宇沢弘文:図形を変換する―線形代数

作成日:2023-07-31
最終更新日:

概要

「はしがき」から引用する。

数学は言葉とならんで,人間が人間であることをもっとも鮮明にあらわすものです.

本書は「好きになる数学入門」全 6 巻のうちの第 4 巻である。

感想

最初は連立二元一次方程式と線形変換である。この最初の P.1 では、平面上の各点を座標で表す方法を説明している。

`(X, Y)` 座標は,英語で Cartesian Coordinates といいます.Cartesian は「デカルトの」という意味で,Coordinates は座標の英語の表現です. 座標という言葉はなかなかうまいやくではありませんか.各店の座にしるしをつけるという意味です.

日本語訳を賛美している。しかし、こんな例もある。p.10 から引用する。

線形変換(3) を上のように,ベクトル `((x),(y))` をベクトル `((x'),(y'))` に写像する変換と考えるとき,マトリックスによる表記法を使うと便利です.

`((x'),(y')) = A((x),(y)) , A = ((5,2),(4,3))`
`A` のような記号をマトリックスといいます.マトリックスとという言葉はもともと、碁盤や将棋盤のように,タテ,ヨコにけいの入った四角の盤を指します. ふつう行列と訳しますが,ここでは,ベクトルと同じように,マトリックス(Matrix)という原語のまま使うことにします.

日本語で書かれた数ある線形代数の本で、行列という言葉を使わずマトリックスで通しているのは珍しいと思う。また、p.107 の次の記載も注目に値する。

(前略)一般に,性質(i),(ii),(iii) をみたすようなマトリックス `A` を正値定形式といいます.正値定形式は Positive-Definite(ポジティヴ・デフィニット)の訳語です. 正値定形式というのは,よびにくいので,ここではポジティヴ・デフィニットという表現を使うことにします.

私が知らなかった用語もある。p.113 から引用する。

一般に,行列式 `Delta` が負となるような対称的なマトリックス `A=((a,b),(b,c))` をカテナリー(Catenary)といいます.`Delta = |{:(a,b),(b,c):}| = ac - b^2 lt 0`.

本書は線形代数一辺倒ではなく、複素数を用いた幾何問題の解法や、立体幾何まで触れられているのが楽しい。ただし、`n` 次元一般での解説はない。 また、線形空間で重要な核や像といった概念の説明もない。なにより、索引がないのが残念だ。

数式記述

このページの数式は MathJax で記述している。

誤植

書誌情報

書名 図形を変換する―線形代数
著者 宇沢弘文
発行日 2000 年 7 月 26 日 第 1 刷
発行元 岩波書店
定価 2800 円(本体)
サイズ B5版 230 ページ
ISBN 4-00-006674-9
その他 草加市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi