まえがきより引用する。
この本を,エリート高校生・予備校生,憧憬度の高い大学に合格した高校生,既に大学で学んでいる極く普通の大学生, この本の読者の高校生・予備校生より高い視野で教育したい,高校・予備校教師にお勧めします.
副題は「高校生・予備校生・大学新入生の知的ライセンス」。
今、エリートということばは死語になっているような気がする。そう思う理由をはっきりと示すことはできないのだが、 少なくとも最近はエリートということばを聞かなくなった。
私にとってのエリートということばは、まずタイプライターの活字である。 学生になってタイプライターを買おうとしたら、 店員から「エリートとパイカのどちらを選びますか」と聞かれてどちらも知らずに慌てたことを思い出す。 エリートが小さめ、パイカが(エリートよりは)大きめということを知って、パイカを選んだ。そこで俺は、 自分は(やはり)エリートではないのだと思った。
p.339 では和分の問題が取り上げられている。
著者は、区分求積法からダイレクトに定積分に移行して計算をすませる解と、
リーマン和の上下の評価を挟み撃ちにして評価する解を挙げている。そして両者を次のように評している。
一般入試では満点以上は配点されぬので,最初に与えた(中略)解答の方が,早く済ませて次の問題に移れるので,良く,
推薦入試や面接を伴う後記日程試験では,満点以上の配慮を忝なくする(中略)後者の回答が,より厳密で良い.
私は「忝なく」が読めなかった。調べたら「かたじけなく」と読むことがわかった。私がこのことばをつかうのは、 少し時代劇がかった雰囲気で誰かからいただいた親切な態度に対して「かたじけない」ということばで感謝を示すときぐらいである。 ここでいう「かたじけなくする」とはどういう意味だろうか。角川新字源 p.362 では、 忝(テン、部首は心部)に「かたじけなくする。受けることを謙遜していうことば」とある。ということは、 著者は、<採点者が満点以上の配慮をしたときに、受験者はその配慮、点数をありがたく頂戴する>ということを言いたかったのだ。 難しいな。
p.386 の「リーマン - ルベグの補題」にはびっくりした。関数解析の本で初めて見たのに、大学入試問題でこれを使ってよいとは。 ちなみに、リーマン - ルベグの補題とは次の通りである。数直線上の区間 `I` 上、可測かつ可積分な関数、すなわち、
`int_I |f(x)| dx < + oo`
を満たす関数 `f(x)` に対して、次が成り立つ。
`lim_(alpha ->oo) int_I f(x) cos alpha x dx = 0`
`lim_(alpha ->oo) int_I f(x) sin alpha x dx = 0`
p.387 の「フリートリクスの軟化子」にも驚いた。さきのリーマン-ルベグの補題と同様、関数解析の本で初めて見た。なお、本文では 「フリートリスクの軟化子」とあったのはご愛嬌。一般には「フリードリヒの軟化子」と呼ばれることが多いが、 原語 Friedrichs mollifier から知られる提唱者 Kurt Friedrichs から考えれば、「フリードリクスの軟化子」と表記するのが忠実と思われる。
p.385 の最終行はこのように書かれている万一,東大向けの上記答案をおろ良い大学の答案に書いて,
。
この「おろ良い」というのは九州でよく使われることばで「あまりよくない」という意味である。
詩人の川崎洋が各地の方言を集めていて、肯定的形容詞を修飾する副詞で、
否定的ニュアンスに変えることばは日本語にはほとんどないが、
例外がこの「おろ」ということばだということを言っている。もっとも、九州だから口語では「おろよか」である。
p.284 の 11 行めに、
久留米藩有馬の殿様は,和算の大家で,
(45) の右辺の性質をよく知っていて円分体論を展開している.
とある。
この殿様とは、有馬 頼徸(ありま よりゆき)のことであろう。(45) とは Euler の公式
肝に命じましょうは誤りで、
肝に銘じましょうが正しい。 この「肝に命じる」誤植は共通一次試験にもあった。
レベル可積分とあるが、当然
ルベグ可積分であろう。
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書 名 | Elite 数学 |
著 者 | 梶原 壤二: |
発行日 | 年月日 |
発行元 | 現代数学社 |
定 価 | 円(本体) |
サイズ | 判ページ |
ISBN | 4- |
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