井上尚夫 : 教程 線形代数

作成日 : 2023-06-29
最終更新日 :

概要

「はじめに」から引用する。

本書は,線形代数学を学ぶ際の基本的計算手法の習得と,様々な基本概念の理解を得ることを目的としています.

節ごとに演習問題があり、解答が巻末に掲載されている。

階段行列

第 3 章 第 1 節の p.52 では次の通り記されている。

(前略)じつは,`A` から得られる階段行列は途中の変形の仕方によらない. 得られる階段行列の形から `A` についての情報を得ることについては第 4 章で考察する.

では、どんな情報が得られるのだろうか。第4章にはどんなことが書かれているのだろうか。少し読んでみると、 4.2 節(部分空間と基底)の小項(2. 像および核の基底)で、pp.69-70 で次の記載がある。

(前略)`A` を `m times n` 型の行列としその定める線形写像を `f_A` とする. `"Im"f_A` と `"ker"f_A` の基底は基本変形により以下のように与えることができる.

定理 4.4 行列 `A` が基本変形により階数 `r (p_1, p_2, cdots, p_r)` 型の階段行列 `PA` になったとき
(1) \( \{\boldsymbol{a} _{p_{1}},\boldsymbol{a} _{p_{2}}, \cdots, \boldsymbol{a} _{p_{r}} \} \) は `"Im"f_A` の基底をなす.
(2) 連立方程式 \( A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0} \) において `x_(p_1), x_(p_2), cdots, x_(p_r)` 以外の未知数 `x_(q_1), x_(q_2), cdots, x_(q_(n-r))` について

`x_(q_k) = {(1, k = i),(0,k!=i):}`
とおいて得られる解を \( \boldsymbol{u}_i \) とすれば \( \{\boldsymbol{u} _1, \boldsymbol{u} _2, \cdots, \boldsymbol{u} _{n-r} \} \) は `"ker"f_A` の基底をなす.(後略)

そういうことなのか。pp.71-72 にある次の例をみてみよう。

例 4.3 例 3.1 で扱ったように行列

`A = ((-2, 2, 2, 8, -4, -4),(1,1,3,-2,2,4),(0,4,8,4,-3,-2),(1,3,7,0,0,2))`
は基本変形により
`PA = ((1, 0, 1, -3, 0, 1),(0,1,2,1,0,1),(0,0,0,0,1,2),(0,0,0,0,0,0))`
という階段行列に変形された.ゆえに `A` の定める線形写像
`f_A:RR^6 rarr RR^4`
について,`"Im"f_A` と `"ker"f_A` の基底はそれぞれ
`{((-2),(1),(0),(1)), ((2),(1),(4),(3)), ((-4),(2),(-3),(0))}, {((-1),(-2),(1),(0),(0),(0)), ((3),(-1),(0),(1),(0),(0)), ((1),(-1),(0),(0),(-2),(1))}`
で与えられる.像空間の次元は 3 であり,`"rank"A = 3` となる.

では、まず `"Im"f_A` から確認しよう。階段行列 `PA` は `(1,2,5)` 型である。ということは、`"Im"f_A` を作るためには、 行列 `A` の第1列、第2列、第5列を抜き出して順に並べればいい。`A` の第 1 列は確かに `((-2),(1),(0),(1))` である。 第2列、第5列も同様である。よって、`"Im"f_A` の基底の作り方がわかった。次に `"ker"f_A` の基底の作り方を確認する。 連立方程式 \( A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0} \) において `x_(p_1), x_(p_2), cdots, x_(p_r)` 以外の未知数 `x_(q_1), x_(q_2), cdots, x_(q_(n-r))` について というところからは、`x_1, x_2, x_5` 以外の未知数は `x_3, x_4, x_6` ということがわかる。 さてそれからどうするか。`x_(q_k) = {(1, k = i),(0,k!=i):}` という式の意味がとれなかったが、 きっと、`(x_3, x_4, x_6)` の組として `(1, 0, 0), (0, 1, 0), (0, 0, 1)` の3組を考えろ、という意味だと理解した。ではまず、`(x_3, x_4, x_6) = (1, 0, 0)` としよう。

`x = ((x_1),(x_2),(1),(0),(x_5),(0))`
よって次の方程式を解けばいい。
`A((x_1),(x_2),(1),(0),(x_5),(0)) = 0`
地道に計算して次を得る。
`(x_1, x_2, x_5) = (-1, -2, 0)`
このときの `x_i (i = 1, 2, 3, 4, 5, 6)` を `u_1` とおけば、すでに定まっている `(x_3, x_4, x_6)` を合わせて
`u_1 = (x_1, x_2, x_3, x_4, x_5, x_6) = (-1, -2, 1, 0, 0, 0)`
を得る。次に、`(x_3, x_4, x_6) = (0, 1, 0)` としよう。これは次の方程式を解けばいいことを意味している。
`A((x_1),(x_2),(0),(1),(x_5),(0)) = 0`
このときの `x_i` を `u_2` とおけば、
`u_2 = (x_1, x_2, x_3, x_4, x_5, x_6) = (3, -1, 0, 1, 0, 0)`
を得る。そして最後に`(x_3, x_4, x_6) = (0, 0, 1)` として得られる `u_3` を計算すると、
`u_3 = (x_1, x_2, x_3, x_4, x_5, x_6) = (1, -1, 0, 0, -2, 1)`
を得る。この `{u_1, u_2, u_3}` が `"ker"f_A` の基底となる。これは本書と一致する。疲れた。

数式表記

数式の表記は ASCIIMath を使っている。

書誌情報

書名 教程 線形代数
著者 井上尚夫
発行日 2005 年 2 月 25 日 第1版第1刷発行
発行元 日本評論社
定価 1900 円(本体)
サイズ A5 判
ISBN 4-535-78512-0
備考 草加市立図書館で借りて読む

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MARUYAMA Satosi