エミール・アルティン:ガロア理論入門

作成日:2012-12-01
最終更新日:

概要

導入として最低限の線形代数を解説したのち、体の理論を展開する。 訳者の寺田文行が演習問題を独自に入れている。

感想

数学といっても最初はことばであり、その定義である。そのことばがわからなければ、 ずっとさきもわからないままである。 たとえば、拡大体、ということばがある。体ということばはわかったとしよう(英語では field、 ドイツ語では Körper ― 英語の body にあたる ―だ。なぜ外国語を出したかというと、 なんとなくなじみがあることばだからだ)。さて、拡大体とはなにか。

`E` を体とする.`E` の部分集合 `K` が `E` で定義された加法,乗法で体をなすとき, `K` を `E` の部分体といい,`E` を `K` の拡大体という。 `E` が `K` の拡大体であるということを,`K sub E` で表す。

では、実際にどんなときが拡大体なのだろう。数の世界でいえば、 0 を除く実数は体である。また、0 を除く有理数も体である。そして、0 を除く複素数も体である。 有理数は実数に含まれるから、実数体は有理数体の拡大である、といえる。 同様のことは複素数と実数の間ににもなりたつ。 ほかに何かいいことがあるのか。そう思って次の記述を見てみる。

`alpha`,`beta`,`gamma`,… を`E`の要素とするとき,`K`の要素を係数に持つ `alpha`,`beta`,`gamma`,… の多項式の商としてあらわされる`E`の要素の集合を `K(alpha, beta, gamma, …)` と書く.

ああ、ここでもうわからない。1, 2, 3 などは体の要素であるから、 `x^2+2x+3` は多項式と言えるのだろう。では、この商とは何だろうか。商というのは、 割り算の答であるから、割る数(モノ)と割られる(モノ)がある。 ここでの体は多項式であるから、割られる多項式が`x^2+2x+3` であるのはわかる。 では、割る多項式はなんだろうか。わからなければ、商と言われても見当がつかない。

わからなくなったので、練習問題を見ると、問題 1-2 があった。

`Q` を有理数体とするとき,
`Q(sqrt(2))={a+bsqrt(2)|a, b in Q}, (Q (sqrt(2)))//Q = 2`
を証明せよ。

こうしてみると、一般論の `E` はここでは実数体を指しているのだとわかるし、有理数体に含まれない `sqrt(2)`を登場させると、わかるような気がする。

とはいっても、わかるような気がするだけで、本当はわからない。 解答をみたら、こんなことが書いてあった。

`(a+bsqrt(2))/(c+dsqrt(2)) = (ac - 2bd) / (c^2 - 2d^2) + ((bc - ad)/(c^2 - 2d^2))sqrt(2) = e + fsqrt(2) (e, f in Q)`

なるほど。多項式の商というのは、(任意の多項式)/(任意の多項式)ということなのか。 納得した。 なお、加減乗の演算に対しては、`Q`の要素を係数とする`sqrt(2)`の多項式は`a+bsqrt(2)(a,b in Q)` の形に簡約されるので問題ない。

以前、培風館から出ていた「数学ブックガイド 100 」という本で、 このアルティンの本が推薦されていた。推薦文には「おせっかいな訳者が問題をつけているが…」 というような非難がましいことが書かれていたが、私のような初心者には練習問題はありがたい。

数式記述

数式は MathJax で記述している。

書誌情報

書 名ガロア理論入門
著 者エミール・アルティン
発行日2010 年 4 月 10 日(初版)
発行元ちくま学芸文庫
定 価1200 円(本体)
サイズ文庫判 220ページ
ISBN978-4-480-09283-0

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MARUYAMA Satosi