高橋 陽一郎 : 力学と微分方程式

作成日 : 2021-08-23
最終更新日 :

概要

「まえがき」より この分冊は,「微分と積分 1, 2」「複素関数入門」に引き続いて, 17 正規のニュートンやライプニッツに始まる「無限小解析(infinitesimal calculus)」 とその延長線上にある解析の世界を紹介するものである. とある。言い忘れたが、本書は「岩波講座 現代数学への入門」全 10 巻( 20 分冊) の上野健爾著「代数入門2」と同時配本である。 また、本書は後に単行本化されている。

感想

記述の程度は高く、私には理解できない個所がほとんどである。 問の解答は付されていないものも多い。たとえば、第2章 p.70 にある次の問 :

問16 : 曲率 `rho`,ねじれ率 `kappa` が一定のとき, 例 2.50 の方程式 (2.76) の初期値問題を解け.ただし, `e_1(0) = {::}^t(1,0,0)`,`e_2 = {::}^t(0,1,0)`,`e_3= {::}^t(0,0,1)`, `phi(0) = (0,0,0)` とする.

の答はこうだ。

問16 : 自分で解いてみて,ジェットコースターの体感と比べてみよう.

怖い。最近、富士急ハイランドのローラーコースター「ド・ドドンパ」での事故が報告されていて、 なんともタイミングが悪いと思ったものだ。例 2.50 の方程式 (2.76) は p.69 にあり、次の通り :

`{(varphi'(s) = e'_1(s)),(e'_1(s) = rho e_2(s)),(e'_2(s) = -rho e_1(s) + kappa e_3(s)), (e'_3(s) = -kappa e_2(s)):}`

全く分からない。p.69 を見ると、上の式を行列表示すると、12 次正方行列となる。

`A=((O,E,O,O),(O,O,rhoE,O),(O,-rhoE,O,kappaE),(O,O,-kappaE,O))`
ただし `E, O` は3次の単位行列,零行列

まったくわからない。`A^2`を計算してみよう。

`A^2=((O,E,O,O),(O,O,rhoE,O),(O,-rhoE,O,kappaE),(O,O,-kappaE,O)) ((O,E,O,O),(O,O,rhoE,O),(O,-rhoE,O,kappaE),(O,O,-kappaE,O)) =((O,O,rhoE,O),(O,-rho^2E,O,rhokappaE),(O,O,-(rho^2+kappa^2)E,O),(O,rhokappaE,O,-kappa^2E)) `
対角行列にならない。`A^3` はどうなるだろうか。

`A^3=((O,O,rhoE,O),(O,-rho^2E,O,rhokappaE),(O,O,-(rho^2+kappa^2)E,O),(O,rhokappaE,O,-kappa^2E)) ((O,E,O,O),(O,O,rhoE,O),(O,-rhoE,O,kappaE),(O,O,-kappaE,O)) =((O,-rho^2E,0,rhokappaE),(O,O,rho^3E,O),(O,-rho(rho^2+kappa^2)E,O,-kappa(rho^2+kappa^2)E), (O,O,rho^2kappaE,O))`
まだ対角行列にならない。`A^4` をダメもとでやってみる。

`A^4= ((O,O,rhoE,O),(O,-rho^2E,O,rhokappaE),(O,O,-(rho^2+kappa^2)E,O),(O,rhokappaE,O,-kappa^2E)) ((O,O,rhoE,O),(O,-rho^2E,O,rhokappaE),(O,O,-(rho^2+kappa^2)E,O),(O,rhokappaE,O,-kappa^2E)) = ((O,O,-rho(rho^2+kappa^2)E,O),(O,(rho^2+kappa^2)E,O,-rhokappa(rho^2+kappa^2)E), (O,O,(rho^2+kappa^2)^2E,O),(O,-rhokappa(rho^2+kappa^2)E,O,kappa^2(rho^2+kappa^2)E)) `
あきらめた。ただ、A に乗じるベキを偶数と奇数とに分けて考えるのは有効だろう。 時間があれば試してみたい。

p.136 に次の問がある。

問4 : サイクロイド `x = u + sinu, y = cos u ( 0 le u le 2pi) ` 上を降下する質点が最下点に到達するまでの時間を `T//4` とすると, `T` は出発点によらないことを示せ. (この意味で,サイクロイドは等時曲線と呼ばれることもある.)

意味がわからないぞ。この式のサイクロイドはどうなるのだろうか。

`(dy)/(dx) = (dy)/(du) (du)/(dx) = -sinu / (1 + cosu)`
`u in (0, pi)` では`(dy)/(dx)` は単調減少だ。また、`u = pi` のときは分母分子とも 0 になる。 どうなるのだろう。図を書いてみよう。

この線の上のどこかに質点をそっと載せれば、`x = pi` で最下点に到着するのはわかる。 ただ、この図では、`x = pi` に近いところで手を離せば、 `x = 0` に近いところで手を離した場合よりずっと速く最下点に到達する。何かおかしい。 正しい図は次ではないか。

つまり正しい式は `x = u - sinu, y = cos u - 1 ( 0 le u le 2pi) ` である。 これならば図を見ても、最下点に近いところで手を離した場合でも `x = 0` に近いところで手を離した場合でも最下点に到達する時間は同じになりそうだ。 なお、`y` 座標は、曲線が原点を通るように調整した。

さて、等時性を示すのは私には難しい。特別な場合、つまり出発点を原点としたときに、 最下点に到達するまでの時間を求める。以下質点の質量 `m = 1` として、重力定数を `g` とする。 以下は、https://www1.gifu-u.ac.jp/~math/gifumathj/2014-7.pdf を参考にした。

まず、パラメータ `u` は時間に依存するのでこれを `u = u(t)` とする。質点の速度を求める。 以下引数 t は省略する。

`(dx)/(dt) = (dx)/(du) (du)/(dt) = (1 - cos u )(du)/(dt) , (dy)/(dt) = -sinu (du)/(dt)`
`:. v^2 = ((dx)/(dt))^2 + ((dy)/(dt))^2 = (2 - 2 cos u)((du)/(dt))^2 = 4sin^2{:u/2:}((du)/(dt))^2`
`:. v = 2sin{:u/2:} (du)/(dt)`

次に力学的エネルギーを考える。 出発点の力学的エネルギーは、位置エネルギーも運動エネルギーも、共に 0 である。 すると、エネルギー保存則から、運動している質点の力学的エネルギー、 すなわち位置エネルギーと運動エネルギーの和も 0 である。 よって、

`-g (1 - cos u) + 1/2 v^2 = 0`
`:.v^2 = 2g(1 - cos u) = 4g sin^2{:u/2:}`
`:.v = 2sqrt(g) sin{:u/2:}`

ここで ` ((dx)/(dt), (dy)/(dt))` から求めた `v` と力学的エネルギー保存則により求めた `v` は等しいので

`2 sin^2{:u/2:} (du)/(dt) = 2 sqrt(g) sin{:u/2:}`
`(du)/(dt) = sqrt(g)`
`1 = 1/sqrt(g) (du)/(dt)`
両辺を `t` に関して `0` から `T` まで積分して左辺は `T` となる。右辺を計算する。
`int_0^T 1 / sqrt(g) (du)/(dt) dt`
` = int_0^pi 1/sqrt(g) du = pi / sqrt(g)`

どこかまちがっているような気がする。

数式記述ほか

このページの数式は MathJax で記述している。

サイクロイドの描画は、曲線のカタログを参考にした。

書誌情報

書名力学と微分方程式
著者高橋 陽一郎
発行日1996 年 8 月 27 日
発行元岩波書店
定価2 分冊合計定価 3495 円(本体)
サイズ**版 204 ページ
ISBN
その他越谷市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi