清宮 俊雄 : 初等幾何のたのしみ

作成日 : 2022-02-22
最終更新日 :

概要

「まえがき」から引用する :

読者のみなさんのたのしみに,そして論理性ひいては創造性の育成に役立つことができたならば, 著者としては望外の喜びである.

補助線

私は初等幾何が苦手であり、嫌いである。この歳になって苦手であっても、嫌いであっても、 試験があるわけではないしどうてもいいことであるが、苦手意識がずっとある。 ただ、苦手であっても数学の試験で困ることはない程度の苦手だった。 私は中学受験をしなかったし、高校受験もふつうの公立高校だったから、 素直な補助線をひけば解ける問題ですんだ。 これをもっといえば、巧妙な補助線を引かないと解けないような初等幾何は困る、ということだ。 ラングレーの問題など最たるもので、 それは初等幾何とはいえないだろう。私は幾何が苦手だという意識があったので、 大学入試の数学の問題にはとにかく幾何の問題は出ないようにと祈るだけだった。 入学試験の問題は、私が困るような幾何の問題は出なかったので、祈りが通じたと思った。

幾何学の本に限らず数学の本一般にいえることだが、「数学は思考力や、ひいては創造力の涵養に資する」 などのようなことが書かれていると、私は眉に唾を付けている。おいおい、本当かよと言いたくなるのだ。 数学でもなんでも、何かのために役立つというより、 面白いというところから学問が出発するのではないか。思考力だとか、創造力だとかは、 もともと備わっている人にはあって、もとからない人にはないし、 特定の学問で目に見えるように増強させることはできないのではないか、 と私は思っている。もっとも、そう思うことに根拠はない。

道具

p.17 で、著者はこう主張する:

(前略)このように仕事には道具が必要である. 幾何の問題を解くにも,定理という道具が必要である. 道具が足りなければ,解けるものも解けない. 方べきの定理,メネラウスの定理,チェバの定理などは必要な定理と思われる.

私は初等幾何が苦手だったので、高校数学に幾何の問題が出てくると避けるようにしていた。 幾何の問題を解くコツとして受験参考書にあったのが「メネる」「チェバる」という動詞で、それぞれ 「メネラウスの定理を使う」、「チェバの定理を使う」という意味だ。 私は高校時代メネラウスの定理もチェバの定理も知らずに通した。その後も初等幾何を避け続け、 この歳になるまでどちらの定理も知らずに来たが、ついに観念した。やはりどちらも覚えなければならず、 使えなければならないのか。

問題の作り方

pp.21-24 は「Ⅲ.どう考えて問題を作るか」という話題である。解くのも苦手な初等幾何だから、 問題を作れる人がいるというだけで尊敬に値する。 ここでは、既知の問題をから新しい問題を考える方法について説明されている。 既知の問題は、p.21 で紹介されている。

△ ABC の 2 辺 AB, AC 上に正三角形 APB, AQC を原三角形の外側に作り, また辺 BC 上に正三角形 BRC を原三角形と同側に作れば,APRQ は平行四辺形である.

本書にこの問題の解答は示されていない。そこで、初等幾何を用いない解を考えてみる。

座標を使って解いてみる。A, B, C の座標をそれぞれ `A(2b, 2c), B(-2a, 0), C(2a, 0) (a gt 0)` とする。 それぞれの座標は次のように表わせる。
`P(-a+b-sqrt(3)c, sqrt(3)a+sqrt(3)b+c)`
`Q(a+b+sqrt(3)c, sqrt(3)a-sqrt(3)b+c)`
`R(0, 2sqrt(3)a)`
それでは4辺の長さを計算する:
`AP^2 = (-a+b-sqrt(3)c - 2b)^2 + (sqrt(3)a+sqrt(3)b+c-2c) ^2 = (-a-b-sqrt(3)c)^2+(sqrt(3)a+sqrt(3)b-c)^2 = 4(a+b)^2 + 4c^2`
`RQ^2 = (a+b+sqrt(3)c)^2+(sqrt(3)a−sqrt(3)b+c-2sqrt(3)a)^2 = (a+b+sqrt(3)c)^2+(-sqrt(3)a−sqrt(3)b+c)^2 = 4(a+b)^2+4c^2`
よって、`AP^2=RQ^2` だから `AP = RQ` である。
`PR^2 = (−a+b−sqrt(3)c)^2 + (sqrt(3)a+sqrt(3)b+c-2sqrt(3)b)^2 = (−a+b−sqrt(3)c)^2 + (sqrt(3)a-sqrt(3)b+c)^2 = 4(a-b)^2 + 4sqrt(3)(a-b)c + 4c^2`
`AQ^2 = (a+b+sqrt(3)c-2b)^2+(sqrt(3)a−sqrt(3)b+c-2c)^2 = (a-b+sqrt(3)c)^2+(sqrt(3)a−sqrt(3)b-c)^2 = 4(a-b)^2 + 4sqrt(3)(a-b)c + 4c^2`
よって、`PR^2=AQ^2` だから `PR = AQ` である。
よって、向かい合う二組の対辺が等しいので、四角形 APRQ は平行四辺形である。

計算はややこしいが、証明で補助線を見つける苦労に比べれば計算だけで済むのでまだいい、 と初等幾何が苦手な私は思う。

ピタゴラスの定理

QPK EYS DAH BXC GZF 図 1

ピタゴラスの定理にはさまざまな証明法があることが知られている。本書でもいくつか解説されていて、 その最初の証明 1 は、図形の面積を保ったまま変形する方法である。図 1 を見てほしい。 △ ABCは角 A が直角であり斜辺が BC である直角三角形とする。 三辺上にそれぞれ ABDE 、BCFG 、ACHK を三角形の外側に作る。 このとき BAK は一直線上にあり、CAE も一直線上にある。

私が困惑したのは、p.29 にある次の文だった。

DE, HK の交点を P として, B を通り AP に平行線をひき DE との交点 を Q とする.平行四辺形 ABQP の面積は正方形 ABDE の面積に等しい.

わたしはこの事実がわからず、ずっと考え込んでいた。そして思いついて、本を回転させて AB と DE を水平にさせてみた。すると、一瞬で平行四辺形 ABQP の面積は正方形 ABDE の面積に等しい.ことが理解できた。このような行為は「ひふみんアイ」と呼ぶ人がいるかもしれない。 また「サッチャー錯視」という現象を思い出す人がいるかもしれない。ともかく、 画像を回転させると理解できた。ただ、昔の私だったら本を回転させなくとも理解できたはずだ。

小言

この本にはさくいんがない。ちょっと困る。

数式記述

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書誌情報

書名初等幾何のたのしみ
著者清宮 俊雄
発行日2001 年 8 月 25 日 第1版第1刷発行
発行元日本評論社
定価1800 円(本体)
サイズB6版 184 ページ
ISBN4-535-78335-7
その他越谷市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi