楽団員事情管見

作成日 : 2019-11-17
最終更新日 :

1. はじめに

私は複数の管弦楽団(楽団、オーケストラ)でチェロを弾いてきた。オーケストラだからふつう演奏会をする。 チェロの腕は万年初心者(エスペラントでは eterna komencant という) なので足を引っ張ってばかりであるが、半年でやめてしまう場合もあれば長続きした場合もある。 さて、6年間いた楽団の団員だった当時、楽団のコンサートマスターから、 弦楽器の常識を共有しましょう、というメール(以下、メール)が来た。そのメールには、 楽しくて充実したオーケストラ・ プレーヤーになるために (www.ccnetmie.ne.jp)というマニュアルを一読することを勧めていた。 以下、メールやマニュアルを見て思ったことを述べる。

2. 持ち物

2-1. 鉛筆

楽譜への書き込みのため、鉛筆は必需品である。 マニュアルでは、濃さは B または 2B を勧めている。 一方、メールでは 4B か 6B を使っている人が多いとあった。 さて、どの程度の濃さが適切なのか。 あるピアノ弾きのページでは、3B が最適という記事があった(もっともこのピアノ弾きは、 のちに電子楽譜に切り替えたらしく、もう鉛筆の書き込みは使っていないようである)。 また同じ楽団にいた団員は、4B や 6B なんて、画材屋にしか扱っていないのではないか、 と私に尋ねた。私は文房具屋であれば、2B より濃い鉛筆も 3B から 8B までありますよ、と答えた。 作家の後藤明生は 6B の鉛筆を使っていたと Wikipedia にはある。 なお、後藤自身による随筆では、一時期は 4B の鉛筆を使っていたとある。 私は 2B の鉛筆をたくさん持っているので 2B を使いたい。 なぜかというと、甥が小学校のころ 2B の鉛筆をたくさんそろえたが余ってしまい、 私がそのおさがりをありがたく頂いたからである。

わざわざ 4B や 6B を買ってまで使うことはない、 と思う。わたしは 2B を使うことにする。

また、マニュアルには、鉛筆にはクリップや紐をつけるとかの工夫をして、 鉛筆を床に落とさないように工夫をすること、 とある。たいていの人は床に落としにくいように短めの鉛筆を使っているが、 私は短めの 2B の鉛筆しかない (残り物のおさがりだからだ)。せっせと鉛筆を使って短めにするしかない。 マニュアルにはないが、最近磁性を帯びた鉛筆キャップが販売されている。 このキャップを鉛筆につけておけば、 譜面台とキャップが磁性によりくっつくので、落ちる心配がない。よく考えたものだと思う。

その後、おさがりの鉛筆に 5B のものがあった。しばらくはこれを愛用していたがなくしてしまった。 今は 2B か 4B か 6B の鉛筆を使っている。また、磁性を持たせた鉛筆キャップは安いものは見つからず、 市販の鉛筆キャップにマグネットをセロテープで付けたものを使っている。 このマグネットは、台所レンジのフィルターを止めるマグネットのスペアで、家に大量にあったからである。

2-2. メトロノーム

練習の持ち物に記載されているが、これは、古典的なばね仕掛けのものではないと思う。 持っていけるとすれば電子的なメトロノームであるが、 これは、オーケストラの練習に持っていくというよりは、自分でさらうときに必要なものだと思う。 かりに練習に持って行ったとしても、全体練習で自分でそれを鳴らすわけにはいかないからだ。 せめて休憩時間の練習でこっそりさらう程度だから、持っていく必要はないと思う。 もちろん、個人でさらうときには、必須である。 殺してやりたくなるぐらいというのはまさにその通りだ。

2-3. 音叉

私は音叉を持っているが、音叉で合わせたことはこの20年来、ない。チューナーが手っ取り早いからだ。 もちろん、音叉で音をとること字体は耳の訓練のためには必要だろう。 しかし、もう私は年だ。耳が訓練によって確かになるとは思えない。 だから、チューナーの世話になるしかない。 それに、持っている音叉は 440 Hz のものだから、 現在の 442 Hz の時代に合わないと思い込んでいた。しかし、改めてマニュアルを見るとこう書かれていた。

A=440Hzの音叉で442Hzのチューニングができないと考えているあなた、物理の勉強が足りません。「うなり」について勉強しなおしてください。とにかく音叉がいちばんです。

うっ、私は物理の勉強をしたのに、すっかり忘れてしまっていた。

2-4. テープレコーダ

今、テープレコーダを持参する人はいないだろう。可動部分のない、電子式のレコーダや、 スマートフォンの録音機能で済ませている人が多いと思う。これは大事だと思う。 ただ、録音しただけで、聞き直さなければ意味がない。 その時間を忙しい現代人はどうしているのだろうか。 私は忙しくないが、たんに面倒なだけで録音はしていない。

2-5. エチュード

マニュアルによれば、楽器を取り出して 30 分、エチュードを効果的に使うこと、とある。 私は初心者だから、初心者のためのエチュードがない。ここでは「教本」と同一と考えるしかないが、 私は未だにウェルナーを学んでいる身であるから、エチュードまでいっていないのだ。

その後、2020 年の冬、ウェルナーの上巻を卒業した。 ウェルナーの下巻には進まず、ドッツァウアーの第2巻に進んだ。 (2021-01-16)

その後、ドッツァウアーの第3巻をやるのかと思ったら、そうではなかった。 先生から「デュポールもありますが、そこまでやらなくてもいいでしょう」ということで今はエチュードはやっていない。

2-6. スコア

チェロの技術では劣るが、スコアに関してなら少しはわかる。全体を見て、ここで出る、 ここで休む、といった急所はスコアを見ないとわからない。 ただ難点がある。著作権が切れておらず(= IMSLP にないということ)、 スコアが市販されていない、あるいはスコアがあってもとんでもなく高い値段がするような、 そんな曲を弾くときは困る、ということだ。

私が新たな曲を弾くときには、なるべくスコアを買うようにしていたが、ルロイ・アンダーソンの曲は楽譜屋になかったのであきらめた。

2-7. パート譜

私は忘れてくるときがたまにある。すいません。

2-8. 譜面台

予算に余裕があるならば、という留保の上で、 マニュアルには、家庭用に据え置き式のものと、 携帯用に折たたみ式のものの、2種類持つとよいでしょう。 とある。家庭用の据え置き式は私には手が出ない。 以前所属していた別の管弦楽団ではない別の音楽集団には、 輸入家具商社にお勤めの方(故人)がいて、その方が舶来物の据え置き式譜面台を勧めていた。 私は買わなかったが、今思えば買っておけばよかったのかもしれない。

ということで、譜面台は携帯用の折り畳み式のしか持っていない。私が 1985 年に買ったものであり、 当時主流だった電気亜鉛めっき鋼板のものだ。これは頑丈だが重い。 だから練習場所に譜面台があるのかないのかを、 いつも気にしていて、練習場所に譜面があればラッキー、とそれだけで喜ぶことにしていた。

2-9. 楽典

楽典の本は持っていない。このマニュアルには音楽の一般常識の本とある。 まあ「音楽事典」といえばいいだろう。 ただ、単に楽典というと、私の感覚では「本」という以上に「理論」に重点が置かれているような気がする。 だから「楽典の本」は「牛の牛肉」ではない。

2-10. 音楽辞典

マニュアルでは、音楽辞典を持たずして音楽にかかわるのは、 英和辞典を持たずして英語のABCを学ぶようなものなのです。 とある。どうもすいません。 音楽辞典も持たずしてヘミオラとか、 ナポリの六度とかを、 あたかもわかったような顔をして平気でページを作った私は、 厚顔無恥だ。

2-11. その他の音楽書籍

次の分野に興味を持つようにとある。

私は音楽辞典を持っていないから、アゴーギクの意味がわからない。 Wikipedia で調べてみたら、 テンポやリズムを意図的に変化させることで行う表現付けのことをいうようだ。 デュナーミク(これは音の強さの意図的な変化)との対比でいうとよくわかる。

俺も音楽辞典を買おうかな。金がないけれど。


3. さらい方

次のさらい方が出ている。要は、目的をもって分析的にさらう、ということが大事だ、 ということだ。これは管弦打楽器に共通しているところもあれば、 楽器ごとに異なることもある。

まず音程だ。弦楽器は特にそうだ。わたしは管楽器や打楽器の演奏警官はないが、管楽器の音程もデジタル的に決まることはないことぐらいはわかる。 息の吹き込み方、アンブッシャ、変え指、 その他もろもろの要因で変わりうる。打楽器も叩く位置で変わるだろう。 恐るべきことにピアノのような鍵盤楽器でも、 「あの人は音程が悪い」と言われるのだそうだ。私はこのこと自体は間違っていると思うが、 他の要因、つまりリズムやテンポ、フレージング、タッチなどの総合的な判断で、 水準を下回ると「音程が悪い」ということになりうるのだ。

あと最後の「逆弓」については説明が必要かもしれない。 通常の弦楽器については弓の順番(ボーイング)がアップボーかダウンボーか決まっている。 通常は拍頭がダウンでその次の音がアップである。だから、普通の刻みであればこの順番を保てばよいが、 この順番をあえて逆にすることをいう。すなわち、アップボーで弾くべきところをダウンボーで弾く (その反対も同様)。 この目的はいまひとつわからないのだが、おそらく、 アップボーやダウンボーのそれぞれの長所と短所を明確にするためにおこなう一種の「矯正」だと思う。

これに類似の概念で「逆付点」がある。これは通常 2:2 の等分で弾くべきところが、2+:2- になるのを避けるために、 敢えて 3:1 にする(順付点)で極端にしたり、3:1 の比率を逆に1:3にする(逆付点)ことで、 2:2 の等分性をはっきりさせるものである。これはマニュアルでも出てくる。

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MARUYAMA Satosi