奈良県 吉野山地


採集できる石
鉱物名コメント
褐鉄鉱少ないたまに落ちてます
水晶少ない片麻岩の隙間に成長しています
方解石少ない片麻岩の隙間に成長しています

石を見る


1985年5月29日

 吉野川は奈良県だけの名前で、和歌山にはいると紀ノ川と名前を変える。また、中央構造線の真上にある川で、岩石は変化に富んでいる。しかし、破砕されていることが多く、もろく崩れやすい上にカオリン様の粘土層もかなり見える。
 また、近くには丹生川という支流もあり、何かが採れそうな気がするが、20Kmほどさかのぼっても、緑色がかった灰色の片麻岩と蛇紋岩の間のような岩が続くだけで見栄えのする物は採れなかった。もう少し上れば、チャートやスカルンなど、また、丹生という名前の由来の鉄の鉱山や銅の鉱山がある。

 1997年に熊野川の上流にある天川村の庵住という所に子ども連れでキャンプに行ったことがあるが、ここでは、河原に鉄の鉱物が見つかる。映画「もののけ姫」に出てくるイノシシ神の体の中に入っていた鉄砲の弾のような鉄の塊で、大きな物は、エボシが「いい鉄だ」と言って叩いていた鉄の塊に似たタタラの鉱滓が川の中のあちこちに散らばっている。特に川のえぐれたところには必ず見つかる。
 持って帰った時には何者かはわからなかったが、しばらくしてK氏に見ていただき、やっと正体が判明した。
 これは鉱滓だそうで、その石を説明すると、中にいろいろな大きさの小石が含まれていて、その小石が、風化してなくなった跡が、穴のようになっている。だから、表面が無数の凸凹がある。穴の大きさはまちまちで、小さな物は1mm以下の物から大きい穴は3Cmくらいの物まである。石自体の大きさは、砂粒のような物から大きい物は20Cm以上あるものまであった。また、磁石にも反応した。そして、叩くと金属音がし、他の石に比べてすごく重い。
 また、その河原には灰鉄輝石の菊のような1Cmくらいの結晶や、5mmほどの鉄礬ザクロ石も採れる。パンニングすれば磁鉄鉱も得られる。
 ちなみに奈良県には「アシタカ」という名前の人がわりとたくさん住んでいる地域がある。漢字では「芦高」と書くが、考えて見ればあの映画「もののけ姫」の舞台は奈良県の吉野地方ではないかという気がするのだがどうだろうか。東の国からイノシシ神の鉄の秘密を求めて西の国にやってきたアシタカがモロという狼に出会う。たしか、日本で最後に狼が捕まえられたのは、ここからほど近い、鷲家口という所で、吉野郡東吉野村の三尾鉱山の一つ手前の集落で三尾鉱山に行くには必ず通る所である。狼が日本に最後までいたのがここなのだから、昔にあんなことがあっても不思議はなかろうと思う。「でいだらぼっち」の伝説も吉野にあったように記憶しているが、これは専門の先生に任すしかない。
 また、1997年でも熊の出没が奈良新聞をにぎわせ、イノシシの柵が畑の周りを巡っている。兄と二人で近くに釣りに来た時、野生の猿に追いかけられてしまった。車で走っていて目が合ったので、牙をむいて追いかけてきたのだ。サンルーフを開けて、上から釣り竿を出してあったので、そこから襲われるかとすごく怖かった。だが、猿も車のスピードには勝てなかったようで私たちは命拾いをした。カブトムシも一つのくぬぎの木に70匹くらいとまっている木もあるくらいである。1997年でも、まだまだ自然の豊かな所ではある。(1999年の夏も見に行ったが、まだカブトムシは50匹以上はとまっていた。)

 話は横にそれたが、五條市の吉野川は中流域にあたり、川幅も広く流れも少し緩やかになる。周りにはハッキリとはしていないが、河岸段丘があるのが分かる。JR五條駅はその上段に当たる。西には金剛山があり、深成岩と少しの堆積岩で成り立っている。金剛山の山裾には礫岩が出る所もあり、山のちょうど反対側の大阪側には「蕎原」(そぶら)という中生代の化石が出るところもあり、この頃の地層の最下層に当たると思われる。しかし、礫岩なので化石の産出は聞いたことがない。

 私の職場は当時、五條市の吉野川沿いの東側にあり、この職場には5年間お世話になっていたので機会があるたびに河原に歩きに出かけた。しかし、機会と言っても仕事をおいてそうそう出かけられるものでもなく、1年に数回行けるかどうかではあった。また地元の利はあって、思いがけない河原への降り口を発見したり、有力な情報などを聞く事ができたので、好都合であった。
 ちょうどもうすぐ奈良で国体が行われる事になっていて、吉野川はカヌーの会場に選ばれていた。この会場は全体が片麻岩でできており、少し川幅が小さくなり、流れが急になる所で、ちょうど水量が少ない頃だったので、上流にある津風呂ダムを放水して水量を上げていた。だから、いつもよりも川が濁り、清流のイメージがなくなっていたのが残念であった。
 しかし、この国体のおかげで堂々と川歩きができたのでちょうど良かった。ここを歩いているといろいろな石に出会える。
 上流の方には蛇紋岩の様な岩もあり、緑色の岩の隙間には白いロジン岩のような物も見られる。片麻岩の隙間には少量ながら方解石の結晶や方解石の上に水晶の晶出した物まで見つけることができた。石灰岩は粘土で少し茶色に色づき、上の水晶とのコントラストがすごくきれいな物であった。また、私はお目にかかってはいないが、K氏は高師小僧を採ったとおっしゃっていた。見せていただいたが、草の根を中心にできたような感じで長さは15Cmはあった。
 後はチャートや金属鉱石のかけらなどがあるが、残念ことに中央構造線のおかげで破砕されている物が多くすべて物は小さく貧弱なのが欠点である。
 ちなみに津風呂湖温泉の入り口に、蛇紋岩の塊が置いてあって割れ目に無色透明な結晶が見える。ぶち欠くわけには行かないので様子をみていただけだが、雨水にも溶けていないところを見ると方解石ではないようだ。沸石のたぐいだと思うのだが、これも調べようがなかった。


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