山﨑圭次郎、有馬哲、片山孝次:代数・幾何入門

作成日:2021-07-22
最終更新日:

概要

副題は「2次曲線 ベクトル 行列」

感想

題名は「代数・幾何入門」である。「代数幾何」ではない。 「代数幾何」といえば恐ろしく難しい数学の一分野である。「代数・幾何」は、 ある時期に作られた高校数学の一分野である。実際には副題の通り、2次曲線やベクトルや行列を扱う学問であり、 この高校数学と代数幾何は、幾何や代数という分野のいずれにも該当するという観点を除けば、 無関係といってもいいだろう。

ところで本書には、はしがきも参考文献もない。おそらく、 実教出版が作成した、高校の「代数・幾何」の教科書が土台にあるのではないかと睨んでいるが、 全くの憶測である。

写像の考え

p.159 では、写像の考えが説明されていて、平面上の点全体の集合を `E` で表すとき、 `E` から `E` への写像の例を3つ挙げて、次のように結んでいる。

一般に,1次変換は `xy` 平面 `E` から `E` への写像である。

そうなのだろうか。1次変換の表す行列の行列が 0 のときは、値域は `E` 全体ではなく、 原点だったり直線だったりするから `E` への写像といっていいのだろうか。そのような疑問をあざ笑うかのように、 すぐ後に次の例があった。なお、本書では `RR` ではなく R のような活字が使われている。

実数全体を `RR` とする。`x in RR` に対し,`f(x) = x^2` とおけば,写像
`f : RR -> RR`
が定まる。これは関数 `y = x^2` にほかならない。

ということは、値域が制限されても、写像としては変わらず `RR -> RR` としてよいということだ。

そういえば、定義域ということば本書に出てきたが、値域ということばは出てきていない。 値域ということばは最近使われず、終域ということばになっているということも聞いている。 うーん、なぞだ。本書では、値域ということばも終域ということばも使われず、 定義域の要素 `a` の像全体といっている。

章末問題

p.166 の章末問題 B を見る。

1. `A = ((1, 3), (2, 4)), B = ((3, -1),(4, 2))` のとき,`A^2X = B` となる行列を求めよ。

問題の背景がわからないので、計算してみるしかない。`A^2 = ((7, 15),(10,22))` だから、 `(A^2)^-1 = 1/4 ((22, -15),(-10, 7))`、 `X = (A^2)^-1 B = ((3/2, -13),(-1/2, 6))`
検算には、`A^-1 = -1/2((4, -3),(-2, 1))` を使って、`A^-1(A^-1 B)` を計算するのがいいだろう。むしろこれが本線なのか。

3. `2 times 2` 型行列 `A` に対し, `A ((1), (0)) = 2((1),(0)), A ((3),(1)) = 3((3),(1))` である。
 1) `A^10 ((1), (0)) , A^10((3), (1))` を求めよ。  2) `A^10 ` を求めよ。

見てわかるように、固有値と固有ベクトルの問題である。

1) `A^2 ((1),(0)) = A * A((1),(0)) = A * 2 ((1),(0)) = 2^2 ((1),(0))` であるから、 同様に繰り返して `A^10 ((1),(0)) = 2^10((1),(0)) = ((2^10),(0))`。 `A^2 ((3),(1)) = A * A((3),(1)) = A * 3 ((3),(1)) = 3^2 ((3),(1))` であるから、 同様に繰り返して `A^10 ((3),(1)) = 3^10((3),(1)) = ((3^11),(3^10))`。
最初、2^10 = 1024 とベキ乗を計算すべきなのかと思ったが、そうすると 3^10 や 3^11 が手に負えない。 巻末の解答を見るとベキ乗を計算していなかったので、これでよしとする。

2) `A^10 ((1,3),(0,1)) = ((2^10, 3^11),(0, 3^10))` であるから、 右から `((1,3),(0,1))^-1 = ((1,-3),(0,1))` を乗じて、 `A^10 = ((2^10, 3^11),(0, 3^10))((1,-3),(0,1)) = ((2^10,-3*2^10+3^11),(0,3^10))`

4. 行列 `I = ((1,0),(0,1)), J = ((0,-1),(1,0))` と実数 `a, b, c, d` に対し, `M = aI + bJ, N = cI + dJ` とおく。ただし `a = b = 0` ではない。
 1) `MN = NM ` を示し,この行列を `xI + yJ` の形に表せ。
 2) `MN = I` となるとき,`c, d` を `a, b` で表せ。

この `I, J` の行列は見覚えがある。 理系のための線型代数の基礎という本の pp.3-4 で、 虚数単位 `i` の行列表示が `J` である、と書かれていたのだった。 それを頭におくと、`J^2 = -I` だろうという見当がつく。

1) `I^2 = I , IJ = JI = J` および `J^2 = ((0, -1),(1, 0)) ((0, -1),(1, 0)) = ((-1, 0),(0, -1)) = -I ` であるから、これを計算すればよい。 `MN = (aI + bJ) (cI + dJ) = (ac - bd)I + (bc + ad)J` 、 `NM = (cI + dJ) (aI + bJ) = (ca - db)I + (ca + bd)J` となり、同じである。 これらを `xI + yJ` の形で表せば、`x = ac - bd, y = ad + bc` である。

2) `MN = I` だから、`ac - bd = 1` ① かつ `ad + bc = 0` ②。 ②から `ad = -bc` 。`a != 0` のとき `d = -bc//a` 。これを①に代入して、 `ac + b^2c // a = 1`、`(a^2 + b^2)c = a` 、`a^2 + b^2 != 0` のとき、`c = a/(a^2 + b^2)` となる。 `d = -b/a a/(a^2+b^2) = -b/(a^2+b^2)`。
`a=0` のときは、②より`b=0` または `c=0` 。ところが、①より`a = b = 0` は矛盾。 よって、`c = 0`。このとき、`d = 1/b (b != 0)`。 この場合の `c, d` はさきに導いた `c, d` を `a, b` で表した式に含まれている。
`a^2 + b^2 = 0` のときは ①と矛盾するので現れない。よって、 `(c, d) = (a/(a^2+b^2), -b/(a^2 + b^2)) (a^2 + b^2 != 0)` が得られる。

複素数平面上で解釈すると、`MN=I` ということは、`M` の複素数表現と `N` の複素数表現の積が、 `1 + 0i` と表されるということである。 `M, N` を極表現すると、`N` の大きさは `M` の大きさの逆数であり、 かつ `N` の偏角にマイナスを乗じたものになる、ということである。これを式にすれば上記の結果が導かれる。
考えてみれば、`c, d` を `a, b` で表すときに、逆行列を使えばよかった。 `MN = I` だから、`M` には逆行列が存在し、それが `N` である。
`N = M^-1 = ((a,-b),(b,a))^-1 = 1/(a^2+b^2) ((a,b),(-b,a)) (a^2 + b^2 != 0)`
これが `N = ((c,-d),(d,c))` と等しいことから、同じ答が得られる。

数式の記述

数式はASCIIMathML を用いている。

書 名代数・幾何入門
著 者山﨑圭次郎、有馬哲、片山孝次
発行日 年 月 日
発行元実教出版
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MARUYAMA Satosi