金子 晃 : 数理系のための基礎と応用微分積分Ⅰ

作成日 : 2021-08-09
最終更新日 :

概要

副題は「―理論を中心に―」

感想

本書の題名にある「数理系のための」というのは、端的に言えば数学科のための、ということだろう。 内容を見てみると、マニアックという感じがする。 特に第5章「実数の連続性再論」では、`epsilon-delta` 論法、 実数のもつ各種の公理の列挙とその注意など、険しい。 p. 148 では、実数の性質を定める下の諸命題は同値であることを述べている。

a) 有界単調列の収束(上に有界な単調増加数列は収束する).
b) 区間縮小法(長さが 0 に近づく区間の減少列はただ一点を共有する).
c) 上限の存在(上に有界な実数の集合には上限が存在する).
d) 完備性(Cauchy 列は収束する).
e) Borzano-Weierstrass の定理(有界列は収束部分列を含む).
f) Dedekind の切断(実数の切断は境目の数を確定する).

ところが、この内のいくつかは真に同値といえないものがあり、それが b) と d) であるというのだ。 正確にいうと、b) や d) はアルキメデスの性質(アルキメデスの公理)をつけ加えないと同値とならない、 というのだ。著者は、実数の公理群を満たし、かつ完備性をもつ集合となるが、 アルキメデスの公理は満たされない集合を構成している。うーむ。

本書によれば、b) はカッコ内の「(区間の)長さが 0 に近づく」 というところを「区間の長さが順に手前のものの半分以下になる」と表現しておけば、 アルキメデスの性質を含むようになっているとのことだ。また、 著者のホームページ http://www.kanenko.com/~kanenko/ の本書サポートページによれば、 d) についても、コーシー列の定義に 出てくる `epsilon` を有理数に、 あるいはさらに `10^-N` に制限すればアルキメデスの公理を含むようになるということである。

巻末の参考文献の紹介も面白い。高木貞治の『解析概論』を次のように評している。

戦前に書かれた書物だが,20 年くらい前まで標準的な教科書であった. “微積は複素函数論に至って完結する”,というテーマで貫かれた書き方は今でも感動的であり, 進んで独習する意欲のある学生には面白いだろう.(後略)

また、一松信の『解析学序説上下』,裳華房,1962 についてはこう述べている。

ユニークな雑談が非常に面白い.20 年くらい前まではこの程度でも講義用に使われていた. 1982 年に出た新版の方は,薄手の普通の教科書になってしまったのが残念である.

旧版がおもしろいが新版は残念というのは、この一松の上下巻に対する他の評にもあった。 旧版は上巻 342 ページ、下巻 316 ページである。 一方新版は上巻 275 ページ、下巻 286 ページである。

名言集

p.217:これくらいは手計算でできないと,他人の作ったソフトにだまされる人間になってしまう.

補遺・誤植

アレクセイカーネンコ応用数理研究室(www.kanenko.com) からたどることができる。

数式記述

このページの数式は ASCIIMathML で記述している。

書誌情報

書名数理系のための基礎と応用微分積分Ⅰ
著者金子 晃
発行日2000 年 9 月 25 日 初版発行
発行元サイエンス社
定価1,800 円(本体)
サイズA5 版 245 ページ
ISBN4-7819-0965-5
NDC
備考越谷市立図書館で借りて読む

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MARUYAMA Satosi