理想のピアニスト(第4回):なぜピアニストはピアノしか弾けないのか |
作成日:2003-03-27 最終更新日: |
前回までは実在しているピアニストや芸人について述べてきた。 今回は趣向を変えて、一般的なピアニスト像について私が期待していることを記す。 ただし、これから私が期待するピアニストは、非常に特異であることも付け加えておく。
私がピアニストに対して抱いている疑問は、 「なぜピアニストはピアノしか弾けないのだろう」 ということである。
他の楽器奏者は、複数の楽器をごく普通に持ち替える。 ヴィオラを弾くことできるヴァイオリニストはざらにいる。 また、フルートとピッコロの持ち替えは当たり前だ。 打楽器は当然、すべての打楽器を扱えないといけない。 そう思うと、ピアニストがピアノだけに固執するのは少しおかしな気がする。
なるほど、ピアニスト以外にも持ち替えのことなど考えない楽器奏者は多くいるはずだ。 たとえば、オーボエ奏者はリードの扱いに細心の注意を払わないといけないから、 他の楽器を持つことなど、考えもしないに違いない。
考えてみれば、管楽器はそれぞれの特色があるわけで、 持ちかえといっても同じ族の間(フルート族、クラリネット族など)で 完結してしまうのだろう。 私が思い描いていたのはジャズ奏者のエリック・ドルフィーの例である。 この人はアルトサックス、バス・クラリネット、 フルートという3種類の管でどれも見事な演奏を残している。 でも、ドルフィーは極端な例なのだろう。
さて、ピアニストは他の楽器ができるかというと、見事なまでにできない。 ピアノ弾き語りというのはあるが、あれは歌という本業にピアノという副業がくっついたものである。 他にも、チョン・ミョンフンやヴォルフガング・サヴァリッシュのように、 ピアノがけっこうできる指揮者というのはいる。しかし、指揮者が本業である。 ピアノが本業で他の楽器が副業というのはいない。 あえていえば、本業ピアノの副業は、作曲であろう。
かくして、ピアニストは不器用である。 チェンバリストやオルガニストとの両立すらできない。 明らかに奏法が違うからである。グールドがチェンバロで奏した録音もあるが、 これは本気ではないだろう。
私が希望するのは、持ち替えができるピアニストである。 例えば、弦楽器ができるピアニストがいたらどうだろうか。 ピアノ五重奏曲と弦楽五重奏曲が一度に同じ人たちのコンサートでできるのだ。 ピアニストが持ち替えた楽器に対しては、私達は技量を期待し過ぎてはいけない。 ただ私の推測では、後期ロマン派までの作品では、 持ち替えた楽器の技量でも十分音楽になると思う。その理由については後ほど記す。
さらに発想を進めて、今度は弦楽器の誰か、 たとえばヴァイオリニストがピアノを弾けるといいだろう。 すると、ピアノと弦楽四重奏で構成する楽団員のうち、 ピアニストがコントラバスを弾き、 ヴァイオリニストの一人がピアノを弾く、ということができる楽団が登場する。 そうすれば、外部から客員奏者を迎える必要なく、 シューベルトのピアノ五重奏曲「鱒」が奏でられる。 このような持ち替えができる才人が多くいる楽団に、私は憧れる。
さすがに、 ある夜のコンサートの第1部に出演した東京クワルテットが第2部で玉川カルテットに早変わりとか、 マンハッタン・ジャズ・クインテットが実はピアソラ・キンテートだったとか、 そういう話は期待しない。 しかし、同じ仲間が違う楽器に持ち替えて多彩な音楽を繰り出す、 そんな楽団があれば面白いし、楽しい。なんといっても、 いろいろな楽器が一晩のうちにきければ、聞く者にとっては安上がりである。 (2003-03-27)
追記:私はピアノとチェロを弾いているが、先に述べた考えをもってのことではなかった。 (2013-07-15)
追記2:最近こんな記事を見た。オーストラリアのユースオーケストラが来日した。
吹奏楽とオーケストラからなる団体で、
弦楽器奏者が吹奏楽ではホルンを吹いたりと、マルチな活動をしている。
(2016-03-26)
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