有馬 哲、浅枝 陽:演習詳解線型代数

作成日:2013-07-27
最終更新日:

概要

線型代数の演習書。

感想

大学に入って、本当に困った。授業がわからないのだ。 1年生の数学では解析と代数(なぜか授業の名前は「幾何」だった)を学ぶが、代数の先生は前期はほとんど代数的構造、 即ち体とか群とか環とかに費やし(なんとイデアルまで出てきた、かんべんしてくれよ)、 前期の線型代数はほんの少ししかできなかった。

他のクラスでは、 齋藤正彦の線型代数入門か佐竹一郎の線型代数学かが教科書として指定または推薦されていたが、 私のクラスの代数の先生は教科書を指定しなかった。 なお、のちほどわかったことがある。この代数の先生は線型空間という本を執筆していたが、 岩波のセット物の基礎数学シリーズのうちの一つだったので、 推薦しようにもできなかったのだろう。

これでは試験で困る、と考え演習書を買った。当時は、 演習書といえばこの本かサイエンス社の本しかなかったのではないか。

買ってみると字が細かいことに多少の使いづらさを感じた。 しかし何といっても例があるのがありがたい。 なんとかテストでは不可をとらずにすんだのはこの本のおかげである。

浅枝先生

私は著者のお二人との面識はないが、浅枝先生の話は聞いたことがある。 昔、浅枝先生の教え子と話をしていたら、「あの、線型代数の演習書を書いた浅枝先生だけれど、 実は……」という話が出ておかしかったことを覚えている。ごめんなさい。

この教え子は若くして亡くなり、しばらくして偲ぶ会が催された。そのときに浅枝先生が招かれていて、 スピーチをされた。「なかなか面白いスピーチだったよ」ということだったが、 あたりが騒がしかったので聴けなかった。残念だった。

ファイバー

数学は日本ではこなれた学問なのでかなりの用語が日本語になっているが、 ときどき西洋のことばがそのまま使われることもある。ファイバー、という用語はこの本で初めて知った。 掃き出し法の説明でファイバーとあり、自分で?マークをつけている。

第1章第4節は線型写像という題であり、次の説明で始まる。

定義 写像 `F : S -> T` と, `T` の元 `t` とに対し, `F` による `t` の逆像 `F^(-1) (t) = { s in S | F(s) = t}` を, `t` の上の `F` のファイバー,`F(x) = t` の一般解などとも言う。

むずかしいですね。

しかし、このような問題ならばできるだろう。

次の関数 `f, g, h` の、点 `1 in RR` の上のファイバーを求めよ。
` f : RR -> RR , x |-> 2^x + 1`
` g : RR -> RR , x |-> cos x`
` h : RR -> RR , x |-> -1 / 4 x^4 + 5/4 x^2`

これらは、たとえば関数 `f(x)` について `f(x) = 1` となる `x` を求めよ、というのと同じことだから、 意図はわかる。

表現行列

§3.3 線型写像の行列表現,階数 (p.66)を見てみよう。

定義 `U, V` が実数体 `RR` 上の有限次元の線型空間,`(: bbu_1, cdots, bbu_n :)` が `U` の基底, `(: bbv_1, cdots, bbv_m :)` が `V` の基底とする. 線型写像 `F : U -> V` に対して
`( F(bbu_1) cdots F(bbu_m) ) = (bbv_1 cdots bbv_n)((a_11, cdots, a_(1n)), (vdots,,vdots), (a_(m1),cdots, a_(mn)))`
で定まる `(m, n)` 型の行列 `M(F) = (a_(ij))_(i le i le m , 1 le j le n) ` を基底 `(: bbu_1, cdots, bbu_n :) , (: bbv_1, cdots, bbv_m :)` に関する `F` の(表現)?行列という.

ここで“(表現)?行列”という表記は、行列または表現行列、の意味である(コンピュータにおける正規表現から拝借した)。 この式の右項を見ると、ベクトルに関して行列が右にあることに違和感を覚える(私だけか)。 これは、ベクトルが基底だからなのだろう。次は、上の引用のすぐ次にある。

このとき, 基底 `(: bbu_1, cdots, bbu_n :)` に関する `bbx in U` の座標を `(x_i)_(1 le i le n)`、 `(: bbv_1, cdots, bbv_m :)` に関する `bby in V` の基底を `(y_j)_(1 le j le m)` とすると、
`( (y_1),(vdots),(y_m))= M(F) ((x_1),(vdots),(x_n))`.

ジョルダン標準形

ジョルダン標準形の問題もある。

行列 ` B = ((3, 5, 5, 2), (-5, -7, -7, -3), (5, 8, 10, 5), (-5, -9, -12, 6))` に対し正則行列 `Q` を求めて `B' = Q^-1BQ` をジョルダン行列にせよ。

解 `gamma_B(t) = (t^2 + 1)^2 = (t - i)^2(t + i)^2.rank (B - iE) = 3` (したがって `rank (B + iE) = 3`).`:. Q^-1BQ = J(i, 2) o+ J(-i, 2).i ` に属する固有ベクトルを `bbq_i`,`(B-iE)bbx = bbq_1` の解を `bbq_2` とし, `bbq_1, bbq_2` の成分をそれぞれ共役複素数に変えたものを `bbq_3, bbq_4` とする. `bbq_3` は `-i` に属する固有ベクトルで,`(B + iE)bbq_3 = bbq_4` であるから `Q = (bbq_1, bbq_2, bbq_3, bbq_4)` が求めるものである。たとえば、

`Q = ((-2, 3+i, -2, 3-1), (3-i, -4+i, 3+i, -4-i), (-3+i, 2-i, -3-i, 2+i), (3-i, -1, 3+i, -1))`

数式の記述

数式はMathJax を用いている。

書 名演習詳解線型代数
著 者有馬 哲、浅枝 陽
発行日
発行元東京図書
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MARUYAMA Satosi