D.フォミーン,セルゲイ・ゲンキン,イリヤ・イテンベルク:やわらかな思考を育てる数学問題集3

作成日:2023-12-25
最終更新日:

概要

「数学問題集1」のp.ⅲ の「岩波現代文庫版にあたって」から引用する。

本書は 1996 年にアメリカ数学会から出版された
Mathematical Circles ( Russian Experience) の翻訳です。

感想

わたしにも解ける問題がありそうだ。まず「第14章 幾何」の問題を見てみよう。p.22 から引用する。

問 55 ピーターは,平面上で与えられた直線と与えられた点から等距離にあるような点の集合は円であるといっています。これは正しいでしょうか。

あれ、直線と点の両方に等距離の点の集合は放物線ではなかっただろうか。解答は、「円ではない。なぜならいくらでも長い等距離の点の集合が存在するからだ。 事実、このような点の集合は放物線である」という大意であった。

「第 15 章 基数システム(n 進法)」の問題で、ニムのゲーム(石取りゲーム)が解説されている。このゲームの必勝法に2進法が使われているので感動した。ニムの必勝法は、 自分と相手の石の状態(本書では「位置」)を見て、相手の石が「奇数の位置」であれば、自分の番が回ってきたらこの状態から石をとって「偶数の位置」にすればよいという。その理屈は次のとおりだ。 p.42 から引用する。なお、「偶数」、「奇数」の定義は本書を参照のこと。

  1. ゲームの最後の位置は‘偶数’である。
  2. ‘偶数’の最後の位置から次の手は‘奇数’の位置となる。
  3. ‘奇数’の位置からは,‘偶数’の勝つ位置へ 1 手で動かすことができる。

この証明も本書に譲る。 2 項は正確には、「‘偶数’の最後の位置からどんな手を指しても次は‘奇数’の位置となる。」というべきだろうし、 3 項は「‘奇数’の位置からは,‘偶数’の勝つ位置へ 1 手で動かすことができる手が唯一存在する。」というのが正確な表現だが、それはともかく、 ニムがこのように解析されているので数学のもつ威力に驚いた。

「第16章 不等式」の問題を見てみよう。p.46 から引用する。

問2 どちらの数字が大きいでしょうか。
(a) `2^300` か `3^200` か
(b) `2^40` か `3^28` か
(c) `5^44` か `4^53` か

(a) と (b) は、直前の問1 の解答を参考にすれば解けた。(c) はどうか、`4^53` という、53 が気になる。どうも、(a) や (b) の方法で計算しようとしたが、うまくいかなかった。 しかたなく `log_10 2 ~~ 0.3010` を使ってしまった。巻末の解答を見たら驚いた。ただもう忘れてしまったので、やりなおしてみる。

まず5 のべき乗は、 5, 25, 125, 625, 3125 と続く。いっぽう、4 のべき乗については、直接考えるより 2 のべき乗から考えるといいだろう。`4^53 = 2^106` だからだ。 2 のべき乗は、2, 4, 8, 16, 32, 64, 128, 256, 512, 1024, 2048, 4096, 8192 となる。両者が近いのは 125 と 128 だ。`125 lt 128` つまり
`5^3 lt 2^7`
から出発できないか考えてみる。両辺を 15 乗して
`5^45 lt 2^105`
これから、
`5^44 lt 5^45 lt 2^105 lt 2^106 = 4^53`
がわかる。

改めて巻末解答を見てみたら、こちらは 3125 と 4096 の比較だった。なるほど。

気をよくして、別の問題を見てみた。 pp.47-48 から引用する。

問5* `4^79 lt 2^100 + 3^100 lt 4^80` を証明しなさい。
解き方(中略)
次に `2^100 + 3^100 gt 4^79` を証明します。そのため `3^100 gt 4^79` あるいは `4^80 / 3^100 lt 4` を, 次のような不等式の鎖をつくって証明します。
`4^80 / 3^100 = (256/243)^20 lt (19/18)^20 = (361/324)^10 lt (9/8)^10 = (81/64)^5 lt (9/7)^5 = 59049/16807 lt 4`
(後略)

この連鎖の式は、どうやって計算したのだろう。不等式のところがわからない。少し手計算してみよう。 まず、`256/243 lt 19/18` をどうやって導いたのだろう。しばらく考えて、256/243 をそのまま割り算したのだろうと見当をつけた。 筆算で、`256/243 = 1.053 cdots` であることがわかる。そこで、`(n+1)/n`の割り算で 256/243 よりちょっとだけ大きな分数を見つけたい。 `21/20 = 1.05 ` だからこれは該当せず、`20/19 = 1.052 cdots` なのでこれもうまくいかない。しかし、`19/18 = 1.055 cdots` なので、これならば上から押さえられる。 つぎに `361/324` を評価する。これを筆算で計算すると `361/324 = 1.114cdots` となるので、これは `9/8 = 1.125` を使って上から押さえられる。 最後の `(9/7)^5 = 59049/16807` だが、この計算はきつい。そこで次のように工夫する。
`(9/7)^5 = (81*81)/(49*49) * 9/7 = (80 + 1)^2/(50-1)^2 *9/7 = 6561/2401 * 9/7 lt 6600/2400 * 9/7 = 11/4 * 9/7 = 99/28 lt 4`
本当は割り算の筆算を使いたくなかったが、これは仕方がないか。

「第 17 章 2 年目用の問題」から。p.75 にある問 19 を引用する。鳩の巣箱の原理を使うことが示されているがそれだけで解けるだろうか。

3 × 4 の長方形の内側に 6 つの点をとります。その中から `sqrt(5)` 以下の距離にある 2 つの点を選べることを示しなさい。

昔、受験勉強をしていたころ、こんな問題があった。「30m 四方の公園に照明塔を 10 本配置する。どのように配置しても、15m以上離れた塔の組があることを示せ。」 鳩の巣原理を知った初めての問題がこれだった。この初めての問題の解き方は覚えていたので、これをもとに解こうとしたが、どうもうまくいかない。 どうやって解こうかとしたかというと、まず、相異なる 2 点で距離が `sqrt(5)` になるような領域を 3 × 4 の領域をカバーするように 5 つとる。6 つの点と5つの領域の関係から、 ある領域には 2 つの点があるから、それらの点が `sqrt(5)` である、そういう組立だった。ところが、 「相異なる 2 点で距離が `sqrt(5)` になるような領域を 3 × 4 の領域をカバーするように 5 つとる」ことがどうしてもできない。`sqrt(5)` という値からは 1 × 2 の長方形が連想されるが、 では 1 × 2 の長方形で 3 × 4 の領域をカバーするようにすると、これはどうしても長方形が 6 つ必要となり、鳩の巣原理を使う「一つ余分になる」条件が満たせない。

結局答を見たらなるほどとわかった。以下、私になりに解釈した答を示す。まず 3 × 4 の長方形を 1 × 1 のマスに区切る。点が 1 × 1 のマスに 2 つ以上入っていればこの 2 つが `sqrt(2)` 以下である。 1 つのマスに入っている点が高々 1 つの場合、点が入っているマスが辺で隣接している場合とそうでない場合がある。辺で隣接している場合は、1 × 2 のマスに 2 点があるのと同じことで、 この場合はこの 2 点が `sqrt(5)` 以下である。そうでない場合は、次のアルファベットが記されたマスに点がある場合に限られる。

ab
cd
ef

6 つの点どうしはなるべく離れるようにしたい。そこで、a のマスの左上に点 A を、e のマスの左下に点 E を配置する。A と E から `sqrt(5)` だけ離れた点を c のマスに点 C としてとると、 マス a, e の左端の線から点 C は水平方向にして `sqrt(11)//2` だけ離れている。同様に、d のマスに、最も右で上下には中央の点 D を配置し、b のマスの上辺に D から `sqrt(5)` だけ離れた点 B を、 また f のマスの下辺に D から `sqrt(5)` だけ離れた点 F を置くと、点 B、点 F とも D の右辺からは、水平方向にして `sqrt(11)//2` だけ離れている。また、 C と F の水平方向の距離も `sqrt(11)//2` 以上離れている必要がある。つまり、点 A と 点 D の水平方向の距離は `3sqrt(11)//2` 以上必要だ。 ところが、`sqrt(11) gt sqrt(10.24) = 3.2` だから、 `3sqrt(11)//2 gt 4.8 `となり、全体長方形の横が 4 であるという条件に反する。よって `sqrt(5)` 以下の距離にある 2 つの点が選べる。

さて、この問題を「3 × 4 の長方形の内側に 6 つの点をとります。その中から選んだ 2 つの点の距離の最小値を `x` とするとき、 `x` が最大になるのはどんな配置でしょうか」とすると問題はさらに難しくなると思う。 どうだろうか。

誤植

p.156 で問題 14 によりとあるが、正しくは、《問題 34 により》である。

数式記述

数式は ASCIIMath で記述し、MathJax で表示している。

書誌情報

書名 やわらかな思考を育てる数学問題集3
著者 D.フォミーン,セルゲイ・ゲンキン,イリヤ・イテンベルク
訳者 志賀浩二, 田中紀子
発行日 2012 年 12 月 14 日 第1刷
発行元 岩波書店
定価 1080 円(本体)
サイズ 文庫版
ISBN 978-4-00-600277-0
NDC 410
その他 岩波文庫、草加市立図書館で借りて読む

まりんきょ学問所数学の本 > D.フォミーン,セルゲイ・ゲンキン,イリヤ・イテンベルク:やわらかな思考を育てる数学問題集3


MARUYAMA Satosi