大学の初年級における「線形代数」の標準的な教科書である(カバー扉より)
初版発行が 1977 年 1 月 15 日だから、長い間本書が支持されているということだろう。 もっとも、齋藤正彦の「線型代数入門」の初版発行は 1966年 3月31日であり、 佐武一郎の「線型代数学」の旧版である「行列と行列式」は 1958 年刊行であるから、上には上がある。
それはさておき、本書で扱っている項目については、培風館のホームページにある目次を見るのがいいだろう、 と書いて培風館のホームページをみたら、主要目次しか書いていない。これではいけませんね。 私が書くのはおかしいので、ここは書かないでおく。
本書は3色刷である。重要な語句や場所は青色で記されていて、注意を要する語句や場所は赤色で記されている。 赤色が使われているのは限定されていて、掃き出し法の軸となる個所に赤色が施されている。
本書は 194 ページであり、教師がいる授業の教科書としては向いているだろうが、 解答の説明が少ないので独習には適さないと思う。それでも、絵がいろいろと書かれているところを見るのは楽しいだろう。
巻末の問題解答が「略」となっている問題を解いてみることにする。
まず 3.行列式の章末問題を見てみよう。`(i,j)` 成分が `a_ij = abs(i-j)` である `n` 次正方行列 `A` について
`|A| = (-1)^(n-1) (n-1) 2^(n-2)`
を証明せよ.
最初は数学的帰納法を使おうとしたが、どうもうまくいかない。まずは `A` を書き下してみる。
`|A| = |(0, 1, 2, 3, cdots, n-1), (1, 0, 1, 2, cdots, n-2),(2, 1, 0, 1, cdots, n-3), (3,2 ,1 ,0 , ddots ,vdots ), (vdots, vdots, vdots, ddots,ddots, 1), (n-1, n-2, n-3,cdots,1,0)|`
ここで本書 p.62 の定理 3.6 (次数を下げる公式1)や例12 (上三角行列の行列式)を思い出してみよう。 行列式の基本変形を駆使して上三角行列の行列式に持ち込めばいいに違いない。 本書 p.61 の定理 3.5 (行基本変形と行列式)や、 本書 p.68 の定理 3.15 (列基本変形と行列式)の性質を利用して行列式を求めやすくしていく。
以下 `2 le k le n` とする。まず上の行列式で、第 `k` 行を -1 倍しよう。すると、定理 3.5 (R1) から、
`|A| = (-1)^(n-1)|(0, 1, 2, 3, cdots, n-1), (-1, 0, -1, -2, cdots, -n+2),(-2, -1, 0, -1, cdots, -n+3), (-3,-2 ,-1 ,0 , ddots ,vdots ), (vdots, vdots, vdots, ddots,ddots, -1), (1-n, 2-n, 3-n,cdots,-1,0)|`
定理 3.5 (R2) から、上の式で、第 `k-1` 行を -1 倍し、これに第 `k` 行を加えた結果を第`k`行に上書きしても行列式は同じである。 (ただし k = 2 のときだけ第 1 行を1倍しこれに第2 行を加えた結果を第2行とする。)
`|A| = (-1)^(n-1)|(0, 1, 2, 3, cdots, n-1), (-1, 1, 1, 1, cdots, 1),(-1, -1, 1, 1, cdots, 1), (-1,-1 ,-1,1, ddots ,vdots ), (vdots, vdots, vdots, ddots,ddots, 1), (-1, -1, -1,cdots,-1,1)|`
定理 3.15 (C2) から、上の式で、第 `n-1` 列に第 `k` 列を加えた結果を第`k`行に上書きしても行列式は同じである。
`|A| = (-1)^(n-1)|(n-1, n, n+1, n+2, cdots, n-1), (0, 2, 2, 2, cdots, 1),(0, 0, 2, 2, cdots, 1), (0,0 ,0,2, ddots ,vdots ), (vdots, vdots, vdots, ddots,ddots, 1), (0, 0, 0,cdots,0,1)|`
ここで、行列式の対象となる行列は上三角行列となった。対角成分を数えて、証明すべき式を得る。(証明終)
これをノーヒントで解くのは苦しい。私は、ある別の演習書の解答を見たのでなんとか方針を立てることができた (もっともこの演習書の解答も2行しかなかった)。
次に 4.ベクトル空間と線形写像の章末問題を見てみよう。p.118 の 4.13 である。
`W_1 = (:{:[(-1),(3),(1),(2)]:},{:[(1),(-2),(2),(4)]:},{:[(3),(-7),(3),(6)]:}:)`, `W_2 = (:{:[(-4),(11),(1),(2)]:},{:[(-5),(14),(2),(4)]:}:}:)`
に対して,`W_1 = W_2` であることを示せ.
部分空間の `W_1=W_2` とはどういうことだろうか。本書 p.101 の系 4.9 の証明を見てみると、 `alpha_1 in W_1` なる `alpha_1` に対して `alpha_1 in W_2` が成り立ち、かつ `alpha_2 in W_2` なる `alpha_2` に対して `alpha_2 in W_1` が成り立つことをいうのだろう。 ところで、系 4.9 はどのようなものだろうか。p.101 をみると、こう書いてある。
系 4.9 (次元の等しい部分空間)
`RR^n` の2つの部分空間 `W_1`,`W_2` に対して,次が成り立つ.
(1) `W_1 sub W_2` ならば,`dim W_1 le dim W_2.`
(2) `W_1 sub W_2` かつ `dim W_1 = dim W_2` ならば,`W_1 = W_2.`
ということで、この(2)を目指して進めることにする。
まず、`W_1 sub W_2` を示す。`W_1 = (: bba, bb b, bbc:), W_2 = (:bbd, bbe:)` とする。
`p bb a + q bb b = bb d` を解いて、`p = 3, q = -1` 。また、
`p bb a + q bb b = bb e` を解いて、`p = 4, q = -1` 。よって、`alpha in W_1` なる `alpha` は、
`alpha in W_2` である。ゆえに `W_1 sub W_2` 。
次に、`dim W_1 = dim W_2 = 2` であることを示す。`W_1` に関しては、
`- bb a + 2 bb b = bb c` であるので `{bb a , bb b , bbc}` は一次従属で、
かつ {`bba, bb b`} は一次独立であるから、`dim W_1` = 2。
`{bb d, bb e}` も一次独立であるから `dim W_2 = 2`。よって系 4.9 (2) が適用でき、
`W_1 = W_2` (証明終)
数式記述には MathJax を用いている。
書 名 | 教養の線形代数 六訂版 |
著 者 | 村上 正康、佐藤 恒雄、野澤 宗平、稲葉 尚志 |
発行日 | 2016年2月29日(六訂版) |
発行元 | 培風館 |
定 価 | 1800 円 |
サイズ | |
ISBN | 978-4-563-01252-2 |
NDC | |
その他 | 越谷市立図書館にて借りて読む |
まりんきょ学問所 > 数学の本 > 村上 正康、佐藤 恒雄、野澤 宗平、稲葉 尚志:教養の線形代数 六訂版