「はじめに」より引用する:
この解析入門は高校数学を終了して本講座の解析学を学ぼうとする人のための入門書であって, 高校数学と現代の解析学の橋渡しをすることを目標として書かれたものである.
解析学の基礎は実数論であるが,高校数学の実数論は厳密性に欠ける点があって, 現代の解析学の基礎としては不十分である.この第1分冊ではまず厳密な実数論を詳しく丁寧に述べ, それに基づいて数列の極限,関数の連続性,微分係数,等を厳密に扱った.
本書は「岩波講座 基礎数学」全 24 巻( 79 分冊) のうちの第 1 回配本のうちの 1 冊である。
著者は高校数学をあちこち引き合いに出している。
高校数学を学んだ人は実数とはどんなものか一応知っているわけである. しかし高校数学の実数論は現代数学の立場から見れば厳密性に欠ける点があって, 本講座の基礎としては不十分である.(§ 1.1 序説 p.3)
実数の加・減・乗・除の演算は高校数学で自由に駆使してきたのであるが, そこでは実数が明確に定義されていなかったのであるから, その演算も明確な根拠に欠けていたわけである.(§ 1.3 実数の加法,減法 pp.17-18)
ほかでも「高校数学」はよく出てくる。著者自身が高校の教科書を著したこともあるのだろう。
p.76 では関数の極限について定義している。以下の引用では 都合により本書では左側に配置されている式番号は右側に配置する:
定義 2.1 区間 `I` で高々点 `a in I` を除いて定義された関数 `f(x)` が与えられたとし, `alpha` を実数とする. 任意の正の実数 `epsilon` に対応して正の実数 `delta(epsilon)` が定まって
となるならば,`x->a` のとき `f(x)` は `alpha` に収束する, `alpha` は `x->a` のときの `f(x)` の極限値であるといい,`0 lt abs(x-a) lt delta(epsilon)` なるとき `abs(f(x) - alpha) lt epsilon`(2.1)`lim_(x->a)f(x) = alpha`,あるいは`x -> a` のとき `f(x) -> alpha`と書く.
これはいわゆる `epsilon-delta` 論法による関数の極限である。なぜここで引用したのかというと、 `delta` の取り方は `epsilon` に依存するということで `delta(epsilon)` と書かれているのが珍しいからである。 普通の教科書では、`delta` は `epsilon` に依存することは述べられているが、 `delta` が `epsilon` によって一意に定まるものではないので、関数の形として書くことはふつうしない。 それを敢えて関数として書くところに、著者の意気込みを感じる。
このページの数式は MathJax で記述している。
書 名 | 解析入門Ⅰ |
著 者 | 小平 邦彦 |
発行日 | 1976 年 5 月 27 日 |
発行元 | 岩波書店 |
定 価 | |
サイズ | A5版 128 ページ |
ISBN | |
その他 | 岩波講座 基礎数学 草加市立図書館にて借りて読む |