まえがきから引用する。
初めてご覧になる読者は,「これが小学生に出された入試問題か」と疑いたくなるでしょうが, 正真正銘の入試問題です。
私は中学受験の経験はないし、また中学受験を体験した知り合いもほとんどいない。 そういえば昔、小学算数事典というような本を近所のお兄さんからいただいたことがあった。最後のほうになると〇〇算という文章題がいくつもあったような気がする。 中学受験の算数はそんなようなものばかりだと思い込んでいた。しかも、未知数を `x` とおくようなことはできないと思い込んでいた。
しかし本書の解法を見てみると、未知数を □ と置いたり `a` と置いたりしている。これにはびっくりした。そうか、未知数を文字で置きかえて演算することは小学生でもやっていいんだ。知らなかった。
問題が解けなかった例を恥ずかしながら明かす。p.29 の問題 10 である。
ここに,それ以上は約分できない分数があります。その分子にある数を加えて約分すると `7/9` になり, 分子から同じ数を引いて約分すると `1/2` になります。その分数はいくつですか。また,分子に加えたり,引いたりした数はいくつですか。
わたしは次のように解こうとした。問題の約分できない分数を `y/x (x!=0)` とする。また、分子に加えたり引いたりした数を `z` とする。問題の条件より、`(y+z)/x = 7/9` かつ `(y-z)/x = 1/2` である。 二つの式を加えて `(2y)/x = 23/18` および `(2z)/x = 18/5` である。 さてこれから、`x, y, z` について解けるかな、あれ、式が一つ足りない!
答を見て、私はバカなことをしていたのに気づいた。「その分数」を求めるために、`x, y, z` の個別の値を求める必要はなく、`y/x` を知ればいいだけだ。それは、 `(2y)/x = 23/18 ` で既に求めている。 すなわち「その分数」は `23/36` である。これは既約分数(それ以上は約分できない分数)である。また、分子に加えたり,引いたりした数は `23/36 - 18/36 = 5/36` だから、`5` である。これは、 `28/36 - 23/36 = 5/36` であることからも確かめられる。
そうはいっても、私にだって意地がある。少しは問題を解きたい。p.53 にある問題 20 はどうだろうか。
下の図の長方形 ABCD の辺 AD, AB, BC の中点をそれぞれ E, F, G とし,FC と AG,EG との交点をそれぞれ P, Q とします。
このとき,PQ : FC はいくらになりますか。もっとも簡単な整数の比で表しなさい。
こうなったらベクトルを使ってやる。`b = vec(AB), d = vec(AD)` とおく。 題意から、`vec(AF) = 1/2 b, vec(AC) = b + d` だから `vec(FC) = vec(AC) - vec(AF) = 1/2b + d`。 一方、`0 lt s, t lt 1 ` に対して、 `vec(AP) = s vec(AG) = s(b + 1/2 d) ` かつ `vec(AP) = s vec(AG) = s(b + 1/2 d) ` かつ `vec(AP) = vec(AF) + t vec(FC) = 1/2b + t(1/2b + d)` であるから `b` と `d` の独立性より、 `s = 1/2 + t/2` かつ `s/2 = t` 。よって `s = 2/3 , t = 1/3`、 つまり `vec(FP) = 1/3vec(FC)` 。また、明らかに `vec(QC) = 1/2vec(FC)` であるので、 `vec(PQ) = vec(FC) - vec(QC) - vec(FP) = 1/6 vec(FC)` 。よって、`PQ:FC = 1:6` 。
こうやってベクトルに固執した解答を書きながら情けなくなった。だいたい、明らかに `vec(QC) = 1/2vec(FC)`
としてしまうのが情けない。本当は、中点連結定理により、など一言添えればいいのだろうが、
それをしてしまうと、`vec(AP)` を求めるためにわざわざ変数 `s, t` を持ち出したのが野暮に見えてしまうのを恐れていた。つまり、`QC = 1/2 FC` がわかるぐらいなら当然 `QG = 1/2 FB` もわかるはずで、
そうなると三角形 AFP と三角形 GQP が相似であることと合わせて、FP:PQ:QC = 2:1:3 であることがすぐに見えるはずだからだ。
pp.93-94 に、入試問題雑感 1 がある。
これまでの 36 問を見て,あなたは中学入試の問題をどう感じたでしょうか。(中略)ここに紹介した問題は高度です。 これでは,学習塾で特殊の受験教育を受けるか、高額で家庭教師を雇わなければ,とても小学生には対応できません。(中略)それにしても, 問題がむずかし過ぎると感じるのは,筆者だけではないと思います。
私もそう思う。
数式は ASCIIMathML 記法を使い、 MathJaxで表示している。
書名 | 解ければ天才!算数100の難問・奇問 PART3 |
著者 | 中村義作 |
発行日 | 1992 年 1 月 25 日(第 2 刷) |
発行元 | 講談社(ブルーバックス) |
定価 | 738 円(本体) |
サイズ | 新書判18cm 248ページ |
ISBN | 4-06-132899-9 |
その他 | 草加市立図書館で借りて読む |
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