松本 幸夫:仕事に役立つインド式計算入門

作成日:2013-05-11
最終更新日:

概要

二部からなる。第一部(Part 1)はインド式計算のマスター、 第二部(Part 2) はインド式計算を仕事にいかす訓練。

インド式計算とは

インド式計算を知りたかったが、期待は裏切られた。 だいたい、用語の使い方がおかしい。

たとえば13ページ、インドでは初等教育ですでに「19*19」を暗記します とあるが、これは 19 * 19 = 361 であることの暗記にとられかねない。 次の文が日本の九九が「81通り」に対し、インドでは「361通り」の枠の中で計算をするのです。 とあるので、結局 (19 * 19 = 361) 通りの掛け算の組み合わせを暗記する、という意味だとわかるのだが、 それなら最初にそう書いておけばよい。

では、実際のインド式計算はどうなのか。と思ったらインド式計算はすぐには出てこない。 14 ページを見てみよう。

24 * 16 を因数分解すると (20 + 4) * (20 - 4) になります。

これは因数分解ではなくてただの式変形である。a * b を計算するときに、 a = m + d, b = m - d となるように m と d を取ることができる。 a * b = (m + d) * (m - d) = m2 - d2 だから、 計算しやすいような m と d であればこの公式を使うのがいいわけだ。それはわかるのだが、 (m + d) * (m - d) から m2 - d2 に式変形するのは、 因数分解ではなくて展開である。

18 ページからインド式計算が出てくる。知らなかった。おもしろいことは認める。たとえば、 10 台どうしの計算の方法は次の通りである。

  1. 被乗数と、乗数の1の位の数をプラスして 10 倍する。これを x とする。
  2. 被乗数の1の位と乗数の1の位をかける。これを y とする。
  3. x + y が答である。

13 * 18 など、上の通りやれば、(13 + 8) * 10 + (3 * 8) = 210 + 24 = 234 である。 なるほど、楽だ。しかしこの本ではやり方しか載っていない。 理系出身者としては当然、証明をしないと納得して使うことができない。 以下、証明である。

該当する2つの数はそれぞれは 10 + a, 10 + b と書ける。これらの積を計算する。 (10 + a) * (10 + b) = 100 + 10a + 10b + ab = 10 * ((10 + a) + b) + ab 右辺は上記の方法をしめしている。証明終わり。

p.22 からある条件のもとで2ケタの数どうしの積を計算する方法が紹介されている。 第1のパターンは次の通りである。

  1. 1の位を足すと 10 になる
  2. 10 の位が同じ数字

実際の方法は本に書いてあるのだが、それを写すのはつまらない。代数で考えよう。

それぞれの数は、第1の条件から 10a + b と 10a + c と書ける。この2数の積は

(10a + b) (10a + c) = 10a(10a + c) + b(10a + c) = 10a(10a + b + c) + bc = 100a(a + 1) + bc

右辺は、100 の位以上と、10の位以下が独立に計算できることを示している。 100 の位以上は、10 の位の数字と、10の位の数字に1を加えたものとの積である。 10 の位以下は、それぞれの数字の1の位の積そのものである。

第2のパターンは次の通りである。

  1. 10 の位を足すと 10 になる
  2. 1 の位が同じ数字

それぞれの数は、第2の条件から 10a + b と 10c + b と書ける。この2数の積は

(10a + b) (10c + b) = 100ac + 10b(a + c) + b2 = 100(ac + b) + b2

右辺は、100 の位以上と、10の位以下が独立に計算できることを示している。 100 の位以上は、10 の位の数字の積に1の位を加える。 10 の位以下は、それぞれの数字の1の位の積そのものである。

そのあとは「因数分解を応用して計算を簡単にする方法」とあるが、 前に述べたとおり因数分解ではなくて展開である。

18 * 24 を、20 を基数として (20 - 2) * (20 + 4) = 400 + 20 * (4 - 2) - 4 * 2 として計算するものである。ただ、私にとっては基数を両者の平均である 21 にとったほうがらくだ。

18 * 24 = (21 - 3) * (21 + 3) = 441 - 9 = 432

なぜこちらのほうが楽かというと、覚える数が441 と 9 の二つですむからだ。 441 = 21 * 21 の計算が大変ではないかという人がいるかもしれないが、 これには展開公式 (20 + 1) * (20 + 1) = 400 + 2 * 20 + 1 が用意されているので心配ない。

まあ、このあたりは人によりけりだろう。

以下は紙とエンピツを使った方法が多く紹介されているが省略する。 暗算では補数を使った方法が紹介されているが、目新しいものではない。 たとえば、ある数から 285 を引くのに、285 に近いキリのいい数 300 を考える。 足すべき数、すなわち補数は 15 である。すなわち、300 = 285 + 15 と認識する。 そして 300 をある数から引いて仮の答をだし、引き過ぎた分 15 を仮の答にたして正しい答とする。

私が一番欲していたのは、割算を正確かつ迅速に行う方法なのだが、それは載っていなかった。

仕事に生かすインド式計算

こちらの方は、「決算書の読み方」などに書いてあることだから新味はない。 しかし、インド式計算を使えば速算できるだろう。

著者の名前

著者は松本 幸夫(まつもと ゆきお)さんだが、著名な数学者に同じ漢字、同じ読みの松本 幸夫さんがいる。 こちらは多様体の位相幾何学が専攻分野で、この方が書いた「トポロジー入門」という本を買ったことがある。 まぎらわしいので、注意すること。

書誌情報

発行日2007 年 10 月 2日(3刷)
発行元フォレスト出版
定 価1000円(税別)
サイズ
ISBN978-4-89451-273-3
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NDC

まりんきょ学問所数学の本 > 松本 幸夫:仕事に役立つインド式計算入門


MARUYAMA Satosi