西岡弘明:やさしい組合せ数学

作成日 : 2022-12-12
最終更新日 :

概要

「まえがき」から引用する。

本書は,著者が行っている組合せ数学の講義(90 分,半年間の講義)の内容をもとに作成されている。

組合せ数学の考え方

第 1 章の「組合せ数学とは」で興味深い考え方が表明されている。まず、簡単な例題で見方を少し変えれば容易に解ける問題が組合せ数学にはあることを示唆したあと、 次のように続ける。

この点が他の分野と大きく異なる点であり,少し乱暴ないい方をすれば数え上げのためには方法を選ばないということである。 そのため,組合せ数学には全体を統一して記述する理論がない。

私のように、理論の理解が苦手な者にとってはこのことばは福音である。もっとも、次の章から展開されるさまざまな方法は、まったく理解できないのだった。

順列と組合せ

第2章の「順列と組合せ」では、物の分配という節がある。物の分配の問題は `r` 個の物を分配して `n` 個の箱に入れることをいう。 この問題は次の 4 つに大別されるという。

  1. 異なる物を異なる箱に入れる。
  2. 同じ種類の物を異なる箱に入れる。
  3. 異なる物をを同じ種類の箱に入れる。
  4. 同じ種類の物を同じ種類の箱に入れる。

このそれぞれで次のような制約がありうる

これを受けて第2種のスターリング数が導入され、章の末尾にベル指数が説明される。ベル指数は他の文献では単にベル数と呼ばれている。

第3章は「包除原理」である。この包除原理からオイラー関数に関する有名な結果が導かれる。他にも、乱列やルック多項式の話題が述べられている。 ここでルックとは英語の rook のことで、チェスにおける駒の一種のことだ。将棋でいえば飛車の動き方に相当する。 この rook は普通ルークと長音で表記する。以下は、ルーク多項式について私なりにことばを代えて記す。

ルーク多項式とは、変形盤上で、互いに取り合うことのないルークの置き方の数を表す、形式的な多項式をいう。 変形盤とは、同じ大きさのマスを二次元整数座標に配置した集合のことで、必ずしも正方形に充填されたマスとは限らない。以下変形盤を単に盤という。 形式的な多項式とは、ルーク多項式の `x^k` の項の係数は、盤に置かれた互いに取り合うことのない `k` 個のルークの置き方の数を表すような多項式をいう。 盤を `C` とおき、ルーク多項式を `R_x(C)` で、`k` 個のルークの置き方を `rook_i(C)` で表すと、次の式が成り立つ。 もっともこれは、ルーク多項式の定義ともいえる。

`R_x(C) = sum_(i=0)^n {ro ok_i(C)*x^i}`

なお、0 個のルークの置き方は変形盤 `C` によらず、つねに 1 通りであるとする。

具体的にルーク多項式を書き出してみよう。まずマスの数が 0 の盤を `C_(0)` とする。`C_(0)` に 0 個のルークを置く置き方は 1 通りであるので、次のようになる。

`R_x(C_(0)) = 1`

次にマスの数が 1 の盤 `C_(*)` のルーク多項式を求める。`C_(*)` に 1 個のルークを置く置き方は 1 とおりである。 0 個のルークを置く置き方は 1 通りであることと合わせて、次のようになる。

`R_x(C_(*)) = 1 + x`

マスの数を 2 に増やすといろいろな盤ができる。横方向にマスが隣接した次の形の盤を `C_(**)` としよう。

`C_(**)` に 2 個以上のルークを置く置き方は存在しない。1 個のルークを置く置き方は 2 とおりである。 0 個のルークを置く置き方は 1 通りであることと合わせて、次のようになる。

`R_x(C_(**)) = 1 + 2x`

このルーク多項式に関する展開公式がある。本書の定理 3.4 である。

盤 `C` のマスのうちのどれか一つを選び、印をつける。`C` から印をつけたマスを含む行と列にあるすべてのマスを除いてできる盤を `C_1` とし、 `C` から印をつけたマスだけを除いてできる盤を `C_2` とする。このとき、次の式が成り立つ。

`R_x(C) = xR_x(C_1) + R_x(C_2)`

証明は本書を見てほしい。この展開公式を理解するために、例 3.11 にある次の盤 `C` を考える(下図左)。〇があるマスが展開公式で選んだ一つのマスである。 `C_1` は一つのマスしか残らない(下図中)。また、`C_2` は縦に並んだ二つのマスである(下図右)。したがって展開定理から、

`R_x(C) = xR_x(C_1) + R_x(C_2) = x(1 + x) + (1 + 2x) = 1 + 3x + x^2 `
つまり盤に 2 個、1 個、0 個ルークを互いに取り合うことのない置き方はそれぞれ 1, 3, 1 通りである。

この分解公式と次の本書の定理 3.5 を用いて、ルーク多項式がいろいろ計算できる。

盤 `C` を二つの部分を `C_a` と `C_b` に分けたとき、`C_a` と `C_b` はどの行もどの列も共有していないものとする。 このとき、次の式が成り立つ。

`R_x(C) = R_x(C_a) * R_x(C_b)`

第4章は「漸化式」である。高校の漸化式の発展のようだ。

第5章は「母関数」である。一般化二項定理も扱われている。

第6章は「ポーリャの定理」である。ここでは表題の定理のほかバーンサイドの定理も登場する。群論も扱われ、なかなか骨がある。

数式の記述

数式は ASCIIMathML を、 数式表記は MathJax を用いている。

書誌情報

書名やさしい組合せ数学
著者西岡弘明
発行日1999 年 5 月 13 日 初版第1刷
発行元コロナ社
定価2500 円(本体)
サイズA5判
ISBN
その他草加市立図書館で借りて読む

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MARUYAMA Satosi