鈴木貫太郎:大学入試数学不朽の名問 100

作成日 : 2023-06-20
最終更新日:

概要

本書裏から引用する。

思考力と本質的な理解を問う、ユニークな出題を、古今全国の入試数学から 100 問紹介します。楽しく悩める大人のための「数学 100 番勝負」。

感想

本書は「問題集」と「解答編」に分けられて、それぞれが第1章から第14章に分かれている。扱われている題材は本書発行時点での高校数学の範囲と思われる。 しかし、ベクトルは扱われていないのが不思議である。

グラフの精度

pp.196-198 に問題 61 の解答がある。

問題 61
方程式 `12x^3 - 21x^2 + 2x + 4 = 0 cdots ① ` に対して、次の各問に答えよ。
(1) 方程式①は正の実数解を 2 個、負の実数解を 1 個もつことを証明せよ。
(2) 方程式①の正の実数解を `alpha, beta ( alpha lt beta) ` とするとき、`abs(alpha - 1)` と `abs(beta - 1)` の大小を比較せよ。

この解答では、`f(x) = 12x^3 - 21x^2 + 2x + 4` のグラフの外形が p.197 に示されている。 グラフを描くこと自体は重要だが、p.197 のグラフがあまり正確ではないように思える。具体的には、`f(-1)` の値が `f(1)` より大きいように見えるが、 実際は `f(-1) = -31, f(1) = -3 ` だから、`f(-1) lt f(1) ` である。それから、`f(2)` の値が `f(0)` の値より多少大きな程度に収まっているが、 実際は、`f(0) = 4, f(2) = 20` だから、`f(2)` は `f(0)` の 5 倍も大きいのに、それがグラフからではわからない。もちろん著者はこんなことは百も承知でグラフを書いているのだと思う。 というのは、これらの `f(-1), f(0), f(1), f(2)` の値については正負の判定が重要であり、解答にあたってはその絶対値はさほど考慮する必要がないからである。 それならば、誤解を招きそうなグラフは書かなければいいのにと思う。グラフを使わない解答なら(1)はこうなるだろう。

`f(x)` は 3 次関数だから、 `f(x) = 0` の解はたかだか 3 個である。`f(-1) = -31, f(0) = 4, f(1) = -3, f(2) = 20` であるから、中間値の定理より、`-1 lt x lt 0` なる `x` で解を少なくともひとつもつ。 同様に `0 lt x lt 1`で解を少なくともひとつ、`1 lt x lt 2` で解を少なくともひとつもつ。`f(x) = 0` の解はたかだか3 個であるから、 それぞれの区間で解を 2 つ以上もつことはない。よって、方程式①は正の実数解を 2 個、負の実数解を 1 個もつことが示された。

(2) は著者の解答に従うが、自分が理解しやすいように言い回しを変えて次のようにした。

(1) で示した通り、`0 lt alpha lt 1 ` かつ `1 lt beta lt 2 ` であるから `abs(alpha - 1) = 1 - alpha , abs(beta - 1) = beta - 1` 。 よって、`abs(alpha - 1) - abs(beta - 1) = ( 1 - alpha) - (beta - 1) = 2 - (alpha + beta)` の値が正であれば `abs(alpha - 1) gt abs(beta - 1)`、負であれば `abs(alpha - 1) lt abs(beta - 1)` である。`f(x) = 0` の負の実数解を `gamma` とすると、解と係数の関係から `alpha + beta + gamma = 21/12 = 7/4` 。 よって、`2 - (alpha + beta) = 2 - (7/4 - gamma) = gamma + 1/4`。そこで、`gamma` と `-1/4` の大小を比較する。 `f'(x) = 36x^2 -42x+1` であり、`x lt 0` の範囲では`f(x) gt 0 ` だから `f(x)` は単調増加である。 `f(-1/4) = (-3 - 21)(1/16) - 1/2 + 4 = -3/2 - 1/2 + 4 = 2 gt 0` だから、`gamma lt -1/4` 。 よって、`2 - (alpha + beta)` の値が負であることがわかったので、`abs(alpha - 1) lt abs(beta - 1)`。

誤植

Amazon のレビュー欄で指摘されているもののほか、下記がある。

p.230 下から 3 行目これが漸化式の特方程式のからくりです。とあるが、《これが漸化式の特方程式のからくりです。》が正しい。

書誌情報

書名 大学入試数学不朽の名問 100
著者 鈴木貫太郎
発行日 2021 年 4 月 20 日(第1刷)
発行元 講談社
定価 1100 円(本体)
NDC 420
サイズ 18cm 286ページ
ISBN 978-4-06-523218-7
その他 講談社ブルーバックス、草加市立図書館で借りて読む

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MARUYAMA Satosi