同時代の作曲家 |
作成日:1999-06-14 最終更新日: |
ドメニコ・スカルラッティの同時代にはどんな作曲家がいたのだろう。
G. F. ヘンデルはスカルラッティと同じ年, 1685年に生まれた。 スカルラッティとヘンデルとには有名な逸話がある。
どこかの都市でお互いの鍵盤楽器の腕前を比べる催しがあった。 初日ににハープシコードの腕比べがあった。 こちらはスカルラッティが勝った、という説と引き分けだったという説両方がある。 翌日オルガンの勝負をするために、ヘンデルが最初にオルガンを弾いたところ、 スカルラッティは戦わずして負けを認めた、というものである。
ハープシコードの勝負は結局どちらだったのだろうと今でも気になって仕方がないのだが、 お互いが好敵手として認め合っていたのは確かなようだ。 さて、曲の冴えとしては実際のところどうなのだろうか? スカルラッティには 555 のソナタのうちいくつかはオルガンで弾くことが前提となっているようだ。 スコット・ロスのCDで聴く限り、ハープシコードに見られる冴えはオルガンでは聞き取れない。
いっぽうヘンデルのほうは、ハープシコードの組曲と変奏曲を聴くと、 厚みで勝負をするタイプに感じられる。 そのためハープシコードの華やかさを今一つ活かし切れていないようだ。 もちろん、組曲第3番など緊張感溢れる曲もある。 しかし、どちらかというと他の彼のジャンルに比べて小さくまとまっている感が強い。 オルガン単独の曲は私は聴いたことがなく、 合唱や合奏協奏曲の伴奏としてのオルガンを聴く限りは、 彼の資質に合っているのはオルガンの方だろう。
1685年は作曲家の当たり年だった。あのJ.S.バッハが生まれている。 怪しいスカルラッティの本によれば、 <バッハは人の曲を評する時「スカルラッティのように美しい」とほめたことがある、> とある。 ところが、カークパトリックの本によれば <バッハとスカルラッティはお互いを知らなかったはずだ>ということだ。 カークパトリックがいうのだから、こちらが本当なのだろう。 もちろん、時代小説を書けば、 このあたりは実際に会ったことにしてどんどんドラマを発展させられるのだ。
さて、バッハは対位法を完成させたことであまりにも有名なのだが、 彼の対位法、特にフーガは完成度の高さゆえ、 他のバロックからは異端に見られる。 ヘンデルやスカルラッティでは、そして、他のバロックでも、 フーガといっても出だしだけ4度か5度の応答で形だけ整備されるだけで、 あとはホモフォニックに展開されたり主題がまったく顧みられなかったりでいいかげんである。 バッハはあらゆる様式を試みようとしたのだが(特に平均率第2巻で)、 スカルラッティが試みた革命は起こすことができなかった。
ソレルはスペインの作曲家。1729年生まれ、1783年没。 ドメニコ・スカルラッティの弟子にあたる。 オルガン曲、室内楽曲も作っているが、 チェンバロ曲が多く、ソナタと称されたチェンバロ曲が 149 あるなど、 スカルラッティのソナタとそっくりである。 わたしは一部を聴いただけなのだが、スカルラッティのソナタと比べて、 どうも光るところが少ないようなのだ。 なぜだかわからない。もう一度聴いたり弾いたりした上で結論を出したい。
ということで、2002 年 11 月 4 日にソレルのソナタを買って聞いてみた (NAXOS の第 8 巻)。聴いた限り、スカルラッティにはあまり感じられない粘着質なところがある。 また、伴奏法の幅も広がっていて、 スカルラッティがついぞ採用しなかったアルベルティバス (左手が奏する一種の分散和音、ドソミソという形が典型)も使われている。 ひらたくいえば、スカルラッティから離れてハイドンのスタイルに向かう過渡期の音楽に聞こえる。 (ちなみにハイドンは 1732 年生まれ、1809 年没)。 面白い曲もある、というより面白い部分が多いのだが、 全曲を通すと結局両者の折衷に聞こえ、残念ながら完全燃焼できない。 とはいえ、私が聴いた絶対数がまだまだ少ないのかもしれない。
なお、彼は「転調の技法」という理論書をものしている。転調はスペイン語で salida なんですね。 どこかで聞いたことばであった。
ピアニストの関孝弘さんが紹介している、ドメニコ・チマローザ(1749~1801)がいる。楽譜が出ているが、 弾いたことはない。 Youtube で数曲聴いたが、スカルラッティからもう少し野性味を抜いた感じの曲に聞こえる。
不勉強にして最近知ったジョヴァンニ・ベネデット・プラッティ(1697-1763)もスカルラッティに通じるものがある。 プラッティの曲を76分間聞き通したある方は 「スカルラッティとハイドン溺愛系でないとこれを楽しめないのではないか」 とおっしゃっている。 私は上記の溺愛系に該当すると思うので楽しめるのではないかと思うが、どうだろう? youtube でプラッティを聞いたが、チマローザと同様、スカルラッティに較べるとやはり野性味が欠ける気がする。
カルロス・デ・セイシャスあるいはカルロス・セイシャス(1704-1742) はポルトガルの作曲家。 ドメニコ・スカルラッティにチェンバロを学んでいるが、師より早く亡くなった。 数曲を聞いた限り上の二人よりは野性味があるようだ。
付記:あるとき、このセイシャスの作品を聞く機会があった。野性味があるのはいいのだが、 メリハリに欠け単調な気がした。やはりスカルラッティのほうが一枚上手なのだろうか (2019-05-19) 。
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