伊理 正夫:現代応用数学

作成日:2013-05-17
最終更新日:

概要

現代の応用数学をさまざまな観点からみる。

感想

単位についてうるさく言及しているのは、さすが伊理先生という気がする。 ところで、 この本は模様替えして「応用システム数学」という名前で、朝倉書店から出ている。 中身は変わっていないようだ。

ミクシンスキーの演算子法

pp.50-51 では、 ミクシンスキーの演算子法について少しだけ触れられているが、それほど大きな記事ではない。 そして、p.140 ではこの演算子法を使った微分方程式の解法が示されている。 以下、pp.50-51 の記事を引用する。

(前略) 区間 `[0, oo)` で定義されている二つの関数 `{f(t)}, {g(t)}` に対してその積 `{f(t)}{g(t)}` を

`{f(t)}{g(t)} := {int_0^t a(t - tau)b(tau) d tau }`

で定義する(合成積)。明らかに `{a(t)}{b(t)} = {b(t)}{a(t)}` である。

さてそこで、関数値が常に 1 である特別の関数 `l={1}` を考える。 任意の関数 `{a(t)}` に対して `l{a(t)}={sum_0^t a(tau)d tau}` であるから、`l` は 上述の積分演算子 `1/D` に対応する。また,関数値が常に 0 である 関数を `O={O}` とすると,任意の関数数 `{a(t)}` に対して, `O{a(t)}={O}=O ` となる。したがって, `O={O}` は実数における 0 とちょうど同じ役訓を果たす。 また,`{(t) != 0}`かつ `{b(t)} != O` なら `{a(t}}{(b(t)} != O` である。 一方,任意の関数 `a(t)` lこ対して `{1(t)}{a(t)}={a(t)}` となるような関数 `{1(t)}` が存在すれば, これが実数 1 に相当する役割を果たすが, このような関数 `{1(t)}` は存在しない。そこで, 実数を複素数に拡張したように, ここでも通常の関数を拡張して `1={a(t)}//{a(t)}`と 定義する。ここで `a(t)` は恒等的にOでない関数なら何でもよい。すると, 任意の関数 `a(t)` に対して`1 * {a(t)}= {a(t)}` が成り立つ。 ここで, 数としての 1 と関数としての `l = {1}` とは異なることに注意せよ。

さらに `s= 1 // l`とおいて,`{a(t)}= {int_0^t a'(tau )d tau} + {a(O)}` (`a'(tau)` は `tau` に関する微分) を置き換えると `{a(t)}=l{a'(t)} + l * a (O)` となるので, 両辺を `l` で割れば,`s{a'(t)}+a(O), ` すなわち,
`sa=a' +a(O)`
が得られる。よって `s` は微分演算子 `D` に相当するが,初期値 `a(O)` が加わる分だけ異なる。ここに,実数 `k` に対して `k{a(t)}= {k(at)}` である。

以上のように,区間`[0, oo)` で連続な関数 `{a(t)}` の全体を基にして, 合成積と通常の加法に関して“体” (加減乗除算に関して閉じているもの) をなすように拡張したものは, 上の“ 1”や `s` のように連続関数の範囲を越えたものを含む。 これらの“体”の要素を演算子と呼ぶことにする。 この立場から方程式を置き換えると

`{e(t)}`` = R{i(t)} + L (s{i(t)} - i(0)) + 1 / C l{i(t)} `
` = (R + Ls + 1 / (Cs)) {i(t)} - Li(0) `

が得られる。これも `{i(t)}` と`{e(t)}` との間の線形関係を表している, `e(t)` を与えて `i(t)` を求めたいときには,これを変形して,

`{i(t)} = ({e(t)} + Li(0))/ (R + Ls + 1/(Cs))`

とする。一般に `s` の有理式は通常の関数の範囲にあることがわかっており、 `s` の有理式から対応する関数を計算するための組織的方法も確立されている。 例えば,`1 / (s - alpha) = {e^(alpha t)} `である。 そこで,`{e(t)}` が `s ` の有理数として表されるような関数ならば, (4.2.17)の右辺 も `s` の有理関数となり,したがって,`{i(t)}` が関数として求められる。 このような解の求め方を Mikusiński (ミクシンスキー) の演算子法という。

参考

吉田 耕作、加藤 敏夫の応用数学 I には、ミクシンスキーの演算子法についての解説がある。

数式記述

数式は MathML で記述し、MathJax で表示している。

書誌情報

書 名現代応用数学
著 者伊理 正夫(編著)
発行日 年 月 日
発行元放送大学教育振興会
定 価2500 円(本体)
サイズ
ISBN4145637410
NDC410

まりんきょ学問所数学の本 > 伊理 正夫(編著):現代応用数学


MARUYAMA Satosi