名古屋高判昭和60年12月24日(昭和59年(ネ)第164号)

1.判決
 控訴棄却。

2.判断
「一 当裁判所も,Xの本訴請求は,原判決が認容した限度でこれを認容し,Yらの反訴請求は,Y1が当審で拡張した請求を含めて,すべて棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり訂正,付加するほか,原判決理由説示と同一であるから,これを引用する。
  1 原判決38枚目裏10行目の「証人【F】,」を「当審証人【G】,原審証人【F】,同【C】,」に改める。
  2 同39枚目裏7行目の「炉内に」の次に「耐火材で構成された」を加え,8行目の「上昇」から9行目の「行う」までを「固定炉床より上方へ昇り,材料を載せて前方に送り進んだのち,固定炉床の下方へ降りて後退する」に,同40枚目表6行目の「全く同じ」を「同類の」にそれぞれ改め,7行目の「加熱炉は」の次に「,炉床に耐火材を使用しており,」を加える。
  3 同40枚目裏1行目の「弁論の全趣旨」から9行目の「証言」までを次のとおり改める。
    「原審証人【C】,同【H】及び同【F】の各証言により成立を認める甲第5号証,第24号証の1,2,第9,第11号証,いずれも右【C】証言により成立を認める甲第6号証の1ないし40,42ないし124,第20号証,第23号証の1,2,【C】証言及び当審証人【E】の証言により成立を認める甲第6号証の41,右【E】証言により成立を認める甲第7号証,第35号証の4,10,40,41,43,47ないし50,65,75,76,86ないし88,115ないし123,200ないし205,第36号証,いずれも原審証人【B】の証言により成立を認める甲第15号証,第17号証の1,2,第18号証,第19号証の1,いずれも弁論の全趣旨により成立を認める甲第16号証,第17号証の3,4,第19号証の2ないし4,第24号証の3,4,原審証人【F】,同【H】,同【B】,同【C】及び当審証人【E】の各証言並びに弁論の全趣旨」
  4 同41枚目表2行目の「第二号連続式鋼片加熱炉」を「一号加熱炉」に,同枚目裏10行目の「ウオーキングハース式」から同42枚目表1行目冒頭の「の」までを「ウオーキングビーム式に変更し,しかもその」にそれぞれ改める。
  5 同42枚目表4行目の「ウオーキングハース式」から6行目の「以下」までを「ウオーキングビーム式で上下動駆動を電動式とする加熱炉(以下」に,8行目から9行目の「ウオーキングハース式加熱炉(上下焚)」を「ウオーキングビーム式加熱炉」にそれぞれ改め,同枚目裏7行目の「原価見積書」を削除する。
  6 同43枚目表5行目の「そのころ」を「そのころまでに」に,5行目の「大同機械」から7行目冒頭の「らつた」までを「大同機械に偏心カムを含む駆動部分の図面を示してその見積りを依頼した(なお,同社は同年10月13日付で右見積仕様書を,同月28日付で見積書をそれぞれ作成し,Xに提出した。)」にそれぞれ改め,同枚目裏8行目の「原価見積書」を削除する。
  7 同44枚目裏2行目の「昭和43年」を「昭和44年」に,同45枚目表4行目末尾の「右」を「富士製鉄から引合を受けた」にそれぞれ改める。
  8 同45枚目裏8行目から9行目の鉤括弧内を「『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作」に,同46枚目裏4行目の「証人」を「当審証人【E】,原審証人」に,8行目の「認められるから,」を「認められるから(当審証人【G】の供述中右認定に抵触する部分は上記各証言に対比して採用し難い。),」にそれぞれ改める。
  9 同47枚目表3行目の「証人【I】の証言」を「Y2において昭和44年ころ受注した富士製鉄(大分製鉄所)用の電動式ウオーキングビーム式加熱炉の図面,設計資料,材料表,操作説明書及び仕様書等の書類の写真であることに争いのない検乙第3号証の1ないし5,当審証人【G】及び原審証人【I】の各証言」に,6行目冒頭の「相当の」を「更に相当多数の書類を調製しなければならず,そのためにかなりの」にそれぞれ改める。
  10 同47枚目表末行冒頭の「(四)」を「(五)」に,末尾の「すぎない」を「すぎず,最終設計図面の作成もなく,部品の発注さえしていなかつた」にそれぞれ改める。
  11 同48枚目表9行目の「証人」を「原審証人」に改め,同枚目裏8行目の末尾に次のとおり加える。
    「なお,Yらは,Xが昭和42年1月から昭和44年7月までの七件の引合をすべて油圧式で見積つている事実をもつて前記主張の根拠の一つに挙げているが,前顕甲第11号証及び原審証人【F】の証言によれば,駆動装置を電動式にするか油圧式にするかは顧客の好みによるところが大きいこと,そして,現にXにおいて昭和45年3月13日に電動式による受注に成功したのちも,同年7月から昭和47年3月までの六件の引合についてはすべて油圧式を見積つていることが認められるから,Y指摘の叙上の事実は,Xが本件特許出願の際,既に発明の実施の準備をしていたとの前示判断を左右するものではない。」
  12 同49枚目表1行目冒頭の「準」を「備」に,「実施」を「実施又は準備」にそれぞれ改める。
  13 同51枚目裏7行目の末尾「ない」の次に「(なお,いずれも成立に争いのない甲第12号証の2ないし5,第13号証の2ないし4,第27,第28号証及び弁論の全趣旨によると,駆動装置としての偏心輪及び内輪と外輪(外周輪)との間に転動体をおいた転がり軸受の技術は,いずれも本件特許出願前(優先権主張によれば昭和43年2月26日前,以下同じ。)公知の技術であつたことが認められる。)」を加える。
  14 同52枚目裏10行目の「したことになり,」を「したことになる。」に改め,「本件特許発明」から同53枚目表1行目末尾までを,行を変えて次のとおり改める。
    「そうすると,Xは,A製品を発明し,かつ,その製造,販売の準備をしたことにより,本件特許権について,何らの制限のない先使用による通常実施権を有するものといわなければならない。」
  15 同53枚目表2行目の「そこで以上の前提に立つて,」を「次に,」に改め,更に3行目の「原告」から11行目末尾までを次のとおり改める。
    「イ号製品が本件特許発明の技術的範囲に属すること及びイ号製品とA製品とが原判決別表(二)記載の四つの構造もしくは方法において相違していることは,いずれも当事者間に争いがないところ,右四つの装置部分は,3で説示したとおり,本件特許発明との対比においてその必須構成要件ではなく,右構成要件との係わりを肯定するとしても,それは二義的なものにすぎず,加えて,前顕甲第27,第28号証作成の方式・趣旨に照らしてX主張のような図面と認める甲第26号証並びに弁論の全趣旨によると,イ号製品の右各装置部分は,X主張のとおり本件特許出願前いずれも公知のもので,この分野における通常の技術的知識を有する者にとつては明白な置換可能物又は方法であつたことも認められるから,いずれにしても,本件特許発明との対比において,イ号製品はA製品の占有状態内のものとみることができ,したがつて,Xは,イ号製品を製造,販売するについて先使用権を有するものといわなければならない。
 なお,Yらは,イ号製品は,本件特許発明の公開後に,その公開された実施例そのものにA製品を変更したものであるから,公平の上から,Yらに対して先使用権を主張することは許されない旨主張する。しかしながら,本件特許権の出願公告日以前である同年5月にXらが既にイ号製品を新日鉄に納入したということはYらにおいて自陳するところであり,また,XはY2が東海製鉄株式会社(現新日鉄名古屋製鉄所)に納入していた製品を参考にしてイ号製品を製作したとする点についても,Yらの指摘にかかる原審証人【B】の証言の内容は,【B】が富士製鉄釜石製鉄所(現新日鉄釜石製鉄所)の職員として,Xに大型加熱炉を発注するにあたり,東海製鉄株式会社(現新日鉄名古屋製鉄所)の工場でY2の製品を見学し,参考にしたというにすぎないことが認められるのであり,進んで,そもそも前説示のような四つの装置部分の構成要件との係わり及び本件特許出願当時の技術水準を考慮すれば,Xにおいて本件特許公報ないしその実施品を知見のうえ,右各装置部分を原判決別表(二)記載のとおり変更したものであるとしても,これが直ちに公平の理念に反するとはいい難いところというべきである。そうであれば,ひつきよう,Yらの上記主張は採ることができない。」
  16 同53枚目裏3行目の「原告」から9行目末尾までを削除し,10行目の「かかる場合には,」を「3,4の説示からすれば,」に改める。
  17 同55枚目表5行目の「証人」を「原審証人」に改め,同57枚目表3行目冒頭の「請求」の次に「及びY1の損害賠償請求(当審で拡張した請求を含む。)」を加える。
二 よつて,原判決は相当であり,本件各控訴及びY1の当審で拡張した請求はいずれも理由がないから棄却し,当審における訴訟費用の負担につき民訴法95条89条93条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。」