複素解析学とは、複素数を変数とする関数の微分積分学である。なぜ、 実数変数関数の微分積分学だけではいけないのか、両者はどれほど違うのか、 これらに答えるのが本書の目的である。
200 ページに満たない本であるが、著者の専門が関数論であることからか、 他の入門書ではない記述が見られる。たとえば、p.22 の次のような記述である。なお、 式番号は省略した:
最後に,コーシー・リーマンの方程式の一つの拡張についてふれる. それは次の方程式である:
`f_(barz) = mu(z)f_z`,`mu(z)` は,`abs(mu(z)) le k lt 1` を満足する `(x, y)` の関数である. これをベルトラミ方程式という.( Eugenio Beltrami,1835-1900). それは `mu(z)=0` ならばコーシー・リーマンの方程式,すなわち正則関数を特徴付ける方程式である.
この後は等角写像と擬等角写像の説明が出てくる。
p.139 に次のような記述がある:
3.2 定義の拡張
擬等角写像が単に等角写像の拡張を追及するだけなら余り発展しなかったと思われるが, 1940 年タイヒミュラー(Oswald Teichmüller, 1913-1943)が本質的に新しく深いものを発見した. しかし彼の 200 ページに及ぶ大膽な理論を厳密なものにするのには, アールフォルスやベアス(Lipman Bers, 1914~)などの多くの研究が必要であった.(後略)
まず「大膽」が読めなかった。新字体では「大胆」であり、これなら読める。 それから、タイヒミュラーは若くして亡くなったことに驚いた。調べてみたら、戦死だった。 なお、ベアスは https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Biographies/Bers/ によれば、 1993 年に亡くなっている。
p.21 の上から7行目から8行目にかけて、
したがって正則関数の和,積や合成はまた正則であり,
商も分母が 0 でない点を除いて正則である.
とあるが、正しくは《…商も分母が 0 となる点を除いて正則である.》だろう。
なお、私が読んだ版よりあとに、新装版が出ているが、そちらは直っているかどうかは知らない。
このページの数式記述は ASCIIMathML で、 表現はMathjaxを用いている。
書 名 | 現代の古典 複素解析 |
著 者 | 楠 幸男 |
発行日 | 1992 年 10 月 16 日 初版第1刷 |
発行元 | 現代数学社 |
定 価 | 2300 円(本体) |
サイズ | A5 判 172ページ |
ISBN | 4-7687-0207-4 |
備 考 | 草加市図書館で借りて読む |
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