ウィリアム・ダンハム:微積分名作ギャラリー

作成日:2013-03-05
最終更新日:

概要

著者は微積分の名作を展示する美術館としてこの本を書いた。

感想

ベールの範疇定理

この中では 13 人の数学者が取り上げられている。リューヴィユ、ヴォルテラ、ベールは影が他の人たちより影が薄いが、 それでも大きな光を放っている。ここではベールを取り上げよう。

ちょうど私は関数解析を学ぼうとしているときに、このベール( René-Louis Baire ) を知った。 ベールのことに書かれている本は少ないので、貴重だと思う。

ベールのカテゴリー定理にいくまでは、結構長い。まず、全疎集合の理解が大変である。

定義:実数の部分集合 `P` が全疎であるとは、任意の開区間 `(alpha, beta)` が、 `(a, b) cap P = O/` であるような部分開区間 `(a,b) sube (alpha, beta)` を含むときをいう。

一見しただけではわからない。`(alpha, beta)` と `(a, b)`との関係はどうなっているんだ、 となる。言い方をかえれば任意の開区間 `(alpha, beta)` に対して、 ある部分開区間 `(a, b) sube (alpha, beta)` がとれて、その `(a, b)` が `(a,b) cap P = O/` を満たすように取れる、ということなのだろう。

ものわかりの悪い私は、このあとの例を見ないと理解できないと思う。

1点からなる集合

1 点からなる集合 `{c}` は全疎である。仮に、`(alpha, beta)` が `{c}` を含まなければ、 `(a,b)` として`(alpha, beta)` そのものを取ればよい。逆に、`(alpha, beta)` が `{c}` を含めば、 `(a,b)` として`(c, beta)` とすればよい。そうすれば、`(c, beta) sube (alpha, beta)` かつ、 `(c, beta) cap {c} = O/` である。

単位分数からなる集合

`NN` を自然数の集合とする。次の集合 `S` は全疎である。

`S={1/k|k in NN} = {1, 1/2, 1/3, 1/4, cdots}`

さて、こんどは `(a,b)` をどうやってとればいいだろうか。うまく隙間を狙うしかない。 まず、任意の開区間 `(alpha, beta)` の `beta` が 0 以下であれば、 `(a,b)` として `(alpha, beta)` そのものを取ればよい。`beta` が 0 より大きい場合は、 この本のように、`1/N in (alpha, beta)` となるような自然数 `N` が存在する。 このとき開区間 `(1/(N+1), 1/N)` をとると、 `(1/(N+1),1/N) in (alpha, beta)` かつ `(1/(N+1), 1/N) cap S = O/` である。
ここまではわかった。

2つの単位分数からなる集合

`NN` を自然数の集合とする。次の集合 `T` は全疎である。

`T={1/r + 1/k|r, k in NN}`

この集合が全疎であることの証明は同書では与えられていない。結構難しいのだと思う。

そして、全疎集合に関するいくつかの補題が用意されたあとで、次のベールの定義が出てくる:

可算無限個の全疎集合 `P_1, P_2, P_3, P_4, cdots` が存在して, (`F` の)各点が `P_1, P_2, P_3, P_4, cdots` の少なくとも一つの集合に属しているとき, 私は,この性質をもつ集合を第1類であるということにする。

ここで私は一つの壁にぶち当たる。たいていの数学書を見ると、といっても関数解析の数学書の一部しか知らないのだが、 ベールの定理に第1類と第2類を持ち出して説明している数学書は半分程度である。 では第1類を定義している数学書はどうかというと、全疎集合という用語ではなく、疎集合という用語を使っている。 また、その疎集合も、実数を全体集合とし、区間を部分集合とする定義ではなく、 いきなり位相空間 `X` が全体集合となる。そしてその定義は、位相空間 `X` の部分集合 `A` は、 その閉包 `barA` が内点をもたないとき,`A` を `X` の疎集合という、という言い方をしている (希薄な集合、という言い方もある)。 それはまあ、関数解析という無限次元を相手にする以上、仕方のないことだとは思うが、 まあ、大変なんですね。

この本の記載に戻ると、第一類の集合は、明らかに個々の集合 `P_k` とは異なる性質をもつことができる、 と書かれている。その例として、有理数の集合が実数上で稠密であることを挙げている。 私が思うことは、加算無限の力は大きいということだ。現代の数学書には、その種の驚きまで言及されているのは少ない。 そして改めて思うのは、ベールがカテゴリー定理で証明したこと、 すなわちすなわち第1種集合と第2種集合の区分において、 第1種の集合は、ある意味で「小さく」なければならないことをベールが証明したことというのは、 数学のもつ非情な部分にスポットをあてた、ということだ。 ここで「小さく」なければならない、といったのは、第1類集合は、どんな開区間であっても、 第1類集合で埋めつくすことは不可能、という意味での小ささである。

数式の記述と表現

数式の記述にはASCIIMathML を、 表現にはMathJaxを用いている。

書 名微積分名作ギャラリー
著 者ウィリアム・ダンハム
発行日 年 月 日
発行元日本評論社
定 価
サイズ
ISBN
NDC
その他草加市立図書館で借りる

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MARUYAMA Satosi