上野 健爾 : 複素数の世界

作成日 : 2021-12-23
最終更新日 :

概要

「まえがき」から引用する :

(前略)本書の内容は,複素函数論や複素解析とよばれる分野の紹介である.

感想

著者は本書のあちこちで現在の教育を憂いている。pp.13-14 から引用する:

なお複素数は電気工学や量子力学でもなくてはならない数です.(中略)今日の文明を享受し, ワープロまで使っている人が「私は 2 次方程式の解の公式を必要としなかった」というのは, 本人の無知をさらけ出しているだけでなく,数多くの先人の努力に対する冒瀆に他なりません.

補足すれば、2 次方程式の解の公式や 3 次方程式の解の公式を探求する過程で、複素数の実在が明らかになってきた、 という事実をもとにして、著者はこのような主張をしていると思う。

p.94 では、こうもいっている。

実数論と,極限の概念を正確にとらえる `epsilon - delta` 法は, かつては大学 1 年生の微積分の講義で最初に取り扱われる題材で, 分かりにくいと不評でした.最近では,誰も分からないからと,教えない方が主流になりつつあるようです. 古代ギリシア以来 2000 年以上かかってやっと到達した考え方ですので,やさしくはないかもしれませんが, 少し時間をかけて考えてみると,その本質は単純明快であることが分かります. 長い間かかって築き上げた人類の知的財産をいとも簡単に投げ出していいものか, 教育において効率ばかりを追い求め,知的頽廃が広がっている現状に強い危機感を覚えます.

強い口調なので私は恐れ入りましたと降参するほかはない。私は古い人間だから、 大学 1 年生の微積分の講義で実数論も `epsilon-delta` 法も教わった。私は当時分かなかったし、 今でも分からないが、少なくとも分からなかったことだけは覚えている。 当時は実数の連続性なり完備性なりは証明の必要などなく当り前と思っていた。 ただ、年を経た今になると、実数の性質を議論したくなる人の気持ちがわかるようになってきた。 不思議なものである。

誤植

p.101 の「質問に答えて」から引用する :

無限級数
`1 - 1/2 + 1/3 - 1/5 + cdots + (-1)^(n-1)1/n + cdots`
は `log 2` に収束します.一方,この無限級数の各項の絶対値をとってできる無限級数
`1 + 1/2 + 1/3 + 1/5 + cdots + 1/n + cdots`
は発散します.これは
`1/3 + 1/5 gt 1/2`,
`1/6 + 1/7 + cdots + 1/13 gt 7/13 gt 1/2`,
`1/14 + 1/15 + cdots + 1/27 gt 4/27 gt 1/2 `,`cdots`
となることからただちに分かります.(後略)

私ならこう書くだろう。

無限級数
`1 - 1/2 + 1/3 - 1/4 + cdots + (-1)^(n-1)1/n + cdots`
は `log 2` に収束します.一方,この無限級数の各項の絶対値をとってできる無限級数
`1 + 1/2 + 1/3 + 1/4 + cdots + 1/n + cdots`
は発散します.これは
`1/3 + 1/4 gt 1/4 + 1/4 = 1/2`,
`1/5 + 1/6 + 1/7 + 1/8 gt 1/8 + 1/8 + 1/8 + 1/8 = 1/2`,
`1/9 + 1/10 + cdots + 1/16 gt 8/16 = 1/2 `,`cdots`
となることからただちに分かります.(後略)

なぜ、p.101 にある数字が出てきたのかが気になる。

数式記述

このページの数式は MathJax で記述している。

書誌情報

書名複素数の世界
著者上野 健爾
発行日1999 年 12 月 1 日 第1版第1刷発行
発行元日本評論社
定価2000 円(本体)
サイズA5版 196 ページ
ISBN978-4-535-60842-3
その他草加市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi