認められないし,証人【B】が前掲各意匠の実施品として昭和33年中に製作した現物である旨供述している検乙第9ないし第11号証の各編籠の縁部を検しても,屈曲脚の両脚の連続によつて構成されている編縁の面は水平でなく,むしろ籠の外方に向つて下り味に傾斜し,籠の外側正面から見れば屈曲脚の両脚の高さは異なつていることが認められるのみならず,昭和33年中に前記各意匠の実施品たる手提籠の編成作業に従事した証人【F】の証言によれば,鎖天場の口縁を編組する場合には,特別の事情なき限り口縁の面を水平に保つことに特段の考慮を払うものではなく,出来上つた製品において口縁が籠の内方又は外方に傾斜していることが少なくないことが明らかであるから,屈曲脚の両脚が同一水平面上にないものも本件実用新案の出願当時公知であつたと認められる。
    Yらはまた,本件実用新案は前記公知の鎖天場の構造と対比して水平屈曲脚の屈曲方向が左右反対となり,掛鉤部の位置が内外反対となつている点に新規性があるとして登録されるにいたつたものと解すべきである旨主張するけれども,前掲【F】証人の証言によれば,編籠における鎖天場の編組は機械によるものではなく人の手先作業によるものであり,その編み方は口縁を上方から見て反時計方向に編んで行くのが通常であるが,左利きの者は時計方向に編んで行くことも絶無ではなく,この場合水平屈曲脚の屈曲方向は前掲各写真に示されたものと左右反対となること,掛鉤部を籠の内側にするか外側にするかは籠の使用目的によつて異なることが認められるから,水平屈曲脚の屈曲方向,掛鉤部の位置が反対となつていても鎖天場としては結局同一性質のものであることを失なわず,これを別異の技術と解すべき理由は認められない。
    そうすると,本件実用新案の登録請求の範囲に記載の技術思想は,その全部が出願時既に公知公用のものであつたのであり,また課題解決の着想において新規な点を認定することは到底不可能であつて,登録請求の範囲の記載の意義についてYら主張の如く限定して解釈する余地もないといわなければならない。すなわち,保護範囲(他人に模倣を禁ずる技術上の範囲)の問題はしばらく措き,本件実用新案権の登録請求範囲に示された技術的内容としては,登録請求の範囲の記載を文言通り解釈するのほかない。
五 イ号製品の構造について。
 イ号製品が金属線杆をもつて編成した編籠であり,その口縁の編組構造が別紙イ号図面及びその説明書記載のとおりであることは前記三において認定したところによつて肯定し得べく,右口縁の編組構造は前段説示の本件実用新案の考案構成要件をすべて具えており,且つ,これによつて本件実用新案と同一の作用,効果をあげていることが認められる。
 Yらは,イ号製品の蓋体下縁部及び承体上縁部は平素閉鎖されているものであるから,登録請求範囲記載の「開口上縁」に当らない旨主張するが,右蓋体及び承体は内部に手芸用糸を入れた場合上下嵌合されて縁部が閉鎖されるとしても,それぞれについてみれば開口した縁を有していることは明瞭であるのみならず,「開口上縁」とは「編み上り部分」の例示として登録請求範囲に記載されたものであり,イ号製品の蓋体下縁部及び承体上縁部は籠本体の編み上り部分であるから,右主張は理由がない。
 また,Yらは,イ号製品の水平屈曲脚は,その両脚とも隣接編骨杆の掛止環部に掛止されていて,挿出されていない旨主張するが,イ号製品においても別紙イ号図面に示すように水平屈曲脚の両脚が隣接編骨杆の掛止環部をくぐつて縁の表面に現われているのであり,この状態がすなわち登録請求範囲に記載の「掛止環部よりの各屈曲脚の挿出」にほかならないのであり,イ号製品において,かりに水平屈曲脚に連なる掛鉤部9ダツシユ,10ダツシユのほか水平屈曲脚の一方の脚5ダツシユ,7ダツシユの基部も隣接編骨杆の掛止環部に掛止されているとしても,それは本件実用新案からみれば付加的な構造にすぎない。
 その他,Yらはイ号の編籠の構造および作用効果について縷々述べ,検甲第2号証,検乙第1号証によれば,イ号製品が糸入れ籠であることの性質上本件実用新案の目的とする縁部の編組装置以外の構造をも多く具えその部分についてYら主張の如き特有の作用効果があることが認められなくはないが,これらはいずれも本件実用新案の内容たる技術とは関係のないものであるから,イ号製品に具わるY主張の右構造は,イ号製品の口縁の編組構造が本件実用新案の考案構成要件を具備していることを否定する理由となるものではない。
六 それではYらによるイ号製品の製造販売行為は本件実用新案権を侵害するものであるか。
 Yらは,イ号製品は登録第260404号意匠と同一形状のものである旨主張し,成立に争いのない乙第1,2号証によれば,Y1は右登録意匠(昭和40年4月27日出願,昭和41年6月10日登録,意匠に係る物品手芸用糸入れ籠)の意匠権者であることが認められるけれども,右登録意匠は本件実用新案より後願にかかるものであるから,かりにイ号製品が右登録意匠の実施品であるとしても,その故をもつて侵害の成立が阻却されるものでないことは意匠法第26条第1項前段の規定に照らし疑いを容れないところである。
 また,訴外株式会社伊藤商店外三名からX1に対する本件実用新案の登録無効審判事件(特許庁昭和37年審判第1456号)において,請求人らは登録を無効とすべき事由として「本件実用新案は,登録第143334号意匠及びこれと同一日時に登録された他二件の意匠(登録第143197号,同第143198号意匠と推察される)の願書に添附した図面代用写真に示されている手提籠の縁編組装置と一致しているし,本件実用新案と一致する縁編組装置を有する金属籠が出願前に兵庫県城崎郡<以下略>地方等において製作され,庄司貿易株式会社をとおして国内にも広く販売されたことがある」旨,当裁判所の認定したところと殆ど同旨の事実を主張したのに,右各主張はいずれも排斥されて請求不成立の審決がなされたものであることは,前顕甲第3号証により明らかであり,右無効審判事件が現在すでに確定していることは当事者間に争いがない。
 しかしながら,本件実用新案は,さきに認定したとおり当審に顕出せられた証拠によれば,その登録請求範囲に記載の技術思想がそのまま出願時国内において既に公知公用のものであり,なんら新規な事項を含んでいないと認められるのである。出願時公知公用であつた技術は万人共有の財産であるというべく,私権は公共の福祉に従うとの民法の大原則から考えても,それまで万人共有の財産であつた技術について,実用新案権の名のもとに,一般にはその実施を禁止し,特定出願人にのみ独占行使せしめることがたやすく許されてよい道理はない。殊に,イ号製品の縁編組装置は前掲各登録意匠の願書に添附した図面代用写真に示されている手提籠の縁編組装置と単に技術思想において同一であるというにとどまらず,些かの差異も見受けられない実施形態であつて,従来公知の手法をそつくりそのまま踏襲したに過ぎず,もとより本件実用新案の明細書に開示されたところからヒントを得て設計実施をしたものではないと認められるものである。本件実用新案権は形式的には有効であると解せざるを得ないから,たとえば,他人が故意あるいは過失によりXの実用新案権の実施行為を実力をもつて直接阻害し,よつてXに損害を与えたような場合には,Xは容易に不法行為による救済を求めうるであろう。しかし,本件実用新案権は前記認定の如くその考案がなんら新規のものを含まず,出願時公知公用の技術そのものを内容とするものであるから,このような場合においては,独占的権利行使の点については制約を受けることを免れず,単に出願時公知公用の技術を用いたに過ぎない商品を他人が製造販売する行為について,実用新案権者は右技術が自己が権利を有する実用新案の技術的範囲と一致する故をもつて,右第三者に対し禁止権を行使することは許されず,第三者の右技術を用いる行為はなんら右実用新案権を侵害するものではないと解するのが相当である。
 そうすると,Yらのイ号製品の製造拡布行為がX1の本件実用新案権及びX2の独占的通常実施権を侵害することを前提とするXらの本訴請求は,いずれも失当として排斥を免れないものである。
七 以上の次第で,Yらに対するXらの本訴請求を棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条第93条第1項但書を適用して,主文のとおり判決する。」