河田 敬義:アフィン幾何・射影幾何

作成日:2021-11-16
最終更新日:

概要

クラインのエルランゲンプログラムに関連していろいろな幾何を比較したのち、 アフィン幾何と射影幾何について解説する。

本書は「岩波講座 基礎数学」全 24 巻( 79 分冊) のうちの第 1 回配本のうちの 1 冊である。

感想

私は頭が弱いので、読むところがない。ただ、気になるところがあったので、引用する。 pp.35-36 の個所である。

例 2.10(Menelaus の定理)アフィン平面上に 3 点 `A, B, C` をとり, 3 直線 `BC, CA, AB` 上にそれぞれ `P, Q, R` をとるとき, 3 点 `P, Q, R` が一直線上にあるための必要十分条件は

`vec (BP)/vec (PC) * vec (CQ)/vec (QA) * vec (AR)/vec (RB) = -1`
(2.46)
となることである.

[解] 十分なこと:直線 `PQR` に平行に点 `C` より平行線をひいて `AB` との交点を `D` とする. そのとき例 2.9 (ii) によって

`vec (BP)/vec (PC) = vec(BR)/vec(RD), quad vec (CQ)/vec (QA) = vec (DR)/vec (RA)`
であり,(2.46) の左辺の値は -1 となる.必要なことの証明は,読者諸氏に譲る.

この「十分なこと」と証明の方向性が食い違っているようだ。私の認識では、 「条件 `X` が成り立つための必要十分条件は条件 `Y` が成り立つことである。これを証明せよ。」 といわれたとき、「必要性」として `X => Y` を証明し、次に「十分性」として `Y =>X ` を証明するものと思っていた。 ところが本書では、3 点が一直線上にあるという命題を `X` 、ベクトル比の積が -1 であるという命題を `Y` とすると、 「十分なこと」の証明に `X => Y` を示しているので、食い違っていると思う。私の認識が誤っているのだろうか。 それとも、`X => Y` が成り立っているとき、`X` は `Y` であるための十分条件であるから、このことから、 `X => Y` を導くことを「十分なこと」といっているのだろうか。

気になったので本書の別の表現を探してみた。少し戻って、アフィン空間の性質を述べた p.33-34 から引用する:

(XIX)アフィン空間 \( (\boldsymbol{X}_1, \boldsymbol{V}_1^n) \) と \( (\boldsymbol{X}_2, \boldsymbol{V}_2^m) \) とにおいて,基礎集合の間の写像

`f: ` \( \boldsymbol{X}_1 \) `|->` \( \boldsymbol{X}_2 \)
が, \( (\boldsymbol{X}_1, \boldsymbol{V}_1^n) \) から \( (\boldsymbol{X}_2, \boldsymbol{V}_2^m) \) へのアフィン写像をひきおこすための必要十分条件は, \( \boldsymbol{X}_1 \) 上の 4 点 `A_1, B_1, C_1, D_1` で, \( (\boldsymbol{X}_1, \boldsymbol{V}_1^n) \) 上で
`vec(A_1B_1) = lambda vec(C_1D_1) quad (lambda in RR)`
(2.43)
ならば,\( (\boldsymbol{X}_2, \boldsymbol{V}_2^n) \) 上で
`vec(f(A_1)f(B_1)) = lambda vec(f(C_1)f(D_1)) `
(2.44)
が成り立つことである.

証明 必要なこと:写像 `f` がアフィン写像 `(f, varphi)` を与えるならば,(2.39) によって

`vec(f(A_1)f(B_1)) = varphi( vec(A_1B_1)), quad vec(f(C_1)f(D_1)) = varphi( vec(C_1D_1))`
である.よって (2.43) の両辺に `varphi` を作用させれば,`varphi` は線型写像であるので
`varphi( vec(A_1B_1))=varphi(lambda vec(C_1D_1)) = lambda varphi ( vec(C_1D_1)))`.
すなわち(2.44)となる.
十分なこと:いま (2.43) ならば (2.44) が成り立つことを仮定する.(後略)

このあとの本書の記述によれば、 写像 `varphi :` \( \boldsymbol{V}_1^n \) `|->` \( \boldsymbol{V}_2^m \) が定義されること、この写像は線形写像であること、そして `(f, phi)` がアフィン写像であることが証明され、 証明が完結する。 ということは、この (XIX) の証明に関しては、私の認識と合致している。いったいどうなっているのだろう。

いずれにせよ、もしこの必要十分条件を証明せよと言われたら、 必要性とか十分性ということばを下手に使ったら間違ってしまうかもしれないと私は考える。 そこで私は必要性とか十分性ということばは使わず、《まず `X => Y` を示す(…)。次に `Y => X` を示す(…)。よって証明された。》と書いてしまう。 私の認識が正しいかどうかは、"必要条件 十分条件 証明 site:ac.jp" などという検索条件で調べてみるといいだろう。 サイトを ac.jp に絞ったのは、アカデミックなサイトであれば間違いはごく少ないだろう、 という程度の意味である。

数式記述

このページの数式は MathJax で記述している。

書誌情報

書名アフィン幾何・射影幾何
著者河田 敬義
発行日1976 年 5 月 27 日 第1刷
発行元岩波書店
定価
サイズA5版 145 ページ
ISBN
その他岩波講座 基礎数学 草加市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi