「はじめに」から引用する:
小学校の 1 年生にとっては, 3-5 ができるようになるとはどうしても信じられない話です。 そして,それが可能であるわけは手品のようなカラクリがあったので, 「ずるい」という気がしないでもありません。(中略) カラクリがあるのは数の世界だけではありません。図形の世界にもあることをお話ししていきます。
本書の題名にもある通り、「カラクリ」という言葉がうまく使われている、と感心した。 そして、さきほど引用した小学校の 1 年生とは、本書の著者のことである。よく小学校 1 年生のときのことを覚えているなあ、 と感心した。
私は小学校 1 年生のときのことを算数で覚えていることはないが、高校生のときの数学のことは覚えている。 高校 1 年生のとき、虚数や複素数を習った。そして、先生が「虚数というのは目に見えるんだよ」 とつぶやいた。え、だって、二次方程式の根が実数では存在しないときに複素数が目に見えるとはどういうことか、 と思ったのだ。そんな私の疑問を引き取るように、先生は黒板に図を描いてこう説明した。 「複素数は目に見えます。まず、実数軸を横軸に、虚数軸を縦軸にとります。 `a+bi` の形の複素数は、`a` と `b` をそれぞれ `x` 軸、`y` 軸の座標とみなして、 点`(a, b)` を書けば、複素数が目に見えるというわけだ」ええ、そんなことでいいの、 というのが私の感想だった。まさに「ずるい」という気がした。しかし、確かに複素数は目に見えている。 なお、私が学んだ頃の高校数学では複素平面が単元になかったことを言い添えておく。
私が昔から不思議に思っていたことは、非ユークリッド幾何はなぜ双曲幾何が先に発見されて、 楕円幾何があとから発見されたのか、ということだった。楕円幾何の特殊な形である球面幾何は、 もう長い間の歴史があるというのに。その答が本書にあった。本書によれば、 楕円幾何を非ユークリッド幾何として定義するには、第 5 公理だけでなく、 第 1 公理をも置き換えなければならなかったからだという。まず、ユークリッド幾何の公理を、 本書の p.31 から引用する。
- 公理 1
- 与えられた 2 点に対して, それらを結ぶ線分をちょうど 1 つ引くことができる
- 公理 2
- 与えられた線分は, どちら側にも限りなく伸ばすことができる
- 公理 3
- 平面上に 2 点が与えられたとき, 一方を中心とし,他方を通る円をちょうど 1 つかくことができる
- 公理 4
- 直角はすべて相等しい
- 公理 5
- 2 直線と交わる 1 つの直線が同じ側につくる内角の和が 2 直角より小さいならば, 2 直線をその側に伸ばせばどこかで交わる
ここで公理 5 は次のように書き直してもいいことがわかっている。p.33 から引用する。
- 平行線公理
- 直線外の 1 点を通り,その直線に平行な直線は 1 本に限る
この平行線公理を他の公理で置き換えてもいいというのが非ユークリッド幾何と理解していた。
事実、双曲幾何は公理 5 だけを1 直線外の 1 点を通り,その直線に平行な直線は 1 本ではない
(本書 p.35)で置き換えたもので、この体系で整合性が取れている。
一方、(球面幾何を含む)楕円幾何では公理 5 を平行線は存在しない
(本書 p.41)で置き換えたものである。
どころが楕円幾何では公理 1 も書き換えが必要で、それは p.45 によれば次の通りである。
- 公理 1'
- 与えられた 2 「点」に対して, それらを結ぶ「線分」を少なくとも 2 つ引くことができる
ここで「点」や「線分」というカギカッコつきの語は、ユークリッド「原論」による定義を表わしている。 そう、楕円幾何を矛盾のない公理系にするためには公理 1 も変更する必要があったのだ。それに気づかなかったから、 楕円幾何を非ユークリッド幾何として認識するのが双曲幾何よりあとになってしまった、ということかと納得した。 pp.48-49 から引用する。
双曲幾何の場合は,原論の第 5 公理だけを別の公理で置き換えたのですが, 楕円幾何の場合は第 5 公理だけではだめなのです。平行線公理の問題は, 公理 1 ~ 4 はそのままにして第 5 公理がそれらから証明されるかという問題でした。 そして,そこから双曲幾何が生まれました。したがって, 公理 1 も換えるという考えは初めからなかったのでしょう。
球面上の幾何は,双曲幾何の発見の前から,球面幾何学として研究されていましたが, これを非ユークリッド幾何の一種と認識するのが遅れた理由はここにあるのでしょう。 楕円幾何の発見がいつなのか私にははっきりわかりません。
このページの数式は MathJax で記述している。
書名 | 非ユークリッド幾何のカラクリ |
著者 | 立花俊一 |
発行日 | 2004 年 1 月 5 日 初版第2刷発行 |
発行元 | アルキ |
定価 | 750 円(本体) |
サイズ | 新書版 166 ページ |
ISBN | 4-915624-04-8 |
その他 | 草加市立図書館にて借りて読む |
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