愛の歌    八木 一郎

 昨年はブラームスの没後100年であったため、ブラームスの作品をなるべく多く聴くように心がけた。中でも印象に残ったのが「愛の歌」Op.52(1868〜9作)である。
 この曲は、彼がクララ・シューマンの三女であるユーリエとの結婚を夢見て書いたとのことである。ブラームスはクララの三女ユーリエにピアノを教えていたが、クララに生き写しのように美しく成長した彼女に恋心を抱き、結婚したいと激しく願っていたときに生まれたのがこのワルツ「愛の歌」であり、甘く美しいメロディで人生の喜びを快活に歌い上げている。またこの曲は「四手のピアノを四声部の歌声」で演奏されるが、歌は省いてピアノだけで演奏しても良いというちょっと変わった但し書きがついている珍しい曲である。
 ところで、「愛」を題名にした音楽は無数にある。愛を語るには音楽が最も適当なのかもしれない。
 閑話休題、これからの時代は心の時代であり、物質欲だけでなく心を満たす何かが必要で、皆が互いにそれを求めているという。問題は人と人との間に心を通わせるにはどうすればいいかである。
 学者によると、心を通わせるのは「愛」であり、愛がなければ心は通わないという。もちろん、ここでいう「愛」は男女の仲の「それ」でなく、人対人すべてに通じる愛である。
 愛は英語で[LOVE]である。この四文字を分析すると
L:Listen 即ち「聞く」。「愛」は相手の話をよく聞くことから始まる。自分のいいたいことだけ言っていては互いの愛は生まれない。
O:Overlook 即ち「見逃す、目をつぶる」何事も自分の思い通りには動かない。重箱の隅をつつくような細かいことは言わない。そうでないと反発が多くて愛は生まれない。
V:Voice  即ち「声、言葉」こちらの話しかけに返事を返してくれてこそ、そこに人のつながりができる。言葉がなければ愛は育たない。
E:Effort 即ち「努力」。人の話を聞き、細かいことは言わず、言葉を交わし合って愛を育てていくには努力が必要だと言う。努力なしでは心は通じ合わない。これはある米国の心理学者の説だそうである。結婚披露宴のスピーチにも使えそうな話である。
 さて200回もの例会を積み重ねてきた「さんげつ会」が長続きしているのも案外こんなところに秘訣があるのかも知れない。
 まずは300回を目指して「愛」と「音楽」で共に歩もうではありませんか。

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