赤道儀の目盛環の使い方
赤道儀(右上写真)には、星を赤緯赤経座標の位置によって導入するための目盛環が2つ付いています。一つは赤緯方向を合わせるための目盛が付いた赤緯環(右上写真左矢印、右中写真)、もう一つは赤経方向を合わせるための目盛が付いた赤経環(右上写真右矢印、右下写真)です。
これらを使いこなすためには、赤道儀の極軸が、ある程度きっちり合っていなければならないことが前提にあります。極軸さえきちんと合っていれば、基準の星を元に、目標の天体を望遠鏡に導入することが出来ます。
そこで、目盛環の一般的な使い方(絶対座標での導入)と、目盛環の簡単な使い方(相対座標での導入)を説明したいと思います。
1.目盛環の一般的な使い方(絶対座標での導入)
例えば、はくちょう座の1等星であるα星デネブを使って、二重星であるβ星アルビレオを導入するとしましょう。デネブとアルビレオの位置は、下表のように赤緯と赤経が判っています。
まず望遠鏡にデネブを導入します。赤道儀のクランプを緩め、望遠鏡にデネブが入ったところで赤道儀のクランプを絞め、望遠鏡からデネブがずれないように固定します。1等星なので、すぐに入れられるでしょう。
次に赤緯環のネジを緩め、基準線の位置が+45°16’49”になるように赤緯環を回し、合ったところで赤緯環のネジを絞めて固定します。たいてい赤緯環は、極軸が合っていれば、望遠鏡の取り付けのずれさえなければ、はじめから合った位置を示しますが、ずれているようでしたらきちんとその値に合わせます。
赤経環についても同じようにして、20h41m26sになるように回して合わせ、固定します。これによって、2つの目盛環はデネブの位置を示していることになります。
それでは準備が整ったので、目盛環を使ってアルビレオを入れることにしましょう。
まず赤道儀の赤緯方向のクランプを緩め、赤緯環の基準線の位置に+27°57’35”を合わせ、クランプを絞めます。次に、赤経方向のクランプを緩め、赤経環の基準線の位置に19h30m43sを合わせ、クランプを絞めます。これで、望遠鏡は、アルビレオの位置に向きました。望遠鏡を覗いてみれば、実際にアルビレオが入っています。
このように、導入しやすい星を実際に導入し、その星の位置(赤緯,赤経)を目盛環の基準線に合わせれば、導入したい天体の位置(赤緯,赤経)が判っていれば、目盛環を使って、その天体を入れることができます。
はくちょう座 星名 |
赤緯 |
赤経 |
α星 |
デネブ |
+45°16’49” |
20h41m26s |
β星 |
アルビレオ |
+27°57’35” |
19h30m43s |
2つの星の差 |
+17°19’14” |
1h10m43s |
2.目盛環の簡単な使い方(相対座標での導入)
デネブとアルビレオの位置(赤緯,赤経)を2つ用意して、目盛環の細かい目盛を、暗い中で合わせるのは大変です。そこで、前もって、デネブとアルビレオの位置の差(赤緯の差,赤経の差)を計算しておきましょう。(その位置の差は、上表の最下行に計算してあります。)
それでは、アルビレオの目盛環による導入を再度行ってみましょう。
まず望遠鏡にデネブを導入し、固定します。次に赤緯環のネジを緩め、基準線の位置が+0°(ゼロ)になるように赤緯環を回し、合ったところで赤緯環のネジを絞めて固定します。赤経環についても同じようにして、0h(ゼロ)になるように回して合わせ、固定します。これによって、2つの目盛環は原点、すなわちゼロの位置を示していることになります。
すぐに準備が整いますので、早速、アルビレオを入れてみましょう。赤道儀のクランプを緩めて、赤緯環、赤経環のそれぞれの基準線が、2つの星の位置の差である、+17°19’14”、1h10m43sになるように合わせて、赤道儀のクランプを絞めます。もうこれで、望遠鏡にはアルビレオが導入されています。
この方法は、目盛環に位置情報を(赤緯,赤経)を1回合わせるだけで、簡単に入れることができますが、位置の差を前もって計算しておかなければなりません。しかし、彗星や小惑星など、狙う天体が前もって決まっているとき、星見をする前に、明るいところで星図を見て近くの基準の星を決めて、その星との差を計算しておけば、星見での暗い中でも、早く簡単に目標天体を導入することができます。
私の赤道儀には、エンコーダや自動導入装置が着いていないので、もっぱら、この相対座標で導入をしています。
3.目盛環の導入精度
目盛環の導入精度はどのくらいあるのでしょうか。基準天体と目標天体の位置の差(赤緯の差,赤経の差)を計算するときに、精度によっては、下位の方の桁は計算しなくて済みますし、写真を撮るときに、その画角に合った精度で導入すれば、写野に目標天体が入ることになります。
私の赤道儀はNJPで、目盛環は右上写真のようになっています。赤緯環は1目盛が2°で、目測でその1/4の30’までは、合わせることができます。赤経環は1目盛が10mですので、目測でその1/4の2.5mまでは、合わせることができます。また時角を角度に変換すると、10mは2.5°となり、その1/4は約40’となります。
位置を入れるとき、赤緯では10’の位、赤経では1mの位まで計算しておけば、それ以下の位は、目測では到底合わせられる値ではないことが判ります。
写真の写野を計算すると、私の場合、35mmフィルムでの約600mmの直焦点撮影ではフィルムの短辺方向で2°強です。ですから、その半分の1°以内の精度範囲で導入できれば、目標天体をフィルム上に捕らえることができます。これは、目測で合わせられる精度より大きいので、充分捕らえることができるわけです。
以上、目盛環の使い方を書いてみました。
現在、高価な赤道儀には、エンコーダや自動導入装置が着いている物が多くなってきていますが、目盛環は上手に使いこなせば、非常に便利な物です。皆さんも、お試しください。
1999/04/06
ご意見、ご感想はこちらへお寄せください。
piz@star.email.ne.jp